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公開日:2018/3/29 ※この記事は公開当時の情報です。ご留意ください。
アルケア株式会社
地域包括ケアシステムの構築が推進されている今日、在宅における褥瘡ケアにおいても多職種連携の視点が欠かせない。在宅での褥瘡ケアは局所治療のみならず、地域でその人らしく生きていくという患者・家族の希望や生き甲斐などに基づいた目標とケア計画を、ケアに関わる全員がその専門性を持ち寄り共有することが求められる。それらを通して在宅医療のあり方を学ぼうという本シンポジウム。在宅褥瘡ケアに必要な知識と技術、特に局所ケア以外の面からの包括的なアプローチ、また先駆的なICTを使用した情報共有・連携方法の実践例が紹介された。各演者の講演内容およびディスカッション内容の要旨を紹介する。
彦根市立病院では、平成28年4月に在宅医療支援室を立ち上げた。スタッフ数は当初の3名から6名に増え、切手先生を含む2名の医師が毎月120件ほどの訪問診療を行っている。
日本褥瘡学会は「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる」と褥瘡を定義しているが、治りやすい褥瘡と治りにくい褥瘡がある、と切手先生。創部に感染を生じているいわゆる「汚い褥瘡」は治りにくく、デブリードマンによる壊死組織の除去と十分な洗浄が優先される一方、「きれいな褥瘡」は薬剤処置や被覆材で閉鎖ドレッシングを実施することで治癒に向かうという。
バックグラウンドの異なる個々の家庭を訪ねて多種多様な褥瘡の治療を行ってきた切手先生が強調されたのが、「局所ケアだけが褥瘡治療なのではなく、在宅では特に栄養管理と体圧調整にも焦点を絞っていく必要がある」ということだ。実際の症例(図1)から、その重要性について解説された。
これらの症例から、栄養状態の改善が褥瘡治癒に影響を及ぼすこと、生活の中では褥瘡の発生要因である圧迫やずれを完全に除去することは難しいこと、関わるスタッフ間の連携と家族の協力は、褥瘡治療の大きな推進力になることが示唆された。
在宅訪問診療を含め褥瘡とかかわってきた20年を通して、「褥瘡をどうやって治癒させるか」から「褥瘡ができた原因、褥瘡を治す理由、褥瘡治療の到達目標(治す?悪化を防ぐ?緩和対策?)は、一人ひとり異なる」という考え方に変化していった、と切手先生は語る。
在宅患者ごとに異なる暮らしの中で最適な褥瘡ケアを継続するためには、お互いが“他”職種の専門性や活動を理解すること、そして日常のケアを支えてくれる家族のことも考慮し、生活環境を整えるための連携をも求められる。「局所・全身・環境」(図2)からアプローチするオーダーメイドのケアの視点が、在宅褥瘡ケアには欠かせない」と結ばれた。
切手先生の「褥瘡治療には栄養も重要」というメッセージを受け、管理栄養士として訪問栄養指導を実践している江頭先生は、在宅における食支援のあり方について解説された。
訪問栄養指導利用者の多くは食べる機能に問題を持っており、食事にも何らかの工夫やサポートが必要である。その必要性に気づき早期に指導介入できるほど、食べる機能の回復にもつながりやすいため、利用者との接点を持つケアマネジャーや訪問スタッフは、栄養状態や食事作りに関する問題を理解し共有することが大切だ。さらに、在宅では「栄養状態」「摂食・嚥下機能」だけでなく、生活視点からとらえる「食生活のアセスメント」も欠かせない(図3)。買い物、調理、食事介助、後片付け、ゴミ出しなどを誰が担っていくのか、経済的な問題はないかなどの課題を調整してこそ、栄養管理を生活の中の食支援に落とし込み、継続してゆくことが可能になる。
管理栄養士は在宅食支援の中で、栄養状態の適正化(栄養補給)、嚥下調整食の工夫(食形態)の両面を総合的に考え、指導をしている。
食事はあまり食べられないが、間食としてお菓子は食べられるという場合、原料に小豆やクリームなどを使ったものに着目。水羊羹、シベリアケーキ、お饅頭、シュークリーム、ロールケーキなどは、砂糖や脂肪が使われ、少量で高カロリーの優れものも多い。それらを食べやすくする管理栄養士ならではのテクニックを紹介する江頭先生。
