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公開日:2026/7/8

1本の点滴ルートを守りたい

小児医療の課題に挑んだ
小児用PIVC固定キット開発

 小児の末梢静脈カテーテル(PIVC)固定には、体動の多さ、脆弱な皮膚、小さな体格など、小児特有の課題があります。カテーテル固定不良による薬液の血管外漏出や再穿刺は、小児に身体的・精神的苦痛を与えるだけでなく、医療者にとっても大きな負担となります。国立成育医療研究センターの塚本先生は、この課題を解決すべく、小児医療における具体的なニーズを当社の製品開発につなげることで、小児用PIVC固定キットの製品化が実現しました。開発の経緯、製品の特長、そして看護師の皆様からの評価について伺いました。

お話を伺った方

塚本 桂子 先生
国立成育医療研究センター
周産期・母性診療センター 新生児科 医長
*所属・役職は2026年2月時点です

国立成育医療研究センター
2002年設立の小児・周産期・産科・母性医療を専門とする国立高度専門医療研究センターです。
「病院と研究所が一体となり、健全な次世代を育成するための医療と研究を推進する」という理念のもと、モデル医療や高度先駆的医療をチーム医療により提供しています。
東京都世田谷区大蔵二丁目10番1号
診療科目数:28科 病床数:490床

小児におけるPIVC固定の課題

 私は医師として約40年の臨床経験を積んできましたが、小児医療において1本の点滴ルートを確保・維持することの重要性を痛感してきました。穿刺は小児にとって強い痛みと恐怖を伴う処置であり、私たち医療者はその苦痛を理解しながらも、治療のために穿刺を行わなければなりません。小児の細い血管への穿刺は技術的にも容易ではなく、ようやく確保した末梢静脈カテーテル(PIVC)の固定が不十分で、薬液の血管外漏出やカテーテルの意図しない抜去などが生じた場合、再穿刺を余儀なくされます。これは小児に再び苦痛を与えるだけでなく、私たち医療者にとっても大きな負担となります。
 PIVCの固定不良は回避すべきですが、残念ながら小児の臨床現場ではしばしば発生します。その背景には小児特有の理由があります。
●体動の多さ
 小児は体動が多く、動かないように声をかけても、年齢や発育段階によってはカテーテルの必要性を理解できません。体動により事故抜去に至る場合や、留置したカテーテル先端が動いて血管壁を損傷し薬液の血管外漏出を起こす場合があります。薬液の血管外漏出は皮膚の腫脹、発赤、壊死などを引き起こすことがあります。カルシウムを含む薬液の血管外漏出は、皮膚の石灰沈着症や潰瘍を招くこともあります。また、カテーテルが動くと穿刺部から皮下に細菌が侵入しやすくなり、感染リスクが高まります。さらに、免疫機能を十分に獲得していない新生児や、免疫力が低下した小児では敗血症のリスクが高まります。
●脆弱な皮膚
 発育途上にある小児、特に新生児の皮膚は角層が薄く、脆弱です。そのため、強い粘着力を持つ固定用テープを使用すると、剥離時の刺激により皮膚損傷を起こしやすくなります。体動に耐えうる高い固定力が必要である一方で、脆弱な皮膚には強い粘着剤は適さないという、相反する課題に直面します。
 また、カテーテルのハブ(接続部)は硬質プラスチック製であり、固定時に皮膚を圧迫すると医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)を引き起こすリスクがあります。小児では成人よりも短時間で褥瘡が発生しやすく、刺入部周囲の皮膚が発赤や損傷を起こすことも少なくありません。
●小さな体格
 小児は成人と比べて体格が大幅に異なるため、成人用の固定用テープを小さく切って使用しても適切に貼付できません。サイズが合わないテープでは留置針の動揺を招き、薬液の血管外漏出のリスクが高まります。また、刺入部の視認性が低下するため、トラブルの発見が遅れ、医療事故につながる場合もあります。
 加えて、小児は発汗量が多いことや、新生児を管理する保育器内は湿度が高いため、固定用テープの固定力が低下しやすい環境にあります。

