2024年2月公開
Part2 脳卒中を理解するための「解剖」と「生理」
~看護師ならこれだけは覚えておきたい~
久松正樹
社会医療法人医仁会 中村記念南病院
急性期病棟 看護師長
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
久松正樹
社会医療法人医仁会 中村記念南病院
急性期病棟 看護師長
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
脳卒中になると、少なからず脳の細胞が破壊されてしまいます。損傷を受けた場所、範囲によってさまざまな症状が出ますが、その前に注意しなければならないことがあります。それが「脳浮腫」です。脳のエネルギー源は「酸素」と「ブドウ糖」です(図1)。この2つのエネルギー源が届かなくなると脳細胞はたちまち機能障害に陥ってしまいます。脳にいかに栄養を届けるか、酸素を届けるか、という視点が重要です。脳細胞が機能障害に陥ると可逆性の変化が訪れます。その経過の中で細胞内から水分が漏れ出てしまいます。これが脳浮腫です(図2)。
図1 脳のエネルギー
図2 血管性脳浮腫のイメージ
脳のエネルギー源は酸素とブドウ糖。この源がなくなるとたちまち機能不全になる
脳浮腫があり頭蓋内圧が高くなると、脳血流は低下してしまいます。脳血流が低下すると脳全体へ酸素とブドウ糖を供給できなくなってしまいますが、脳を守るために人間の体は心臓に働きかけ血圧を上昇させます。血圧が高くなることによって高くなった頭蓋内圧に打ち勝つように血流を送り込めるようになります。血圧が上昇すると副交感神経が刺激を受けます。血圧が上昇しすぎると出血のリスクが高まるため、生体が反応し、何とか落ち着けようと試みます。副交感神経が刺激を受けることによって脈はゆっくりと打つようになります(参考書などでは徐脈と記述されたりしています)。血圧が上昇し、脈がゆっくりと打つようになるということは、頭蓋内圧が何らかの要因により高くなっているということを示唆しています。この反応を「クッシング現象」と言ったりします(図3)。
図3 クッシング現象
クッシング現象は、頭蓋内圧が高まっていることを訴えている
クッシング現象は、血圧の上昇と徐脈
脳に栄養を送る血管は4本しかありません。この4本を前方、後方に分けてみます。
(1)前方
脳の前側部分に血流を送るのは「内頸動脈」。内頸動脈から「中大脳動脈」と「前大脳動脈」に分かれます。そして、左右をつなげる血管を「前交通動脈」と言います。中大脳動脈へ向かう路から細い血管が無数に脳の奥のほうへ伸びています。このような血管を「穿通枝」と呼んでいます。
(2)後方
脳の中心部分と後方に血流を送るのは「椎骨動脈」。左右の椎骨動脈は1本の「脳底動脈」になります。脳底動脈の頂上から再び左右に分かれる「後大脳動脈」が分岐します。
図4 代表的な脳の動脈
脳の中に入る血管は4本。さらに前方循環と後方循環に分けるとわかりやすい
脳の解剖では、「大脳」「小脳」「脳幹」の3つを覚えておきます。この中で「脳幹」は最も重要で、生命の維持にかかわります。脳幹はさらに、「中脳」「橋」「延髄」の3つに区分されます。
図5 脳の解剖
脳幹は生命の中枢、小脳は微細な動きをコントロールしている
「中脳」は対光反射、眼球運動にかかわっています。「橋(きょう)」は小脳との橋渡しという意味の「橋」です。そのため、小脳が考えた運動調節を伝達したり、多くの神経核があります(図6)。
図6 脳幹の構造
(1)神経核
核とは、電車で言うところを乗り換え駅です。運動を伝えたりするために脳からの伝達を一度橋の核という部分で違う経路に乗り換えたりしています。延髄は、呼吸や循環の中枢です。脳幹の中でも最も重要な生命の中枢です。
小脳は、平衡感覚や細かな運動の調整にかかわっています。ここが障害を受けるとめまいやふらつき、運動失調といって、繊細な動きができなくなります(図7)。
図7 小脳の構造
(2)失調を司る部位
失調は「調節を失う」と書きます。スムーズな動きのために運動を調節しています。この動きを指示しているのが小脳です。大脳は、運動や知覚、視覚、聴覚、言語の中枢です。この大脳から私たちは運動の指令を出したり、外界、全身からの知覚を受け取ったりしています(図8)。
図8 大脳の主な機能
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