2024年2月公開
Part3 脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の治療法
久松正樹
社会医療法人医仁会 中村記念南病院
急性期病棟 看護師長
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
久松正樹
社会医療法人医仁会 中村記念南病院
急性期病棟 看護師長
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
脳梗塞には3つの種類があることはすでに述べました。簡単に言うと、脳梗塞は塞栓物が脳の血管を閉塞することで生じます。ここで言う「塞栓物」とは「血の塊、脂肪分」のことです。通常は、血管の中に血の塊はできません。血管の中の血の塊が脳梗塞の原因とするなら、その血の塊をできないようにする、溶かす、取り出すことが治療の基本になります。治療方法に関しては、この血の塊にヒントがあると言えるでしょう。
脳梗塞の治療の基本は、抗凝固療法と抗血小板療法
(1)抗凝固療法
抗凝固療法は、主に心原性塞栓症の患者さんに行われます。心原性塞栓症は心臓の不整脈が原因で心臓(左心房)に血の塊(塞栓物)ができています。この塞栓物が脳の血管に詰まってしまうと脳梗塞になります。この塞栓物が心臓の血管を閉塞させてしまうと心筋梗塞となります。
内服薬の名前はワルファリンカリウム(ワーファリン®)、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ®)、リバーロキサバン(イグザレルト®)、アピキサバン(エリキュース®)、エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ®)です。
(2)抗血栓療法
抗血栓療法は脳梗塞の中でもアテローム血栓症、ラクナ梗塞の患者さんに行われます。アテローム血栓症やラクナ梗塞の患者さんは血栓と呼ばれる塞栓物が原因で血管が閉塞すると考えられています。
心原性塞栓症とアテローム血栓症、ラクナ梗塞は、いずれも血栓が原因ですが、薬の作用が若干違います。
心原性塞栓症の場合の血栓は、フィブリンが主役です。アテローム血栓症やラクナ梗塞の原因である血栓は血小板が主役です。
内服薬は、アスピリン(バイアスピリン®)、シロスタゾール(プレタール®)、クロピドグレル硫酸塩(プラビックス®)、プラスグレル塩酸塩(エフィエント®)です。
(3)抗凝固剤と抗血小板剤
抗凝固剤と抗血小板剤という2つの薬の違いを知るためには、血液がどのように固まるのか、を知る必要があります。出血すると止血機構が働きます。大きく分けて「一次止血」と「二次止血」です。
一次止血の主役は「血小板」です。傷がついたところに血小板が素早く集まり、まずは傷を塞ぎます。しかし、この血小板だけでは完全ではありません。流れの速い血管の中ではすぐに剥がれてしまいます。あくまでも一時しのぎで傷を素早く塞ぎます。
二次止血の主役は「フィブリン」です。フィブリンは簡単に言うと「コンクリート」です。血小板だけではとても弱いのでフィブリンというコンクリートでしっかりとより強固に傷を塞ぎます。心臓でできる塞栓物はフィブリンが中心の血栓になります。これは、ゆっくりとした流れの中で作られやすいのが特徴です。血小板が主役の塞栓物は速い流れの中で作られやすいのが特徴です。
抗凝固剤は、コンクリートであるフィブリンが作られないように作用します。一方、抗血小板剤は血小板同士のくっつきを防ぐように作用しています。「血がサラサラ」とよく聞きますが、血をサラサラにしているわけではなく、固まりにくくしているという考えが正しいです。
(4)血栓を溶かす
血管を閉塞させた血の塊を溶かす治療も行います。「血栓溶解療法(t-PA療法)」と言います。この治療はいつでもできるわけではありません。時間でいうと、発症してから4.5時間以内の場合に行われる治療方法です。具体的には、「プラスミン」と言う血栓を溶かす働きのある物質を活性化させる薬を投与します(図1)。