水分と熱を加えてお饅頭の皮をしっとりさせる方法や、ロールケーキのスポンジを滑らかに食べやすくするためには、クリームとスポンジを混ぜ合わせてから牛乳を加えるなど、「嚥下食作りのテクニックを応用」しているのだという。
濃厚流動食は飲みにくいという相談を受けた時は、凍らせる、温める、スポーツドリンクで割る、牛乳の代わりにスープや蒸しパンの材料にするなど、市販の調理済みのものをアレンジ(再加工)する具体的な方法も伝えているそうだ。バリエーションも豊富なので、「アレンジの例として紹介すると、各家庭ごとに食べる人の好みに合わせたオリジナルメニューもでてきます」と楽しそうに笑う江頭先生。
さらにその食事をどう安全に食べるかの支援も、在宅では欠かせない要素だ。食事前後の口腔ケア、使いやすい食具、食べやすい姿勢、個々の状態に合った一口量や食べる速さ、食事形態、むせた時の対処法など、最適な環境を整えるためには、多職種が関わりその専門性が理解され活かされる連携が望まれる。
「褥瘡治療には栄養も重要」と提唱されて久しいが、現実には食事量が少なく栄養状態の悪い高齢者は在宅に多く、褥瘡もできやすく治りにくい。
褥瘡予防へのアプローチとして、訪問栄養指導による「おいしく楽しい食支援」は進化・普及している。今後もますます注目されてゆくことだろう。
高橋先生は、東京23区内で最も高齢化率の高い北区で、病院・在宅両方の現場経験を豊富にもつ看護師。皮膚・排泄ケア認定看護師として、地域の訪問看護師の相談や同行訪問を行なっている。
「硬い布団に寝かせておくと床ずれができることや、体の向きを変えてあげなければいけないなんて、知らなかった」
これは自宅で発生した巨大な褥瘡が治ることなく亡くなった方の家族の言葉だ。地域の医師や看護師が受診時に褥瘡予防の指導をしていてくれたら、という思いも強く、このような不幸な結果を避けるため、地域全体の意識の底上げが課題、という。
圧迫は褥瘡発生リスクを高めるため、施設での除圧マットレスの導入に対して2017年4月より、職場定着支援助成金制度も設けられており、国も予防には力を入れている。OHスケールを用いて褥瘡リスクをアセスメントすると共に、自力体位変換が可能か、家族の介護力はどの程度かなどの条件から、適切なものを選択する(図4)。
ところが、適切な除圧マットレスを選定したにもかかわらず、通常の三つ折マットレスを使うように除圧マットレスの上に布団を敷いて褥瘡が悪化した例もあり、正しい使用法を伝えることと正しく使用されているか確認することが大切であることを訴えた。
また、座位の姿勢が崩れて皮膚にずれが生じると、弱い圧でも褥瘡ができやすくなるため、正しく安定した姿勢を保つことも注意すべきポイントである。特に呼吸器疾患や経管栄養で長時間頭側挙上する場合、日常的なケアを行う家族にも頭側挙上の原則を指導することが大切、と語った。
シーティングに対しても初の診療報酬である「疾患別リハビリテーション料」が設けられたので、フォーマルな形での相談もしやすくなった。真皮を超える深い褥瘡を持つ患者への訪問看護に対して皮膚・排泄ケア認定看護師が同行することで「在宅患者訪問看護・指導料」が、退院後1カ月以内の病院看護師の訪問で「退院後訪問指導料」が算定できる。事業所ごとに算定条件を満たせるか、という違いはあるが、連携を支える選択肢として活用していこう、と呼びかけた。
地域での多職種連携は、所属機関が各々異なるために手間と時間がかかる。それを解決してくれたのがICTの活用、と一例を紹介された。
退院指導時より患者の娘が訪問介護を拒否し、退院後のケアがスムーズに進まず、「何がうまくいかないのか」「それはどういう事情があるのか」などがタイムラインに書き込まれる。病院スタッフを含む全メンバーが一斉に情報を受け取り、それぞれの専門領域からのアドバイスを行い、対応可能なことを迅速に実施。その結果、娘も訪問サービスを受け入れるようになり、訪問スタッフの介入によって褥瘡も改善していった。その経過の書き込みは、病院スタッフから在宅スタッフへのねぎらいや、喜びの共有となり、より連携が強まったそうだ。
その後さらに使い勝手の良いMCS(メディカルケアステーション)を導入し、現在もこのシステムによる情報共有を行なっているという。
ICTは、これからの多職種連携のカギとして欠かせないものになりそうだ。
