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公開日:2020/10/21
日本シグマックス株式会社
経鼻胃管の誤挿入に関連したトラブルや事故は多く、ヒヤリ・ハットを含め、ご経験されたことがある方も少なくないでしょう。そのため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)からも、経鼻胃管の誤挿入への注意喚起とともに、“複数方法による胃管の位置確認”の推奨が通達されています(*1)。
複数の確認方法には、①空気注入により心窩部で気泡音を聴取する、②胃管からの吸引液のpH(酸性、アルカリ性)を測定する、③CO2排出器を使う、などがありますが、最も確実とされる方法は胸部レントゲン写真撮影です。医療機関内であればポータブルレントゲン撮影ができますが、医療機関外での実施は容易ではありません(もちろん最近では在宅医療でポータブルレントゲン装置も活用されてきていますが、持ち運び・組み立て・撮影・片付けなど労力は小さくありません)。さらに、法的にも看護師はレントゲン検査を実施できません。さらに言えば、レントゲン検査であっても胃管チューブ先端のヒューマンエラーによる見逃しなど100%ではありません。検査を実施し、判断するのは「人」なのです。
このような背景の中、ポケットエコーによる胃管チューブの位置確認への期待は、特に在宅現場で高まっています。
「脳梗塞後遺症で在宅療養中の70代の男性。重度の嚥下障害で経鼻胃管による経管栄養を行なっている。家族によるケアの際、(完全ではないものの)半分くらい胃管が抜けてしまい、訪問看護師に電話があった。」という事例です。あなたは患者宅へ到着後、家族に状況を聞き、療養者の意識状態、呼吸数、脈拍、SpO2などのバイタルサインを確認しました。抜けかけたチューブの長さを見て、口の中などでチューブがとぐろを巻いていないか、気管内に入っていないか、などを確認しました。
さて、抜けかけたチューブをどうするでしょうか? 胃に向けて入れ進めてよいでしょうか? それとも一旦抜いて改めて挿入した方がよいでしょうか?
多くの方が、レントゲンが取れない在宅現場で、胃液の吸引、吸引物のpH試験紙によるチェック、聴診法、などによる複数方法による胃管位置の確認だけではなく、在宅現場の状況と過去の対応歴などの「流れ」(例:以前にもこうしたことがあって苦労した)、在宅環境(例:介護者の妻がすこし体調が悪い)、自身の状況(例:次の訪問先が待っている)を踏まえ、“総合的な判断”の元に、こうした状況を乗り切ってきたのではないでしょうか。また、その判断を医師や同僚、そして家族に相談し、医療機関の受診を検討することもあったのではないでしょうか?こうした状況で、手元にエコーがあると、現場にいる医療従事者の行動にどんな変化が起こり、現場の何が変わりうるのでしょうか?
在宅現場では、「経鼻胃管の誤った挿入や留置で“窒息”する状況を避けられるか?」、「経鼻胃管の挿入や留置の位置をどのように確認するか?」などを、その現場で判断することを求められています。このような状況では、「判断するための材料が少ない」、「もしかしたら他にできることがあるかもしれない」、など試行錯誤が行われています。
実は、手元にエコーがあれば、これまで紹介があった膀胱や肺のように、(練習は必要ですが)見た目で経鼻胃管の評価をすることも可能になり、現場の判断に役立ちます。経鼻胃管が通過する頸部にエコーを当てることで、他の方法のように確認する手段の1つとして使うことができるのです(*2、*3)。
経鼻胃管を食道内で確認する精度は、2017年にコクランライブラリ(世界で最も信用度が高いデータベースの1つ。系統的な方法で徹底した情報収集を行い、批判的吟味をし、一定の基準を満たした論文をベースに、治療、予防効果の現時点の最適解釈を提示している)でも、その有用性が期待されています。(*4) 詳細は、参考文献3)のP21~26でも解説しています。
エコーを当てる前に、まず、左鎖骨を確認します。その後、ポケットエコーを左頸部に当てると、甲状腺よりも深いところに頸部食道が見えてきます。経鼻胃管が頸部食道を通っていれば、白く写ったチューブが見えます(図1)。(当然ですが)胃管が頸部食道になければ見えません。ただ、その場合は“気管に誤挿入されている”可能性があります(気管に挿入された胃管自体は気管内にエコーで見ることは困難です)。
