セミナーレポート 臨床栄養におけるオルニチンの的確な使用 演者:医療法人社団悦伝会 目白第二病院 副院長 水野英彰先生
演者:水野 英彰 先生
医療法人社団悦伝会
目白第二病院 副院長

セクション1 褥瘡への的確な栄養管理上のアプローチとは何か?

国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料として、国民の身体の状況、栄養摂取量及び生活習慣の状況を明らかにするために、国民健康・栄養調査が毎年実施されています。平成26年度の調査結果から、65歳以上の高齢者のうち、約2割が「低栄養傾向」にあることが示されました。その原因として、第一に、「食べる」ことが難しくなっていることが挙げられます。すなわち、老化によって引き起こされる骨格筋の減少は嚥下や咀嚼にも影響します。また、老化は代謝や消化機能も鈍化させます。薬を多く服用するようになるのも高齢者の特徴といって良いとおもいますが、薬によっては胃の機能を低下させ、結果的に栄養源の摂取を妨げるものもあります。こうなると、いわゆる「フレイル(虚弱)」、つまり、加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、そこに複数の慢性疾患の併存などの影響が加わって、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態といえるでしょう1)。つまり、フレイルの原因の一つは「低栄養」なのです。御存知のように、低栄養は筋力の低下を促進し、これが基礎代謝の低下、エネルギー消費料の低下、食欲・食事摂取量の低下を次々と引き起こし、さらなる低栄養状態を招きます。すなわち、フレイルサイクルという、負のスパイラルに陥ることになります。フレイルの状態になると、私の経験上、次に起こるのが急性イベントです。2014年から2016年の2年間にかけて、様々な急性イベントにて当院に搬送された患者さんを対象としたデータでは、平均BMIは18.45±0.43、サルコペニアの一次スクリーニングにも用いられる平均腓腹筋長は25.6±3.8cmと、どちらも非常に低値を示しています。また、栄養指標についても、平均TP値が5.9±0.6g/dl、平均アルブミン値が3.0±0.4g/dl、平均プレアルブミン値が15.1±7.1mg/dlと、栄養状態は総じて悪いです。このような高齢患者にはもう一つ、皮膚が脆弱であること、皮膚が薄くなる「菲薄化」が現れる、という特徴があります。皮膚を形成するコラーゲン量は老化とともに低下することが既知でありますが、低栄養はこれに拍車をかけ、スキンテアの症状も現れてきます。よって、褥瘡の発生リスクが高まるというわけです。

図1:低栄養症候群

褥瘡のケアにおいて、局所療法はもちろん大事ですが、一方で、ニュートリション・マネジメントの重要性が学会でもかなり重要視されてきています。これら2つの要素は片方だけではなく、両方実施することが治癒率の向上に繋がるのです。そこで医療従事者としては、褥瘡に対するニュートリション・マネジメントについて、専門職としてきちんと理解し、患者さんの相談に応じて、その知識を提示し、的確に答えることが必要です。では、ニュートリション・マネジメントの中身について、議論していきましょう。褥瘡予防・管理ガイドラインでは、低栄養患者の褥瘡予防のために、疾患を考慮したうえで、高エネルギー・高蛋白質のサプリメントによる補給を勧めています。また、基礎エネルギー消費量(BEE)の1.5倍以上の補給、必要量に見合った蛋白質の補給が推奨されています2)。しかしながら、高齢者に対しては先程申し上げたように食事を摂れない方が多い。従って、何かしらの工夫が必要、ということになります。

当院では、虚弱高齢者に対して「量より質」のケアを実施しています。すなわち、サプリメンテーションの実施です。褥瘡ケアに有効といわれている各種アミノ酸やペプチド、微量元素等を使用しています。ガイドラインの第4版では、これまで掲載されていた亜鉛、アルギニン、アスコルビン酸に加えて、n-3系脂肪酸、L-カルノシン、コラーゲンペプチドも褥瘡患者へ補給する特定の栄養素として推奨されるようになりました2)。n-3系脂肪酸は、マクロファージを活性化することで線維芽細胞の増殖を促進し、コラーゲン合成を高め肉芽形成を促すことが報告されています3)。2件のランダム化試験の結果、n-3脂肪酸を豊富に含有した栄養剤を投与すると褥瘡発生、憎悪予防に効果があったことがガイドラインに明記されています4,5)。L-カルノシンは抗酸化作用を持つジペプチドであり、抗老化ペプチドとしての可能性が示されていますが6)、L-カルノシンと亜鉛の混合物である薬剤(polaprezinc)を4週間投与することで、対象群と比較して、PUSH Scoreを有意に改善したことが報告されています7)。コラーゲン加水分解物については、ある特定のペプチド配列に繊維芽細胞増殖作用があることが報告されており8)、これを投与することでPUSH Scoreが有意に改善したという論文が出版されています9)。

