公開日:2020/7/10

看護師によるエコーのススメ~導入、膀胱エコー~

弘前大学医学部附属病院
総合診療部 学内講師
小林 只 先生

エコーは「第2の聴診器」!誰が使っても良い

「携帯型超音波診断装置」という正式名称には、なぜか「難しそう、高そう」というイメージがついてきます。それもそのはず、漢字が9文字も並んでいるのですから。この記事を読んでくださっている読者のみなさまは、ぜひ「ポケットエコー」と親しみを込めて呼んでください。言葉はカタカナで呼ぶと軽い響きに感じます。そう、聴診器を「ステレコ」と呼ぶように。

超音波診断装置は従来、検査室という病院内の薄暗い部屋の片隅で、ひっそりと難しい顔をしながら検査されるものでした。パソコンよりも多いスイッチを前に「クルクルとボール?を回し、カチカチといろいろ触っている」難しそうな機械で、看護師には「慎重に運ぶ、大きな、そして高価な物」でしかありませんでした。ところが、最近ではポケットエコー miruco(ミルコ)(図1)のようにスマートフォンやタブレットに挿して、晴れた空の下で、明るい病室で、そして電気がついた患者さんの家で、気軽に使えるような安価で、直感的に使える機械が世の中にでてきました。

図1)ポケットエコーmiruco

これはあたかも、「デスクトップパソコン→ノートパソコン→スマートフォン」という進化に似ています(図2)。「ちょっとググる」感覚で、「ちょっと残尿だけ確認」ができる、そういう時代になったのです。スマートフォン、その中でもポケットエコー mirucoは「らくらくフォン」をイメージして作られました。もちろん、操作練習は必要ですが、誰もが使いやすい機械であると自負しています。そう、電子体温計、血圧計、最近ではSpO2モニターなども、今では一般家庭でも使われる(使える)機器となりましたが、これらと同じ範疇の機械がポケットエコーなのです。

図2) エコーはパソコンと同じような進化をたどっている

ポケットエコーは現場に安心感を届ける手軽なツール

日本中で悲鳴が上がっています。「高齢化社会が進み、患者さんは増え続けるけど、医師も看護師も足りない!」と・・・。ポケットエコーは、看護に「安心」と「連携」を与えてくれます。私も総合診療医として、いや1人の臨床医として、患者を生活までサポートすることの大切さは身にしみて分かっています。それでも、人手も時間も足りません。

技術レベルも人柄も、普段の仕事ぶりも知っている、一緒に働いているベテランの看護師からの「電話報告」は信用できます。でも、新卒で、在宅医療は初めてで、どれだけの技術があるかも、これまでの働きぶりも知らない看護師から、電話で「問題ありませんでした」と報告されても、「本当に大丈夫だったのかな」とモヤモヤする気持ちを抱えることは稀ではありません。こんな時、「『おしっこがでない』と言っていた患者さん、こんなエコーでした」と、パンパンな膀胱の画像を記録して報告頂ければ、不安を持ちながら実施した看護師も、そして報告を受けたスタッフ、そして医師も「みんなが安心」できるのです。

ポケットエコーによる膀胱エコーの活用方法

今回は、もっとも簡単で役立つ(と私が考えている)膀胱エコーについてご紹介します。この時、細かい数値は必ずしも必要ありません。「からっぽ」「ちょっとある」「けっこうある」「いっぱいある」とおおよその量がイメージ・判断できれば臨床判断上は十分です。なぜなら、ブラッダースキャンも、自動測定機能がついている高価なポケットエコーの測定も「測定誤差(測定するごとに数値がバラける程度)」が思った以上に大きいのです。もし自信がない場合は、画像(時には動画)で、スタッフ等と共有さえできれば「確実に量のイメージ」を伝えることができます。

この4パターン「からっぽ」「ちょっとある」「けっこうある」「いっぱいある」を再現したシミュレーターを使って学習することが膀胱エコー習得の近道だと思っています。「50ml」「150ml」「300ml」「尿閉状態(バルーン付き)」の4つのキューブを何度もあてて、その感覚を身につけます(図3)。ちなみに、画面の真ん中にある「黒の丸いかたまり=膀胱」、そして「灰色の丸いかたまり=前立腺」です。今日は「黒=水(尿)」「灰色=臓器」とだけ覚えてくだされば十分です。