図1 血栓溶解療法の機序
血栓溶解療法を受けるためには、症状が出たら、いかに早く発見して病院に搬送するかがカギになります。
(5)血栓を直接取り除く
細いカテーテルを、閉塞している血管部分まで進めて、直接血栓を取り除く治療を「血栓回収療法」といいます。血栓回収療法は前述した「血栓溶解療法」と組み合わせて行う場合もあります。また、4.5時間という時間制限を超え、血栓溶解療法ができない場合にも、発症から24時間以内であれば治療が可能とされますが、条件はさまざまあります(図2)。
図2 血栓回収療法のイメージ
血栓回収療法も近年増えてきている
脳出血の治療には、薬物療法(保存的治療)と外科的手術の2つがあります。
(1)薬物療法
薬物療法といっても、薬によって脳内の血液を取り除くことはできません。これは、あくまでの血圧をコントロールして、それ以上の出血の拡大を防ぐ、または再出血を予防することが目的となります。
(2)外科的治療
脳内の出血量が多い場合、外科的に血液を取り除きます。先に、脳出血は出血しやすい場所があると述べました。出血した部位により、外科的な治療を行うか否かの条件は違います。
例えば、脳の皮質部分で出血している場合には、出血の量と神経所見など総合的に判断して治療を行います。
脳出血はとにかく血圧管理。外科的手術は部位によって適応はさまざま
くも膜下出血の治療は、先に述べた3つの時期で考えます。つまり、「手術が行われるまでの期間」「手術が終わってから約14日間(脳血管攣縮期)」「15日目以降の正常圧水頭症の時期」です。
(1)根治術
くも膜下出血の主な原因は脳血管にできた瘤です。この瘤が破裂することで、脳の表面に血液が広がります。瘤からの出血は一時的に止血されていますが、とても脆弱です。再び出血を起こすことによって予後が不良となります。
そのため、「根治術」が必要となります。根治術には2つあります。1つは、開頭して原因となっている脳動脈瘤の首元にクリップをかける外科的手術。もう1つは、血管の中からのアプローチです。太い血管からカテーテルを通し、破裂している脳動脈瘤の中に「コイル」と呼ばれる柔らかい針金を詰めていく血管内治療です(図3)。最近はより侵襲の少ない血管内治療が選択されるようになっています。出血の量が多く治療ができない場合には、保存的に見守ることを選択する場合もあります。
図3 動脈瘤のクリッピング術とコイル塞栓術
クリッピング術(左)、コイル塞栓術(右)
(2)手術終了後から約2週間
この時期は「スパズム期」とも呼ばれます。「スパズム」とは血管が痙攣性に収縮することをいい、血管の内腔を狭くしたり閉塞したりします。スパズムの原因は、くも膜下腔に流れた血液が血管に付着することで悪さをするものと考えられています。この時期には、脳梗塞の所見に注意が必要です。具体的には、抗血小板剤の投与と血管の拡張剤、体内の水分バランスに注意して脱水状態に陥ることを防ぎます。
(3)スパズム期が過ぎたら正常圧水頭症(図4)
脳を保護している髄液が脳室内に異常に貯留することを「水頭症」といいます。髄液は通常、「脈絡叢」と呼ばれる場所で産生されて「くも膜顆粒」で吸収されます。この産生と吸収のバランスが崩れることによって髄液が貯留します。頭蓋内の髄液が貯留するので頭蓋内圧が高まりそうですが、このときの頭蓋内圧は正常圧なのが特徴です。正常圧水頭症の有名な症状は「歩行障害」「失禁」「認知機能低下」です。
図4 正常圧水頭症(右)
正常圧水頭症の治療には「シャント術」が行われます。髄液が貯留している脳室内に管を入れて腹腔内へ排出するV-Pシャントと腰椎のくも膜下腔に管を入れて腹腔内へ排出するL-Pシャント(図5)があります。
図5 シャント術
くも膜下出血は時期を3つに分けて治療を考える
発症から手術まで 発症から14日まではスパズム期。スパズム期を過ぎたら水頭症
©ALCARE Co., Ltd.