一方で、オルニチンについては、成長ホルモンの分泌促進、また、コラーゲンの原料であるプロリンに代謝されることで、コラーゲンの合成を促進し、創傷治癒の促進に繋がることが推測されています。また、細胞新生に関わるポリアミンに代謝されることも分かっています。実際、褥瘡改善に対する効果を検討した試験も実施されており、動物試験では2倍量のアルギニン投与より効果が高いことや10)、ヒト試験でも褥瘡改善効果が示されています11)。特に、海外における160名の褥瘡患者を対象とした大規模試験では、オルニチンを摂取した群の創傷面積の減少速度がプラセボ摂取群と比較して有意に高値を示したことが報告されており12)、2015年に出版された、日本褥瘡学会編集の褥瘡予防・管理ガイドブック第2版では、オルニチンは「その他褥瘡治療促進のために考慮したい栄養素」の一つとして掲載されています13)。

図2:オルニチンと皮膚機能強化の関係(作用機序)
図3:オルニチンと皮膚機能強化の関係(患者対象試験)

引用:Meaume S et al. The Journal of Nutrition, Health and Aging. 13(7):623-30, 2009

オルニチンは、アルギニンより体内で代謝され生成されるアミノ酸で、機能だけでなく、その構造もアルギニンと非常に類似しています。しかしながら、1分子に含有する窒素の量がアルギニンの半量であることから、腎機能が低下している方、高齢者や腎疾患患者に対してはオルニチンを選択することをお勧めします。実例として、87歳の男性で、仙骨前面に8x5cm2、DESIGN-R合計スコア46点の大きな褥瘡を有する患者自験例においては、BMIが20.8、アルブミン値が2.8g/dlという低栄養状態にあり、eGFRが44.8とgrade3bと腎機能が低下していましたので、腎不全食1,500kcal/日とともに、1日あたり2.5gのL-オルニチンを含有する食品を12週間提供しました。その結果、アルブミン等の栄養スコアは上昇を示し、DESIGN-R合計スコアは46点から32点まで減少しました。

ここまで色々な栄養素の効能を述べてきましたが、創傷治癒過程においては、それぞれ有効に活用できる時期があるのではないかと考えております。例えば、炎症期には炎症細胞の浸潤や壊死組織の貧食が起こり、増殖因子やサイトカイン、プロテアーゼ類の放出がおこりますので、オルニチンやアルギニン、ビタミンCを投与する一方で、低栄養回避のためにはBCAAの補給も必要とおもわれます。炎症が治まって増殖期に入りますと、繊維芽細胞の増殖、細胞外マトリクスの形成、肉芽組織の形成や表皮細胞の遊走がおこりますので、n-3系脂肪酸やコラーゲンペプチド、また、微量元素等を追加することが治癒の促進に繋がる可能性があります。高齢者創傷治癒に対する栄養管理の工夫として総括しますと、虚弱高齢者に発生した褥瘡の栄養管理には「量より質」の管理が実践的であり、多く存在するサプリメンテーションの中から病態にマッチしたものを選択することが有効であるとおもわれます。

図4:皮膚機能強化に関する栄養素の使い分け(時期別)
画像提供:三豊総合病院 皮膚・排泄ケア認定看護師 政田美喜先生

セクション2 周術期 周術期アミノ酸インバランスを考慮したオルニチン投与の有用性

外科周術期と臨床栄養について考えるとき、医師の協力は特に必須となります。1999年の時点で、「術後の栄養療法による蛋白節約効果は著しく限られており、短期のアウトカムにほとんど貢献し得ないこと」また、「近年、手術侵襲を軽減するために開発された手技・処置等を積極的に取り入れることにより術後の回復を促進させること」について、「栄養サポートに興味のある医師は、これらの変化に順応するべきである」として提唱されていました14)

ところで、日本の人口推移・推計は、世界に類を見ない超高齢化社会を示しています。私が受け持っている西多摩圏域における高齢者の食の課題に関する調査報告からは、この圏内の65歳以上15万人に対して約1.5万人、およそ1割がフレイル状態にあることが伺え、また、今後も増加することが推測されています。従って、健康寿命の延伸には高齢者フレイル対策が必須であります。また、高齢化に伴い外科的処置が必要となる高齢者も年々増加していることから、虚弱高齢者に対する外科関連手術に伴う合併症対策も必須であり、アウトカムの一つとしてニュートリション・マネジメントの必要性を提言します。