内科開業医として在宅訪問診療に携わっている土屋先生。在宅チームは職種ごとに事業所が異なる場合も多く、関係者全員が集まることが難しい。従来、電話、ファックス、連絡ノート、カンファレンスなどで溝を埋める工夫をしてきたが、誰もが気軽にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を使いこなす時代とあって、最近はメーリングリストやラインなどを活用している在宅チームも増えている。
一方、ラインなど一般的なSNSは使いやすい反面、情報漏洩防止対策が必須である。患者のプライベート情報を守るため、日本医師会は非公開型のプライベートSNSの利用を呼びかけている。
高橋先生も紹介されていたMCSは、情報のセキュリティを含む医療介護連携システムとして注目されている、医療介護専用の多職種連携情報共有ツールである。現在、土屋先生の所属する豊島区医師会も含め、200か所以上の医師会で採用されているそうだ。
在宅患者の入院時、病院スタッフから患者の経過写真や退院後の褥瘡処置の手順書などが次々とタイムラインに添付され、退院後を預かる在宅チームは大変心強かったという土屋先生。
続いて紹介された「褥瘡ケアサポートアプリ(アルケア株式会社提供)」(図5)は、MCSと連動してデータが蓄積される仕組みだ。すでに9月より東京都豊島区・北区においてパイロットが始まっている。「褥瘡リスクサポート」「褥瘡写真管理機能」「教育コンテンツ」により、褥瘡予防および発生した褥瘡への適切な症状管理のための情報共有ができるツールである。
今後、介護スタッフや家族も褥瘡ケアを含む医療的ケアの担い手として、正しい知識を身につける必要がある。
「今回話題になった栄養やシーティングに関するサポートアプリが開発されれば、さらに質の高い在宅褥瘡ケアが可能になるだろう」との期待を込めて、土屋先生は講演を結ばれた。
専門医による褥瘡治療が必要な時、すぐに駆けつけられる態勢が整っていない現状(切手先生)や、傷を診られる医師がいないという訪問ナースからの不満(塚田先生)にどう対応したらよいのか。フロアからは本学会ICT委員長の高林克日己先生が「訪問医でなくても、専門医がICTを活用して画像をもとに一例ずつアドバイスをしてくれたら、褥瘡ケアの質は飛躍的に向上すると思う」と発言。
土屋先生は「情報共有の必要な患者と共有するメンバーを選択し、専門家の情報を画像や動画も使って確実に伝えることが大切」とICT活用のコツを伝授された。
一方、「ICT同様、チーム間のコミュニケーションが大切。医師にはチームメンバーの意見を受け止めるコミュニケーション能力が求められる」とチームビルディングへの意見も聞かれた。また、在宅での褥瘡は医療者以外の在宅力による早期発見と正しいケアが必要という視点から、日本褥瘡学会ではヘルパー・家族を対象にパンフレットを作成し、全国的に働きかけていく(塚田先生)とのこと。
低栄養という褥瘡発生要因への対処方法は、まず「食べる」こと。経管栄養との併用も含め、必要な栄養量を意識し、楽しくおいしい食事から栄養を摂ることが理想。栄養を入れる手段は多々あるが、本人の満足に加えて「咀嚼という行為による刺激が全身に与える影響は大きい」(丸山先生)と、『栄養量を満たす』ことと『食べる』ことは異なることが強調された。
食事に大切なポジショニングやシーティングについては、「寝ているときのポジショニングが座ったときの姿勢に影響する」(高橋先生)「本来安楽な姿勢であっても、自分で食べるという動作が入ることで体幹が傾くことはよくある。場面ごとの姿勢の調整が必要」(江頭先生)と、生活に結びついた褥瘡予防についての追加意見もあり、活発な討論が交わされた。
最後に「在宅褥瘡ケアにおける多職種連携の取り組みを確立し、緩和ケアや認知症ケアにも広げていこう」と丸山先生が呼びかけ、合同シンポジウムを終了した。
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図1 訪問看護師における情報リテラシー調査(n=66)
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図2 情報サイトの認知度、活用度を上げるために