課題解決に向けた製品開発の始動

 こうした課題に対し、当センターではかつて固定力の強いテープを使用することで再穿刺を回避しようと試みていました。しかし、刺入部まで覆ってしまうため、観察が容易ではありませんでした。そこで、テープの一部をハサミで切り取り観察窓を作製し、刺入部を視認できるように工夫しました。観察が可能になった一方で、テープの貼付面積が減少した分、固定力が低下し、1~2日程度でテープが剥離してしまい、薬液の血管外漏出が起こることもしばしばありました。
 小児PIVC固定における課題を認識した私は、小児用PIVC固定テープの製品化を企業に働きかけることにしました。学会の企業展示を訪ねましたが、成人用は存在するものの小児用は見つかりません。小児用の開発予定を尋ねても、なかなか前向きな回答は得られませんでした。小児・新生児関連の学会で複数の企業に打診する中、2017年2月の日本環境感染学会でアルケア社が関心を示してくれました。同社も当時は小児用PIVC固定テープの開発・製造の予定はなかったようですが、後日、小児PIVC固定の現状と課題について会議を実施しました。同年3月から月1回のペースで意見交換を重ね、同社による製品化の実現に向けて本格的に取り組みが進められました。
 私は当センターの皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)やNICUの看護師とともに、製品開発要件を整理しました(写真1)。特に重視したのが以下の3点です。

1.固定力と圧迫低減

 小児の激しい体動に耐えうる強固な固定力が必要です。同時に、皮膚への低刺激性とMDRPU発生リスクへの配慮も重要です。小児PIVC固定時には、硬質プラスチック製のカテーテルハブが皮膚を持続的に圧迫することで、皮膚損傷や褥瘡を引き起こすリスクが高いためです。

2.観察性

 固定状態や薬液の血管外漏出の有無を定期的に観察できるよう、刺入部の視認性確保も必須要件としました。

3.操作性

 穿刺・固定は小児の体動を抑制して行いますが、協力が得られる時間は極めて限られています。そのため、固定操作が簡便であることも重要な要件と考えました。従来採用していたPIVC固定方法では複数メーカーの製品を組み合わせており、各パーツを準備しセットする作業に時間を要していました。この課題を解決するため、必要なパーツがあらかじめ一包化されたキット形式であることを要望しました。

 さらに、穿刺は無菌操作で行うため、固定用テープも滅菌されていることが望ましいと考えました。サイズについては、単なる成人用の縮小版ではなく、小児の体格に適したサイズであることが必要と判断しました。
 これらの要件はいずれも重要であり、可能な限りすべてを満たす必要があると考えました。同時に、従来のPIVC固定に対する課題認識の大きさを示すものでもあります。私たちはこれらすべてを満たす製品の実現を強く要望し、同社とともに開発を進めることになりました。

製品開発と臨床研究による検証

製品開発には多くの時間を要しました。固定力の維持と刺入部の視認性の確保という相反する要件を追求した製品の開発には、試行錯誤を重ねる必要がありました。開発期間が長期化する中で、製品化への不安を感じることもありました。それでも試作を重ねる中で徐々に形が見え始め、看護師を含む開発チームからさまざまな改良案が生まれました(写真2)。