高齢者外科手術患者の身体的特徴としては、まず、糖尿病や心不全、腎不全、消化管や呼吸器の障害、認知機能低下等の慢性疾患が重複していることが挙げられます。これは、老化に伴う身体機能の低下からどうしても避けられないものです。さらに、骨格筋が低下し、サルコペニアやカヘキシア、フレイルといった症状を呈し、表皮の老化も特徴の一つであるといえます。自験例として、当院で2014年4月から2016年8月までの期間に消化器手術を受けた148名の高齢者(平均年齢74.3±3.1歳)を対象に行ったフィジカルアセスメントの結果、対象者の平均BMIは17.56±1.54、平均下腿周囲長は25.8±3.1 cmであり、また、栄養指標としては、平均アルブミン値は2.9±1.8 g/dl、平均プレアルブミン値は15.9±3.4 mg/dl、平均TP値は6.1±2.1 g/dlという値を示していました。日本人のサルコペニア基準の一つにBMI 18.5未満、もしくは下腿囲30 cm未満という提唱があり15)、従って対象はサルコペニア・低栄養状態にあったと考えられます。

サルコペニアは外科合併症基準であるClavien Dindo分類GradeⅡ以上の合併症発生に関する因子として同定されており、また、先のセッションでも述べたとおり、栄養ネガティブスパイラルに陥る一因ともなり得ます。合併症が発生することにより在院日数が延長され、治療や看護、また、医療費にも影響を及ぼしますので、これは抑えねばなりません。合併症を抑制するための施策としては、開腹よりも侵襲の程度が低い腹腔鏡手術の導入や、手術空間の滅菌、抗生剤の使用等が行われてはいるものの、未だ合併症が無くなることはありません。一方で、手術部位感染(Surgical site infection: 以下SSI)発生関連因子(患者因子)の一つとして「栄養状態」が挙げられています16)。また、静脈経腸栄養ガイドライン第3版には「術後はできるだけ早期から食事又は経腸栄養を開始する」ことが記載されていることから、解決策の一つとして、SSI発生抑制のためにニュートリション・マネジメントを提唱します。

これまで、SSI発生抑制に対し、周術期に用いることが有効であると報告されてきた免疫賦活栄養として、グルタミンやアルギニン、n-3系脂肪酸、HMB、核酸等があります。しかし、日本創傷治癒学会ガイドライン委員会編集の「創傷治癒コンセンサスドキュメント(2016年版)」によれば、一部の栄養素の効果への賛成割合が低いことも事実です。この結果は現状のニュートリション・マネジメントに何かしらの改善が必要であることを示唆していると考えられます。そこで、私としては、コラーゲンペプチドとオルニチンを提唱したいとおもいます。コラーゲンペプチドについては、先に述べたとおりコラーゲン合成に寄与する栄養素であり、創傷治癒を促進する可能性があります。

オルニチンについても、創傷治癒効果については先のセッションにて触れました。なお、その代謝元であるアルギニンは、免疫賦活効果が知られており、この分野で長く用いられてきた栄養素です。しかし、アルギニンは経口摂取時の生物学的利用率が悪く、持続性が短いこと、また、感染症発生時の大量投与や長期使用が推奨されていない、という事実があります。また、オルニチンに関しては、創傷治癒効果だけではなく、周術期に影響を及ぼすアミノ酸である可能性が報告されています17)。婦人科の手術を受けた患者を術式別に低侵襲群と高侵襲群に分け、周術期における血中のアルギニンとオルニチン濃度を観察したところ、アルギニンについては高侵襲手術群と低侵襲手術群の血中濃度、また推移の状況に差が無かったのに対し、オルニチンについては高侵襲群でのみ手術後に血中濃度が特異的に低下していることが明らかとなりました。これは、手術侵襲の強度が高いほど術前後にオルニチンの体内での必要性が高まることを示唆する結果です。

