公開日:2024/2/21

Report

在宅ケアにおける食支援と栄養について

(本記事は「第28回日本在宅ケア学会学術集会 ランチオンセミナー2 在宅ケアにおける食支援と栄養について」<開催:2023年11月12日(日) 会場:大阪大学コンベンションセンター>)の講演内容をもとに作成したものです。)

座長
三輪恭子先生
大阪公立大学大学院
看護学研究科
在宅看護学 教授
講師1
宇都宮宏子先生
在宅ケア移行支援研究所
宇都宮オフィス 代表
講師2
川口美喜子先生
大妻女子大学家政学部 教授
第28回日本在宅ケア学会学術集会
2023年11月11日(土)・12(日)
大阪大学コンベンションセンター

低栄養など栄養問題を抱えている在宅療養者は多い

 在宅療養者の栄養問題について、65歳以上の在宅療養者を対象にした栄養評価調査*1では約7割に何らかの栄養問題(「低栄養」「低栄養のおそれ」)があることが報告されています。一方で、療養者の栄養問題に気づいているものの、食事・栄養ケアの効果的な方法や、相談できる専門職へのつなぎ方がよくわからないという訪問看護師も少なくないのではないでしょうか。

在宅で質の高い食支援を行うために

 在宅で質の高い食支援を行うためには、管理栄養士も交えた多職種協働による専門的な介入が必要です。ただ現状では、在宅の場で連携できる専門職(管理栄養士)が不足しているという声も聞かれます*2
 本セミナーではこのような現状を踏まえ、多職種協働での介入をどう実現するか、情報共有をどう図るか、連携や情報共有に有効なツールの活用など、地域の栄養ケアに造詣があり、在宅ケアの現場を知る3名の先生方が課題に迫りました。

早期からの「食支援」へのチームアプローチが重要

 「講演1 地域で“暮らす”、そして“生ききる”に伴走する〜出会いを前へ、暮らしを整え、備える〜」で、宇都宮宏子先生(在宅ケア移行支援研究所 宇都宮オフィス代表)は、「認知症の方が、誤嚥性肺炎で入院。病院では相変わらず『禁食そして点滴』となり、抜去しないようにと抑制されてしまう。認知症がありながらも、尊厳をもって暮らしていた方が、入院によって奪われる「尊厳」。そして病院医師から「口からは食べられません。どうしますか?」と、経管栄養等の選択を、家族にしている場面をまだ見る(図1)」と述べ、続けて「『入院の目的』は、地域支援者と共有できていたでしょうか? 病院からは、暮らしや大切にされていた人生は見えません。だからこそ、『入院が人生を遮断しないための連携』が必要です。そして、訪問看護師は、地域で暮らしている時に、『食べること』にアンテナを張り、必要な食支援チームにつなげていますか?(図2)」と会場の参加者に問いかけました。
 宇都宮先生は、「地域差はありますが、実際に管理栄養士や、いい食支援のチーム・口腔ケアのチームに出会い、元気でいる療養者が地域にはたくさんいます。しかし、そういった食支援チームとの連携で成功体験をした訪問看護師はまだ少ない」と言います。その上で、口から食べること、食べられなくなったらどうするかにかかわることは、すべての人に共通したACP(アドバンス・ケア・プランニング)支援であること、「『口から食べる』を守る」ことにチームで取り組んでいくことが重要だと述べました。

図1 まさかこんなに早い別れが来るなんて…(提供:宇都宮宏子先生)
図2 病院では“暮らし”“人生、Life”が見えない?(提供:宇都宮宏子先生)