図3)膀胱シミュレーター(京都科学社製)(左)に、プローブを長軸方向にあてた時(中)のエコー画像(右)膀胱キューブは4つで、外見上はキューブの中身は判別不能。

いくつか活用例を紹介しましょう。例えば、「おしっこが出ない」という患者さんに、ポケットエコーを当てて「からっぽ(50ml以下)」であれば脱水を疑えますし、もし「パンパン(尿閉状態)」でしたら導尿を検討します。そして、「ちょっとある(150ml)」であれば過活動性膀胱や神経質さが原因かもしれませんし、「けっこうある(300ml)」であれば正常の尿意と判断できます。

ほかの例もご紹介しましょう。脱水状態(「からっぽ(50ml)」)の人に、水分補給(飲水でも点滴でもよい)をして、数時間後にもまだ「からっぽ(50ml)」のままであれば「改善なし」が頭をよぎります。「ちょっとある(150ml)」ならば、水分補給に反応あり!と安心できます。このように、脱水患者の経過を評価することもできるのです。

応用例としては、「外出中にトイレが心配」と頻尿を心配しているご高齢の方の場合、外出前に「自分で膀胱エコー」をやって「からっぽ(50ml)」であることを確認してから、安心して外出して頂くという活用も可能です。最近では、患者さん自身がポケットエコーを持っていて、ご自身やご家族の排尿ケアに役立てている例も聞こえてきています。

楽しく、みんなで学ぶ場所

とはいっても、やはり「機械」を自分の手に取って、説明書を読みながら、時に説明動画を見ながら、1人で学び始めることができる強者は稀でしょう。ポケットエコーを楽しく、みんなで学べるような場や機会を2016年4月より作ってきました。それが、ポケットエコー・ライフ・サポート〔通称、PELS(ペルス)〕です。教科書・テキスト(参考文献1,2)、専用シミュレーター、初心者教育のプロであるベテラン検査技師や医師と、そして何よりも看護師仲間と一緒に学ぶことができます。

PELSホームページ:

https://lp.sigmax-med.jp/PELS_registration2020.html

ポケットエコーを活用している訪問看護師より

WyL株式会社取締役
緩和ケア認定看護師
落合 実 先生

私が勤務する訪問看護ステーションにポケットエコーを取り入れてから数年が経ちます。最初は事業所内外から「看護師がエコーを使用するのは難しい」とか「診断は看護師の仕事ではない」などと言われていましたが、今ではエコーはコミュニケーションを起こすツールの1つとして浸透してきたように思います。
訪問看護事業所には、尿道留置カテーテルを使用する患者家族から「尿が出ていない」という訴えで臨時訪問の依頼が来ることがあります。そんな時に、担当看護師がポケットエコーを持参し患者のもとに訪問しています。誰かに相談しようとしても、膀胱の張りなどは共有しづらかったのですが、エコーがあることで画像や動画データを用い、リアルタイムで同僚と同じものを見ながら相談や意見交換し合うことができるようになりました。またエコーのデータは電子カルテや社内専用のクローズドSNSに記録することで過去との比較もできるようになりました。
エコーは膀胱以外にも肺や大腸など幅広く使用しています。侵襲的でないため患者や家族から拒否をされた経験はなく、むしろ安心していただくことの方が多いです。
訪問看護師が増えない理由の1つとして、病院に比べて「孤独」を感じることが多いとも言われています。しかし、今は様々な電子カルテ以外にも様々なテクノロジー(IoTなど)のサービスも増えてきたことで、離れていても同僚や専門家と繋がれるようになりました。ポケットエコーも訪問看護師を孤独にしないツールの1つとして更に普及することを期待していています。

ポケットエコーが活躍する状況は?

ポケットエコーが活躍しやすい状況について、具体的に紹介します。(参考文献3)

1. 膀胱エコー:排尿管理、尿閉の評価・導尿やカテーテルの確実な実施
2. 肺エコー:高齢者に多い誤嚥性肺炎のスクリーニング、寛解・増悪の評価
3. 経鼻胃管エコー:レントゲン写真がとれない現場におけるチューブの留置確認
4. 便エコー:便塊の位置、どれだけ硬いか?の評価と適切な排便ケア
5. 産科エコー:分娩前の頭位・胎向の確認、分娩後の排尿障害の評価
6. 耳鼻科エコー:嚥下評価
7. 透析関連エコー:シャントの評価

今回は上記の1.膀胱エコーを紹介しました。本連載では、次回以降、2、3、4について順次ご紹介していく予定です。是非、楽しみにしていてください。

参考

(1) 小林只(編著).みるミルできるポケットエコー 1 膀胱. 中外医学社, 2016.
(2) 小林只(編著).みるミルできるポケットエコー 2 経鼻胃管・誤嚥性肺炎. 中外医学社, 2019.
(3) 小林只(著). ポケットエコー自由自在-ホントに役立つ使い方-. 中外医学社, 2013.

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