図5:手術の侵襲強度に応じて生体内のオルニチン濃度は変化する

そこで、65歳以上の高齢者で開腹で結腸・直腸切除を受ける患者22名を対象に、術後早期にオルニチンとグルタミンを栄養素として投与した際に、SSI抑制効果が認められるかどうかについて、当院でも検討を実施しました。詳細には、対象者を無作為にオルニチン・グルタミン摂取群と、非摂取群の2群に分け、術後6時間以内から投与を開始し、7日間継続しました。1日あたりのアミノ酸の摂取量はオルニチンが2.5 g、グルタミンが2 gでありました。主要評価項目である術後SSI発生率はJHAISガイドラインに則り判定し、副次評価項目としては血漿アミノ酸濃度、栄養指標マーカー、術後在院日数を検討しました。患者の栄養投与前の背景は図のとおりで、摂取群の方がアルブミン値が有意に低くなっていましたが、それ以外の項目については群間差は認められませんでした。結果として、術後SSIの発生は、非摂取群では11名中4名であったのに対し、摂取群では1人も発生しませんでした。栄養指標として測定したTPとアルブミンは術前では摂取群の方が低く、低栄養状態に傾いていたところ、術後7日目の検討では両群間に差はありませんでした。また、血漿アミノ酸分析の結果、オルニチンについては術後、すなわちオルニチン・グルタミンの摂取開始後にその影響がみられ血中濃度が上昇していましたが、グルタミンの群間差は認められませんでした。なお、在院日数は、摂取群が16.4±2.9日であったところ、非摂取群では25.2±12.1日と、SSI発生の影響が色濃く出た結果となりました。症例数が少ないためこの結果からだけでは確定的なことは分かりませんが、オルニチンとグルタミンの術直後からの投与が術後の状態についてなんらかの改善効果をもたらしている可能性が推測されます。そこで、現在、この結果を踏まえた新しい試験を開始するところです。高齢者の周術期問題の解決に寄与するようなデータを取得できると良いとおもっています。

図6:患者対象検討:高齢者の開腹手術における 術直後オルニチン投与の影響

セクション3 医療経済 オルニチン投与は医療コストにおいて有用なのか?

栄養士や看護師自身が栄養指導計画を練り、勤務先で新たな栄養補助食品の導入について提案するにあたり、「コスト」は避けてとおることのできない問題です。そこで「病院の経営にプラスになる臨床栄養」という観点から議論してみたいとおもいます。

入院時に医療費の自己負担とは別に発生する「食事療養標準負担額」の改訂が進んでいます。負担額は年々引き上げられており、平成28年に260円から360円と改訂されたばかりである1食あたりの負担額が、平成30年には460円まで引き上げられる予定です(一般所得の場合 注セミナー実施は平成29年)。今後、さらなる増額の可能性もあり、いずれは全額負担ということもあり得るかもしれません。そうなった場合、病院は食事の提供について、自助努力が求められるでしょう。つまり、高額な自己負担にみあうような満足度の高い食事の提供が必須となります。満足度を上げる一つの要素として、病院として、患者へ提供するという観点からみると、摂取目的とそのアウトプットが明確に示されるような食事が鍵となると考えられます。そして、患者さんに「病院の食事を食べたい」とおもってもらうためにも、栄養士の果たす役割は非常に大きくなるとおもっています。

図7:食事療養費における患者負担

満足度を上げる一つの例として、愛媛大学医学部附属病院の食事を紹介します。栄養部部長の利光久美子先生が愛媛大学に赴任されて最初に驚かれたことは、残食率の高さだったそうです。そこで、利光先生はホテルのシェフを調理師として雇用し、限られた予算の中で豪華な食事を作る、という対策を立てられました。その結果、残食が減り、これが患者のエネルギー充足率アップに繋がる、という成果が得られました。もちろん、愛媛大学は特殊な例かもしれませんが、これからの病院食に求められるものの形のひとつかとおもいます。しかし一方で、管理側から考えると、食材費が上がるわけなので、何か見返りが必要ということになりますが、そこは「トータルコスト」で考えれば良いのです。では「トータルコスト」に含まれるものを考えてみましょう。病院が患者さんをケアするにあたり、必要となってくるもの全てが含まれます。薬剤や食事材料費だけではなく、光熱費や人件費も含まれます。これらの費用を減らすためにはどうすれば良いか?例えば人件費について、看護師の活動をベースに考えると、患者の処置に充てる時間(トランス(移動・移送・転院)、喀痰、トイレケアなど)を減らす、資材(紙製品やおむつ)の使用回数を減らす、在院日数そのものを減らす、ということが挙げられます。では、これに関して栄養士が病棟でできることについてはどうでしょう?すなわち、排泄や感染、スキンなどのトラブル、これらを食事の工夫で抑制できるのではないでしょうか。また、もし食事の制御でSSIを下げることができれば、抗生剤の使用量も減らすことができます。在院日数の短縮に繋がればさらにコストが下がる、というように、栄養士もトータルコストの削減に寄与し得る可能性があるのです。

