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  • 第26回日本慢性期医療学会「褥瘡処置におけるトータルコストの削減~ランチョンセミナー1~」

公開日:2019/4/17

 第26回日本慢性期医療学会「褥瘡処置におけるトータルコストの削減~ランチョンセミナー1~」

※この記事は公開当時の情報です。ご留意ください。

座長:安田 浩 先生
産業医科大学病院
形成外科 診療教授
講演:肱岡 純子 先生
医療法人社団明愛会
大平メディカルケア病院
看護部長

開催:2018年10月11日(木) 会場:城山ホテル鹿児島
発行:アルケア株式会社 編集/制作:メディバンクス株式会社 2019年2月作成

Introduction

褥瘡は、発生から治癒迄の期間が長引くほど患者の苦痛や負担が大きくなる上、その処置を行う医療者が費やす時間や手間、使用薬剤や創傷被覆材の費用など、トータルコストに与える影響は大きい。病院経営上、コスト削減が提唱され、単価の高い薬剤や創傷被覆材の購入・使用を控え「今あるもの」での処置が行われがちである。
本セミナーでは、慢性創傷として治癒方向に向かわない「変化のない、むしろ悪化する」褥瘡の処置について、創傷治療の専門家である形成外科医と病院経営管理に参画する看護部長の視点から、「褥瘡処置におけるトータルコストの削減」をテーマに取り上げた。各演者の講演内容要旨を紹介する。

Lecture 1 褥瘡局所治療の基本

褥瘡治療はTIME理論に沿って

安田 浩 先生産業医科大学病院
形成外科 診療教授

褥瘡治療は医療現場の悩みの種で、私たちもいまだに悩むことが多い。褥瘡処置のトータルコストを考える上で、まず褥瘡の局所治療の基本を把握する必要がある。上皮化の一歩手前で治癒に向かう動きがない停滞している傷—慢性創傷—を治癒に向けて動かすにはどうしたら良いのだろうか。
本来細胞増殖によって上皮化していくべき傷が閉じないケースの多くは、滲出液が多い印象がある。このことが傷の停滞にどう関連があるのかを知っておかないと、適切な褥瘡処置は行えない。
そこで広く活用されているのが、TIME理論(図1)である。慢性創傷の局所評価を行った際、 T:壊死がある、 I:炎症・感染がある、 M:湿潤環境のバランスが悪い、 E:上皮化がうまく誘導されていない、 という問題があると、傷は停滞する。
そこで、その傷に生じている問題がTIMEのどの要素が強いのかを正しくアセスメントし、それを順に解決していくと傷は動き出す。

図1:TIME理論

褥瘡ではないが、乳がん術後の化学療法中、ハイドロコロイド材を1カ月以上使用しても閉じない症例を経験した(図2)。黄色壊死が付着し滲出液が多いためT・Iの要素が強い時期と評価し(図2-①)、まず洗浄と外用剤により壊死を取り除きながら感染を抑えた。9日後、壊死が取れ健康な肉芽が上がってきたので、Mの要素に移行したと判断し、適切な湿潤環境になるよう外用剤を変更した(図2-②)。
このようにTIME理論に沿った治療を選択していくと、傷は治癒に向かって動き出し、初診後1カ月で略治、2カ月で治癒した(図2-③)。

図2:TIME理論をふまえた治療

慢性創傷が治りにくい原因のほとんどは、Mの湿潤環境のアンバランス、滲出液が多すぎることによる炎症期の遷延である。そのため炎症期は乾燥気味に管理し適切に滲出液を減らすことが重要になる。滲出液が減り乾燥気味になってきたら、炎症期を抜けたということなので、ここで初めて適切な湿潤環境を保つことが求められる。
これは、急性創傷と慢性創傷とでは滲出液の組成が異なり、治癒しない褥瘡のような慢性創傷からの滲出液は炎症性サイトカイン濃度が高い状態で持続し、細胞増殖にとって抑制的に働くためである。
細胞増殖に必要な湿潤環境もバランスが悪ければ逆効果になることを理解し、細胞増殖を妨げる滲出液を適切な滲出液にコントロールする技術が慢性創傷の保存的治療のポイントとなる(図3)。

図3:TIME理論からみた保存的治療の選択

壊死付着期において、壊死除去剤は最近薬剤が限られており、その使用法にもコツがある。
創傷被覆材は密閉することで感染を助長するリスクがあるため、使用上の注意点を熟知していないと使いこなせない。そのためこの時点では抗菌剤を選択することが一般的であり、健康な肉芽形成以降、創傷被覆材も選択肢としている。