経鼻胃管をエコーで見る時に注意点があります。どんな状況でも経鼻胃管が通過する頸部食道を見つけることができるわけではありません。頸部食道は気管の後方にあり、プローブを当てたところの頸部食道の状態しか見ることができないため、エコーに熟練していても、気管に隠れて見えないこともあります。また、消化管疾患(例:食道癌、胃癌)や頸部の手術(例:甲状腺腫瘍、外傷)の既往歴がある場合、そもそも見えないこともあります。頸部食道の観察に慣れている医師や臨床検査技師と一緒に見る、過去のレントゲン写真やCT画像で大雑把な頸部食道の位置を確認する、などの工夫で、これらを幾分は回避できます。また、入院中に経鼻胃管を入れ、退院後に在宅療養になる場合では、入院中に経鼻胃管の位置をエコーでも把握しておくと、在宅現場でいっそう安心して活用できます。
頚部食道内の経鼻胃管を確認します。その深さは3~5cmです。そのため、体の浅い部分を観察するのに適した低周波のリニアプローブを主に使用します(浅部の観察にも優れたコンベックスプローブでも実施可能です)(図2)。もし可能ならば上位機種エコーの画像で慣れておくと、ポケットエコーでも十分に実施できるようになります。また、画像プリセットは、(経鼻胃管モードが搭載されていない機種の場合は)「肺モード(肺をみる設定)」を使用するのをお勧めします。
経鼻胃管をエコーで描出する手順は、①左鎖骨を確認→②左頸部にあてる→③気管・甲状腺・食道を描出する→④食道内の白く写ったものを優しく動かして動きを確認する、になります。③は“まっすぐに”あてるのがコツです。
“なんかおかしい”、“見えない”などの場合は、気管内への誤挿入の可能性があります。もしチューブの先端が胃内に入っていれば、④でシリンジから空気や水などを入れて確認することもできますが、他の方法でも挿入を確認した方が安全です。
先程の症例では、バイタルサインに問題がなく、チューブがおよそ半分ほど抜けたことを確認した上で、エコー(「ポケットエコー miruco」)を頸部に当てて、経鼻胃管を描出しようとしました。この時、以前に撮影し保存していた経鼻胃管の画像と見比べました。その時、「もし経鼻胃管が写らなければ、気管に入っているかもしれない」と考えていましたが、幸い、頸部食道内にチューブが入っていることを確認できました。胃側にチューブを(以前固定されていた位置まで)進め、再度エコーを行い、他の方法でも確認しましたが経鼻胃管の位置は問題ないと判断しました。
経鼻胃管へのエコーの役割は、その位置確認にとどまりません。先ほどの症例では、チューブが抜けかけたことで、家族へのケア方法の確認だけではなく、医療従事者でカンファレンスを行い、今後の対策を検討しました。その際、経鼻胃管の位置確認を行う手技、そしてエコー画像の見方・扱い方(タブレット端末のWi-Fi機能を用いた画像共有やカルテ添付も含め)も話し合いました。そして、話し合った内容をエコー画像とともに家族に伝えました。最初は、「見てもわからない」と言っていた家族も、今では「今回は大丈夫だろうか?」と心配しながら画像・動画を一緒に見ています。そこには、エコーから生まれたコミュニケーションがあり、在宅現場にこれまでよりも安心感や納得感が出たように感じています。
今回は紙面の都合で経鼻胃管へのエコー活用の一部分しか紹介できませんでした。体系的に経鼻胃管へのエコー活用を学びたい方は、書籍による学習(*3) だけではなく、Pocket Echo Life Support program(「看護が変わる!アセスメントエコー」セミナー)などのエコー教育コースの受講をお勧めいたします。エコーをはじめて触わる初学者の方、すでに現場で活用している方に混じって、一緒に学んでエコーを使ってみませんか?
「看護が変わる!アセスメントエコー」ホームページ:
https://lp.sigmax-med.jp/PELS_registration2020.html
参考文献
(*1)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). PMDA 医療安全情報 経鼻栄養チューブの扱い時の注意について. 2014年2月. URL https://www.pmda.go.jp/files/000144631.pdf.
(*2)駒形和典 他.: 携帯型超音波装置を用いた経鼻胃管の位置確認の検討. 看護理工学会誌. 2018; 5(1): 52-57.
(*3)小林只(編著).みるミルできるポケットエコー 2 経鼻胃管・誤嚥性肺炎. 中外医学社, 2019.
(*4)Tsujimoto H, et al. Ultrasonography for confirmation of gastric tube placement. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2017; (4).