同様に、病棟だけではなく、地域包括ケアについても考えてみましょう。健康寿命(健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間)を延ばすことはすなわちADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)を維持することです。食事の改善でこれを成し遂げられれば、この高齢化社会において、健康寿命が延び、結果的に医療費削減、地域の活性化にも繋がることが期待されます。

そこで本日先のセクションでご提案した、褥瘡改善やSSI発生率低減に関与する可能性があるといわれるオルニチンが、医療コストの削減という観点でどのように寄与し得るか、ということを考えてみたいとおもいます。オルニチンは食物素材では「しじみ」や「エノキダケ」に多く含まれています。しかし、実際に食物を毎日大量に摂取することでオルニチンの持つ効果を得ることは、研究上の有効摂取量から考えると現実的ではないですよね。となると、サプリメントで補給することを考えるわけですが、その際、患者さんに自費での購入をお勧めするのと、病院から食事として出します、というのでは、どちらが患者さん、また、ご家族の方に対する説得力があるかというと、やはり後者の方が信頼度は高いといえるでしょう。

では、治療にかかるコストと予防に対するコストを見積りながら、サプリメントを食事として提供した場合に、果たして経費を削減することができるのかについて、実際のケースに落とし込んで一緒に考えてみましょう。こちらは、看護師で医療経営コンサルタントの田中智恵子先生によるシミュレーションです18)。想定するケースは、80歳男性が大腿骨頚部骨折で入院中、仙骨部に軽度の褥瘡を有した場合、とします。褥瘡を予防しようとすると、看護師さんが2時間に1回の体位交換を行い、さらに、同時に褥瘡が発生していないかどうかの観察が必要となります。治療は行わないので材料費等は特にかかりません。よって人件費のみが生じ、1日あたり2,240円の経費がかかります。一方で、褥瘡ができてしまった場合、体位交換と観察の頻度は予防の場合と同一ですが、処置が必要となります。処置を行うためには、医師やWOCナース、栄養士、薬剤師、病棟ナース、理学療法士の人件費と、材料費がかかってきます。これらを合計すると、1日あたり8,275円のコストが生じてしまいます。つまり、予防の方がコストは少なく済み、さらに、褥瘡ができてしまった場合は1日でも早く治療しなければ益々費用が嵩む、ということです。

ここでオルニチンですが、先行研究の結果、その摂取により対照よりも褥瘡を有意に速く改善する効果が示されていますので10)、単純計算ですが、処置が必要な期間が半減すれば、費用も半分になる可能性が出てくるわけです。SSIの有無でいうと、この差はもっと大きくなります。大規模先行研究の結果では、SSIの有無により、約80万円のコスト差があることが示されています。それは、SSIが起きた場合に必要となる被覆材や外用薬を含む局所治療費が高額だからです。抗菌剤自体の単価は1日でも使用期間が延長すれば包括医療費支払い制度方式(DPC)を採用している病院にとっては大きなコストカットとなります。つまり、SSIの発生率を1%でも下げることがとても大事になってきます。従って、食材費をさらに切り詰めるようなコスト削減よりも、治療のトータルコストに対して「食材費に特化しない」栄養士からの提案、食材費を多少上げても「トータルコストを削減する」ことができる、というプランを現場に挙げることの方が、経営陣の見る目はずっと変わるのではないかとおもいます。当院では、現在、オルニチン・グルタミン含有食品を腎不全食に組み入れたメニューの提供を実施しています。1日2回、朝夕の食品摂取で1日あたりの食費は少しアップしますが、これによって得られる利益は大きいと考えています。

図8:褥瘡発生による損失(シミュレーション)
図9:手術部位感染発生による損失(シミュレーション)

医療従事者の皆様へ
オルニチン含有食品について興味のある方については以下までお問い合わせください。
キリン株式会社 問合せTEL:0120-49-0610

記事提供:キリン株式会社

【参考文献】
  1. 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業) 総括研究報告書 後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究 研究代表者 鈴木隆雄
  2. 褥瘡予防・管理ガイドライン,第4版.褥瘡会誌 17:485-557, 2015
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  18. 看護師の質問に専門家が答えるお役立ちサイト ナースの星Q&Aオンライン 患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになるシリーズ第2回 http://www.nurse-star.jp/colum/detail/232
ALMovie「予防的スキンケアのポイント」