滲出液からみた外用剤の選択

外用剤を選択する際もTIME理論に照らし合わせ、創傷の状態や目的を意識して選択する。褥瘡のステージ(壊死付着、感染、肉芽形成、創保護いずれの期にあるのか?)、滲出液の量(創傷被覆材を使うのか、外用剤で対応可能か、1日の処置回数は?)、主剤(感染対策目的か、肉芽形成促進目的か)、基剤(保湿か、吸水か、創保護か)など、何に基づいて選択するのかを明確にする。
滲出液量管理の視点から外用剤を使用する場合は、基剤の保水性で考える。保湿、保水目的の場合は油脂性基剤(例:白色ワセリン<ワセリン、プロペト®>、アルプロスタジル アルファデクス<プロスタンディン®軟膏>、抗生物質軟膏、酸化亜鉛<亜鉛華軟膏>)、加水目的の場合は乳剤性基剤(例:スルファジアジン銀<ゲーベン®クリーム>)、吸水目的の場合はマクロゴールなどの水様性基剤で創面の水分を吸い取る(例:ポピドンヨード・白糖<ユーパスタコーワ軟膏>、カデキソマー・ヨウ素<カデックス®軟膏>、ヨウ素<ヨードコート®軟膏>、ブクラデシンナトリウム<アクトシン®軟膏>)などの使い分けをする。肉芽形成期に過湿潤状態にならぬよう余分な水分を吸収することは、褥瘡管理の重要なファクターだと考えている。
しかし、現実の医療現場、特に療養型中心病院では、「高額な薬剤を使いにくい」、「薬剤の種類が限られている(または多すぎて使い分けがわからない)」、「褥瘡管理に詳しいスタッフばかりではない(のだが誰もが褥瘡処置に関わっている)」など各病院の事情・環境の下で褥瘡処置が行われていることが多い(図4)。

図4:療養型中心病院での褥瘡管理例

「使えるもの」での治療のみでは、治癒までに時間と医療従事者の手間がかかることを強調したい。
滲出液が多い肉芽面へは、吸水性基剤の軟膏(ワセリン系外用剤から、アクトシン®軟膏が理想であるが、現実はユーパスタコーワ軟膏や短期間であればクロマイ®-P軟膏が多用されている)を外用する。滲出液からみた外用剤の選択を図5に示す。

図5:滲出液量からみた外用剤の選択

注:薬剤名は本文初出時に一般名<製品名>で表記した。

創傷被覆材の分類と選択

外用剤の上には、十分吸水できるガーゼ(可能であれば非固着性ガーゼ)を置く。創傷被覆材は、大きくファイバー材、フォーム材、ハイドロコロイド材に分類することができる。使用する際は、TIME理論に沿って創部の深さや滲出液の量に合った適切なものを選択する。細胞の上皮化を促すベストな環境は、肉芽面が適度な湿潤、周囲皮膚が乾燥した状態であり、この環境を維持するには圧倒的に創傷被覆材が有利である。フォーム材は汎用性があるが、粘稠な滲出液は吸水しづらいことも把握した上で使用する。ハイドロコロイド材は種類によって吸水量にも差があるので、滲出液の状況で使い分けるべきである。
創傷被覆材使用上の注意点として、貼ったままにしておくと感染のリスクが高まることを処置者が意識しフォローすることが重要である。観察と交換を怠ってはならない。「1週間迄は貼ったままでよい」は「1週間はがさなくてよい」とは全く違うことは言うまでもない。
とはいうものの、コストを考えると最低3日ほどは貼っておきたいのが病院の事情と思われる。毎日交換が必要になるような傷には、創傷被覆材は適していない、と判断するべきであろう。
創傷被覆材選択の目安として、創部の深さと滲出液の量に着目した大浦紀彦先生の図を紹介する(図6)。

図6:創傷被覆材の選択

慢性期医療における褥瘡管理の問題点改善に向けて

慢性期医療現場での褥瘡管理は、急性期病院から搬送される際の褥瘡持ち込み、排便処置が褥瘡処置に与える影響、患者に与える苦痛、コストと手間が病院経営に与える影響など、多々問題を抱えている。これらの改善に向け、私なりのまとめをしてみたい。

①適切な湿潤環境への正しい理解を深める(図7)

適切な湿潤環境を再認識し、過剰な滲出液には正しい処置を行って早期に炎症期を脱する。

図7:傷の水分管理から見た考え方(私見)

②「これしか使わない」は間違い

処置者の好みや、使い慣れていることによる扱いやすさはあるにしても、TIME理論に沿った処置法、処置材料を選択できる能力を持つことが重要である。すべての外用剤、創傷被覆材には利点と欠点がある。それを踏まえて適正な選択を心がけるべきである。

③創傷被覆材は正しく使用する

創傷被覆材は、密閉環境による感染のリスクを常に念頭に置き、交換しなくても観察は必須である。初回交換は、変化を確認するために、貼った人が行う。

④行った処置へのフィードバックを心がける

褥瘡管理にはある程度のtry&errorはつきものである。自分の行った処置に責任をもってフィードバック・共有することが重要である。

⑤処置材料の情報収集を欠かさない

医療現場におけるコストは処置材料の準備時間、処置の時間、人件費まで含まれる。従って、処置のしやすさや治癒期間の短縮が、コスト削減に影響するという視点で処置材料を選択することも重要である。側腹部熱傷処置における非固着性ガーゼへの変更症例を図8に示す。