 薬液の血管外漏出の多くはカテーテルの動揺が原因であり、カテーテルを安定して固定することが重要です。そこで着想したのが、皮膚側だけでなくカテーテル側にも粘着面を持たせる両面粘着設計です。カテーテルを粘着テープで両面から挟み込み密着させることで、より強固な固定を目指しました。
 使用手順が理解しやすくなるよう、ベーステープ表面にカテーテルハブやロックナットの適切な配置位置を示すガイドイラストを印刷しました。さらに、剥離紙の剥がし方を視覚的に理解できるよう、矢印と「線まではがす」「横にはがす」という文字で操作手順を表示しました。
 また、カテーテルハブの皮膚への圧迫を軽減するため、ベーステープにクッション性を持たせました。ベーステープのサイズについても、貼付作業の妨げにならず、かつ保持しやすい適切なサイズとなるよう調整を重ねました。
 こうして2020年、プロトタイプ第1号が完成しました。製品には開発チームのアイデアが数多く反映されています。個包装され、内包されるすべてのパーツは滅菌処理されています。フィルムドレッシングは一部をV字カットすることで、刺入部の視認性を確保しました。ベーステープのサイズも小児の体格に適合するよう設計しました。
 その後も細かな改良を重ねました。並行して私は特定臨床研究を開始しました。新製品の有効性および安全性に関する評価を科学的に進めるとともに、キット化による固定法の標準化が医療の質向上に寄与するかを評価するためです。2022年の日本新生児成育医学会では、臨床研究のコントロール群として当センターの従来法を発表しました。観察窓を設けたものの固定力が低下し、薬液の血管外漏出が生じやすいという課題を報告したところ、聴講者から「その固定法で十分なのか」「自分の施設でも固定に課題がある」など活発な意見が寄せられました。PIVC固定が多くの施設で共通の課題となっていることを再認識するとともに、この課題を解決する製品が完成すれば多くの医療現場での活用が期待できると考えました。

製品評価と業務効率化への貢献

プロトタイプがほぼ完成形に達し、特定臨床研究の実施に先立ち、当センターの看護師約100名を対象に使用方法の講習会を実施しました。プロトタイプを用いた実技講習を行ったところ、経験年数に関わらず多くの看護師が円滑にPIVC固定の手技を実施できました(写真3)。

 講習会終了後のアンケートでは、「業務の手順が改善された」「両面粘着設計によりカテーテルを安定して固定できた」「透明ドレッシングにより刺入部の観察がしやすくなった」など、現場から好意的な評価を得ることができました。一般的に、看護業務における手順変更には抵抗感を伴うことが多いとされますが、現状の課題に対応した製品であれば、現場への導入が進みやすいことが示唆されました。
 一方、「サイズが大きい」「複数のサイズ展開があるとよい」といった意見も寄せられました。このサイズに関する指摘はもっともであり、今後の課題と認識しています。小児の体格には大きな個人差があり、体重1,000gから3,000gまで幅広く対応する必要があります。将来的には小児の体格に幅広く対応できるような小児医療全体の環境整備が進むことを願っています。
 適切な固定が維持されることで、再穿刺に伴う小児の苦痛と医療者の負担、双方の軽減が期待されます。また、キット化により準備時間の短縮が見込まれ、従来のように観察窓を手作業で作製する手間も省くことができます。こうして創出された時間を小児とその家族へのケアに充てることが期待できます。これは、医療者の働き方改革が求められる現在において、小児医療の質向上と業務効率化の同時実現に寄与する、意義深い取り組みと考えます。

最後に

 低出生体重児に対し、24ゲージのPIVCが挿入可能な血管を慎重に探索し、ようやく確保した点滴ルートが翌日には薬液の血管外漏出を起こしている――この状況は、医療者として看過できない大きな課題でした。小児とその家族の苦痛を少しでも減らしたいという思いが、今回の製品開発の原動力となりました。
 今回の経験を通じて、日常診療や看護の中で改善すべき課題に直面した際、それを見過ごさず、必要に応じて外部との連携も積極的に活用しながら解決策を追求することの重要性を改めて実感しました。本製品によるPIVC固定の手技の標準化が、小児医療におけるリスク低減と医療者の負担軽減の両立に貢献できることを期待しています。

ご案内

本記事でご紹介しました 「小児用PIVC固定キット」に関しての詳細やお問い合わせは以下サイトにてご確認ください。

小児用PIVC固定キットに関する資料の要望はこちらから(外部サイトへ移動します)

販売名 : フィックスキット®・PV 小児
種類 : 一般医療機器/カテーテル被覆・保護材
医療機器届出番号 : 13B1X00207000080
ご使用の前に、電子化された添付文書を必ずお読みください。

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