糖尿病性足病変に対する 治療・フットケア

杏林大学医学部
形成外科 教授 大浦紀彦
日本看護協会看護研修学校
認定看護師教育課程長 
溝上祐子

2019年5月公開

※この記事は、公開年月現在の情報です。ご留意の上お読みください

5. 虚血があるかどうかを調べる②:客観的な血流評価の方法

重症下肢虚血(CLI)の治療を行う前には、血流の評価が必要です。虚血の評価には、脈拍触知や血管雑音聴取の他に、客観的評価を行います。

脈拍触知、血管雑音聴取

後脛骨動脈や足背動脈などの四肢の脈拍の程度や、左右差をみます。拍動の確認をする位置を図1に示します。脈拍触知の順番は、足背動脈、後脛骨動脈を触れ、それらが触れない場合は膝窩動脈、そして大腿動脈へと中枢側を触れていきます。血管雑音の聴診も血流評価の参考にはなりますが、客観的指標とはならないため、次に客観的評価を進めます。
なお、左右を同時に触れると判定しやすいと一般にいわれます(図2)が、重症下肢虚血の患者は、簡単に蝕知できないので、実際には、片方ずつ利き手の示指と中指を使って拍動が触れる部位を探すことが重要です(図3)。
脈拍触知の際は、「足背動脈が触れやすいが、後脛骨動脈が診断的価値にすぐれる」と教科書には書かれています。しかし、重症下肢虚血では石灰化していることが多く、まず後脛骨動脈を触知することは不可能です。通常触知可能なのは、足背動脈です。その他は、ドップラーにて確認しましょう(図3)。
なお、末梢から触れて減弱を認めたときは、順次中枢側を観察すると病変部位が確定しやすいです。
バイパス術が施行された患者も、バイパス血管を触知する必要があります。
なお、腓骨動脈は、腓骨の裏面にある動脈であるため、触診では拍動は触知できません。しかしドップラー聴診では近傍で拍動を確認可能です。

図1 下肢動脈の拍動の確認位置
図1 下肢動脈の拍動の確認位置
図2 脈拍触知の方法:両手での触診
図2 脈拍触知の方法:両手での触診
図3 脈拍触知の方法:片手での動脈触診とドップラー検査
図3 脈拍触知の方法:片手での動脈触診とドップラー検査

客観的評価

1. 足関節上腕血圧比(ABI)

足関節上腕血圧比(ankle brachial pressure index:ABI)は、両上腕と両足首部の血圧を測定し、左右差および上腕と足首での血圧比から、下肢循環障害の有無を確認する方法です(図4)。左右差の異常は20mmHg以上の差、血圧差の正常は0.9~1.3です。
ABIは簡単に行えるうえ、信頼性も比較的高いため、最も頻繁に行われています。しかし、近年増加傾向にある透析CLTIの高度石灰化症例では、虚血が存在していても、血管が石灰化で固く血管がつぶれないために、ABIが正常値を示すことが多いといわれています。その場合、後述するSPPが参考になります。

図4 ABIの測定
図4 ABIの測定

2. 足趾血圧(TBI、またはTBPI)

足趾血圧(toe-brachial pressure index:TBI、TBPI)は、足趾と上腕の血圧の比です。TBI0.7未満が異常となります。

3. 皮膚灌流圧(SPP)

皮膚灌流圧(skin perfusion pressure:SPP)は、レーザードップラーセンサーと血圧カフを用いてセンサー部位の皮膚灌流圧を計測する方法です。皮膚還流が停止するまでカフ圧を上げ、5mmHg間隔でゆっくりカフ圧を下げていき、皮膚血流が再開したときの圧です。40mmHg以上で治癒が期待でき、20mmHg以下では不良とされています。40mmHg未満は血行再建の適応です。
患者の不随意運動や疼痛などで計測できないことがあります。その場合は、他の指標を参考にします。

4. 経皮酸素分圧(TcPO2

経皮酸素分圧(transcutaneous oxygentension:TcPO2は、皮膚を加温することで皮膚表面からの酸素拡散を促進し、センサー内の電極を介して酸素分圧を測定する方法です。安静仰臥位で10mmHg未満、下腿下垂位で40mmHg未満ならCLIと判定されます。
測定前に校正が必要であることと、計測に時間を要することが欠点です。しかし、SPPと比較して締めつける必要がないため、疼痛を認める患者や、足の不随意運動を起こす患者には適応があります。
足底側での計測が困難といわれています。

これらの客観的評価によって、虚血のグレードを判断します(図5)。

図5 虚血(I)のグレード(WIfI分類より抜粋)
図5 虚血(I)のグレード(WIfI分類より抜粋)
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