図8:側腹部熱傷のガーゼからエスアイエイド®への変更例

エスアイエイド®は、図9に示すように肉芽面はwetに周囲皮膚はdryになるため褥瘡処置においても滲出液管理と創刺激軽減のために有用である。
実際に、外勤先の大平メディカルケア病院との臨床研究でも、褥瘡処置材料の見直しがもたらす効果・有用性を示すことができた。同院看護部長の報告と合わせて参考にしていただければ幸いである。

図9:創傷に貼付したエスアイエイド®交換時

Lecture 2 褥瘡処置における院内の取り組み~褥瘡処置の負担軽減を目指して~

褥瘡処置に対して抱えていた課題

肱岡 純子 先生医療法人社団明愛会 大平メディカルケア病院
看護部長

当院は、一般病棟20床、地域包括ケア病床24床、療養病棟120床の、トータル164床の慢性期病院である。褥瘡保有率は、主に持ち込み褥瘡が多く10%程度である。褥瘡処置材料は、滲出液の少ない褥瘡には創傷被覆材を使用しているが、滲出液の多い褥瘡は、院内で看護助手が褥瘡パッドを作成し、使用している。
高齢者が多く、スキントラブルや褥瘡発生のリスクが高いため治療にも難渋しており、高価な創傷被覆材が保険請求できない病棟もある中で、高価な医療材料を無駄にしないためには、処置材料を適切に選択し、正しく使用できるスキルを院内スタッフに徹底する必要があった。また、褥瘡処置材料である褥瘡パッド作成に費やされる人的コストと時間的コストも看過できない課題であった。
そこで、院内の褥瘡処置に対する研修を継続すると共に、褥瘡処置に使用している褥瘡パッドの準備作業についての検証を行った。準備作業にかかった人員と時間を割り出し、市販の創傷用シリコーンゲルドレッシング、エスアイエイド®を導入した場合とのトータルコスト比較を行った(図1)。
エスアイエイド®による1枚当たりの材料コストは高くなるが、他の創傷被覆材に比べると安価であり、すでに滅菌包装されているため、準備に要する人的コストと時間的コストを削減することができた。

図1:褥瘡処置に使用する材料の準備作業の検証

従来型ガーゼとエスアイエイド®の臨床研究

褥瘡処置における従来型ガーゼとエスアイエイド®の処置を比較検討した。

<方法>

  • 産業医科大学病院および大平メディカルケア病院の倫理委員会の承認を得た。
  • 大平メディカルケア病院における患者8名の同意の下、褥瘡処置で従来型ガーゼ(褥瘡パッド)とエスアイエイド®を2週間ごと交互に使用し、計8週間かけて臨床分析を行った。
  • 看護師35名にエスアイエイド®を用いた処置についてアンケートを行った。
    それぞれ貼付時と剥離時を比較してみると、褥瘡パッドはガーゼのずれ・交換時の出血が見られたが(図2a)、エスアイエイド®には、ずれ・出血はほとんどみられなかった(図2b)。臨床結果分析においても、固着・固定材・二次ドレッシングにおいて有意差が認められた(図3)。
図2a:従来型ガーゼ(褥瘡パッド)使用症例
図2b:エスアイエイド®使用症例
図3:臨床結果分析(有意差あり)

漏れ、疼痛、出血交換時、交換時間については有意差までは出なかったもののエスアイエイド®の方が改善された傾向があった。看護師35名へのアンケートでは、「疼痛の軽減」については非常に良い80%、良い17%、「今後の使用」については積極的に利用したい77%、あれば使用したい23%と良好な回答を得られた(図4)。

図4:アンケート結果(35名)

<結果>

  • エスアイエイド®は従来型ガーゼ(褥瘡パッド)と比較して固着しにくい点、固定材や2次ドレッシングが不要である点で優位に優れていた。
  • 交換時間においては従来型のガーゼに比べてエスアイエイド®は、短時間で処置できた傾向があった。
  • アンケートでエスアイエイド®はズレが少なく、処置の負担が軽減したとの回答が多かった。

<考察>

  • 高い密着性を持つエスアイエイド®は、創傷へのズレを防ぎ、治癒促進を図れると考えた。
  • エスアイエイド®を使用したことで、剥離時の固着に伴う新生組織の損傷を防ぐことができ、処置スタッフの労力の軽減に寄与できると考えた。

<結語>

  • エスアイエイド®は従来型ガーゼと比較して褥瘡処置における患者および医療従事者の負担を軽減し、臨床的に有用である。

以上のように褥瘡処置における手間や時間的コストを削減することができたことに加え、これまでハイドロコロイドなどの創傷被覆材を貼付していた褥瘡も、適切なアセスメントに基づくエスアイエイド®への変更で、材料コストも削減することができた。
褥瘡管理におけるコストは、材料コストのみならず、人的コストや時間的コストも含めたトータルコストで考える必要がある。「低価格のものを導入して材料コストが削減できても、日に何度も交換が必要で、看護師の手間や人件費に対するコストがかさんだ場合、トータルコストとして削減になっているのかをよく考えなければならない」という安田先生のコメントを紹介したい。
慢性期病院におけるエスアイエイド®のメリットを図5に示したが、その前提として、良い材料を適切に使用できる看護師のスキルを高めることを忘れてはならない。

図5:慢性期病院におけるエスアイエイド®のメリット

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