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公開日:2023/1/25
日本シグマックス株式会社
エコーと聞くと医師や臨床検査技師が扱うイメージが強くあると思います。しかし、近年は看護現場で手軽に使用できるツールとして手のひらサイズのポケットエコーが登場し、看護師に向けたアセスメントツールの一つとして導入に至る医療施設が増えつつあります。利用者に最も身近な存在である看護師がポケットエコーを活用することで、体内の可視化が可能となり、医師への的確な報告や情報共有はもちろん、早期発見・早期治療への期待も高まっています。
今回、山形県看護協会主催によって各地区で全4回行われた体験会に参加。実際にポケットエコーmirucoに触れながら肺炎の見方や排泄ケアのための直腸の見方について、訪問看護師向けに講義が行われました。
講義前に参加者にはポケットエコーmirucoが用意され、超音波を送受信するプローブや、画像を表示するタブレット表示器について、基本的な操作の説明が行われました。その上で超音波検査士の山口睦弘先生による講義は、まず超音波診断装置の基本的な原理の説明から始まりました。
放射線検査が体を通り過ぎたX線を画像としているのに対し、超音波診断装置は体内で反射した超音波(エコー)を信号としてモノクロ画像を映し出します。このため反射の強い所が白、反射の弱いあるいは無い所が黒、白と黒の間はグレーのグラデーションで表示されます。その上で注意してほしいのは、「白く映っているものは硬い」という誤解であると、山口先生は強調。「エコーでは骨の表面や胆石、腎臓結石などの硬い部分は白く映りますが、必ずしも白く映るものがイコール硬いわけではありません。音の反射は物質の音響インピーダンスの差がある境界面で起こります。この差が大きいほど反射が強くなり、より白く描写されます。逆に均質な部位では反射が起こらないので黒く描写されます」と解説しました。
続いて山口先生は、誤嚥性肺炎に対するエコーの使い方について解説をしました。まず、誤嚥性肺炎の診断について、日本呼吸器学会のガイドラインでは胸部X線やCTによる検査、CRPの値といったものは示されていますが、エコーによる診断は挙げられていません。しかし肺炎に対するエコーの精度を調べたある研究では、エコーは胸部レントゲンに匹敵するほどの精度で、肺炎の有無を判断することができると言われています¹⁾。
こうした点から、たとえば在宅など放射線検査やCTといった画像診断が容易に行えない環境でも、ポケットエコーmirucoがあれば、その場で簡単に肺炎の有無やその疑いを判断することができます。
誤嚥性肺炎の治療やケアにおいてポケットエコーmirucoは、以下の3点に活用できると言います。
肺エコー像上の特徴的な所見である、縦方向に白く伸びる「Bライン」がポイントであり、このBラインを的確に見つけだし、継続的に観察していくことが重要であると強調しました。
肺エコーの基本的な考え方については、「肺エコーの画像にBラインの本数が増えてきた場合は肺炎が悪化している、逆に減っていたら快方に向かっていると判断することができます。ただし、ここで注意していただきたいのは、単純にBラインが見えたから肺に異常があり、正常ならばBラインが見えないということではないということです。肺の状態が正常な人でもBラインが1本程度見えることがありますし、何回も誤嚥性肺炎を繰り返している人ではBラインが2~3本見えることもあります。だからこそ、その人の過去の所見と比較をし、Bラインが増えているか減っているか判断することが重要です」。
実際の肺エコーでは、まず等間隔で並びながら横方向へ延びる白い線のAラインと、縦方向に延びる白い線のBラインを理解して見極めた上で、肺炎を疑う所見であるBラインを探し、その本数の増減を継続的に見ていくことが重要です(図1)。
図1:肺エコーの基本(Aライン、Bライン)