「食べる」を支える多職種協働の必要性

 「講演2 暮らしを守るには『栄養・食事・食べる』を支える 栄養課題の本質を見過ごさないために課題解決の栄養支援を共に考える」で、川口美喜子先生(大妻女子大学家政学部教授)は、自身の経験した栄養や食事の相談や事例を紹介し、患者・家族が栄養や食事の課題を抱えている一方で(図3)、在宅にいる患者の多くに栄養介入がなく、だからこそ、看護師などに在宅訪問栄養指導へつないでほしいと期待を述べました。
 在宅における食支援と栄養の意義には、科学的根拠を第一に考える「栄養学的側面」と、食べる人のQOLや社会性を高めるための「精神・社会的側面」があると言い(図4)、特に後者での「おいしい」「楽しい」といった満足感や、利用者が大切にしている食事に対する思い・信念をも含めて受け止め、かかわることが食支援において重要だと強調しました。
 さらに、在宅で「食べる喜び」や「おいしく食べる」を支えるためには、管理栄養士の専門的な知識と多職種協働が重要なこと、食べられない・食べたくないをきちんとアセスメントすること、栄養課題の抽出と目標設定・対策のために情報の「見える化」が必要になることについても言及しました。

図3 在宅要支援・要介護者の栄養状態(提供:川口美喜子先生)
図4 在宅における食支援と栄養の意義とはなにか(提供:川口美喜子先生)

「食支援」の多職種協働をサポートするツールの活用

 多職種協働・連携のためには情報共有が重要です。川口先生は、「在宅療養者の食・栄養課題」を「見える化」した、多職種との情報共有のためのツール『ぽけにゅー』(大塚製薬工場)を紹介。『ぽけにゅー』は、「食・栄養課題の多岐にわたる原因を整理し、多職種連携を支援するツール」で、在宅療養生活の食・栄養課題の抽出・解決を支援するwebサービスとして開発されたと言います。機能として「アセスメント」「食・栄養支援方法の例示」「報告書の作成」「モニタリング機能」があり、アセスメント機能については、科学的側面だけでなく精神的・社会的側面も評価できることを強調しました。
 川口先生は、「アセスメントでは、その人の本質的な要因を見抜き、多面的にアプローチしていくことが必要」と言い、「そのうえでポイントを押さえて、『おいしく、楽しく』を大切に、がんばりすぎず、継続できる食事方法を考えていく。介護者と本人の価値観を大切にした食事の提案をしていく。さらに栄養・食事不良者を生み出さないためにも、地域での連携で『栄養ケアを見過ごさない』という思いを訪問看護師の皆さんにももっていただきたい。」と述べました。

「暮らし」を支えるための情報共有と提供が必要

 最後にディスカッションが行われ、会場から問題提起として「『入院で何を目指すのか』という方針設定が在宅側として曖昧になっており、入院するときは疾患を治すことがメインになって、そこにフォーカスがあたる。でも、患者さんは家に帰って生活することありきで入院される、そこを在宅側がつないでいない」との指摘がありました。
 3名の先生方からは、対象者の「おいしいを叶える、人生を支えるために必要な食支援」のためには、アセスメントと多職種連携が重要になること、そこに管理栄養士が入り、情報が共有されることが大切であり、さらに訪問看護師が食や栄養問題により関心をもつことも必要だというコメントが述べられました。

ご案内

「ぽけにゅー(Pocket Nutrition)」とは?
在宅療養者の食生活や栄養状態をアセスメントにより整理し、抽出した課題の解決策を提示する専門職向けクラウドサービスです。アセスメント結果をチームや多職種で共有できる報告書作成機能、「むせてきた」「偏食」といった在宅療養生活でよく見られる課題とその解決策(食対応)の例示を確認できる機能、モニタリング機能を持っています。

詳細はこちらよりご確認ください。(外部サイトに移動します)

*1 平成24年度老人保健健康増進等事業 在宅療養患者の摂食状況・栄養状態の把握に関する調査研究報告書(2024年1月現在)

https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/roken/rojinhokoku4_24.pdf

*2 在宅療養高齢者における食事・栄養ケア実施状況に 関するアンケート -結果報告書-(2024年1月現在)

https://www.otsukakj.jp/news_release/20220617_1.pdf

取材:アルケア株式会社 メディア事業部
ETD2224A01

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