肺エコーの観察を継続的に行っていく「フォローアップエコー」では、Bラインの変化を観察していきます。しかし誤嚥性肺炎は肺全体で起こっているということは少なく、局所にみられるのが一般的です。このため、肺炎の状態を継続的に観察するためには、同じ部位をエコーで見ていくことがポイントとなります。このためプローブを当てる位置については、利用者の許可をいただいた上で、印付けをします。「印を付けておくというと、点や×印を付けると思いがちですが、それではプローブを当てる方向が分からないので、プローブを置く位置を四角の印でつけておくとよいでしょう。そうすれば次回その四角にプローブを置くだけで容易に経過観察ができます」。ここまで座学を行った段階で、参加者は実際にエコーを使った演習に移りました。会場にはAラインやBラインが実際に描出できる胸部のシミュレータが用意され、山口先生やスタッフのアドバイスを受けながら、参加者は実際にプローブをシミュレータに当て、タブレット表示器に映し出されるエコー画像を見ていきます(図2)。
図2:肺シミュレータ
次いで膀胱のシミュレータを使った膀胱の描出方法についての説明と演習が行われ、後半のテーマである排便ケアのための直腸に対するエコーの話しにつながっていきます(図3)。
図3:膀胱シミュレータ
膀胱内尿量測定シミュレータモデル
排便ケアやそのアセスメント等のために、エコーで直腸にある便の状態を見ることは、大変有効だと言います。まず直腸をエコーで見るために必要な、男性と女性での直腸周辺の臓器に関する解剖学的な違いと、エコー画像について説明をしました。その上で、直腸の便を見るには直腸を輪切りにするように体の横方向にプローブをあてる方法をお薦めすると山口先生は強調します。
さらに直腸内の便の見え方について、山口先生は次のように説明をします。「まず便のエコー像は、便の表面で反射して出来る白い線とそれに伴ってできる後方の音響陰影で構成されます。エコーで直腸を探そうとすると、意外に見つけにくいものです。このため直腸そのものを探すのではなく、直腸のなかにある便の特徴的なエコー像を探していくとよいでしょう。さらに便の硬さについても、境界エコーの太さや音響陰影のグラデーションの度合いによって、推測・判断することができます」(図4)。
最後に山口先生は、「エコーの描出や判断の上達は、できるだけ数多く行うこと」だと述べ、エコーに関する今回の講演を結びました。
図4:直腸の便エコー像
すでに訪問看護ステーションでエコーを使っている上で、今回の体験会に参加させていただきました。普段の看護では、主に膀胱エコーとして活用しています。導入前に比べると、フォーリーカテーテルのトラブルがあった場合、エコーを使って調べることで、無駄な交換が少なくなりました。このような看護師が使えるアセスメントツールとしてのエコーというのは、たいへん良いものですね。利用者さんのQOLの向上という点でも、頻回なフォーリーカテーテル交換による侵襲や苦痛が少なくなったと思います。訪問診療を行う先生方は普段から多忙ですので、私たちがエコーを使って得た画像を先生に送って見ていただいたり、在宅で医師と看護師が一緒にエコーで描出した画像を見たりしています。こうした活用を通じて私たち自身も学び、また医師の先生方とのコミュニケ—ションツールにもなっています。さらに利用者さんご本人やご家族にも画像を見ていただくことで、尿の状態を理解していただいたりもしています。
以前からエコーの活用に興味があり、今回の体験会に参加しました。元々エコーについては医師が行うもので、難しいものだなと感じていましたね。今回、講義を受けた上で実際にエコーを使って膀胱を見た時には、尿が溜まっている様子や、カテーテルがきちんと入っている様子がしっかりと見えましたので、これは訪問看護の現場で活かせるなと思いました。実際に在宅のベッドサイドなどでエコーを使いこなすには、数をこなし経験を積む必要があると思います。しかし今回の体験会を受けて、しっかりと学べば私たちでも十分に使いこなすことができると実感することができました。
参考文献
1)International Journal of Emergency Medicine. 2018; 11(1): 8