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  • 第1回 先天性巨大色素性母斑の治療と自家培養表皮を用いた再生医療

公開日:2020/4/1

第1回 先天性巨大色素性母斑の治療と自家培養表皮を用いた再生医療

株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング

はじめに

先天性巨大色素性母斑は生まれた時から存在する大きなあざです。外見上の問題や将来的ながん化のリスクを考慮し、本人・親御さんとの話し合いを経て様々な治療(あるいは経過観察)が行われてきました。今回、本治療について先駆的に取り組んでこられた京都大学形成外科をお訪ねし、自家培養表皮を用いた最新の再生医療及び術後のケアについて、お話を伺いました。

第1回 先天性巨大色素性母斑の治療と自家培養表皮を用いた再生医療

第2回 座談会「自家培養表皮を用いた先天性巨大色素性母斑の治療における術後のケア」

先天性巨大色素性母斑の治療と自家培養表皮を用いた再生医療

京都大学大学院医学研究科
形成外科学
教授 森本尚樹 先生
講師 坂本道治 先生

─京都大学形成外科では、どのような治療を行われていますか。

形成外科は比較的新しくできた診療科ですが、京都大学形成外科は1977年に日本の国立大学で2番目に設置された歴史のある形成外科です。生まれつきの体表の形態異常、疾患や外傷によって変形や欠損した組織を再建し、外観や傷をきれいに治す治療を行っています。外からは見えない土台も整え、機能の再建も行います。
長年、西日本には形成外科が少なかったこともあり、遠方から来院される患者さんも少なくありません。近年では外傷、口唇口蓋裂、小耳症などの先天異常、腫瘍、瘢痕・ケロイドなど、年間1200件ほどの手術実績があります(2017年)。
他科との共同手術も多く、マイクロサージャリーなどの高難度手術、レーザー治療、薬物治療、細胞を用いた再生医療まで最先端の技術を用いた治療に取り組んでいます。
研究に関しては、臨床に直結した研究を積極的に行っています。特に皮膚再生分野では、再生医科学研究所等の基礎系の研究室や企業と共同して新規材料の開発を行っています。そして基礎研究で得られた成果を初めて人に使用するfirst-in-human試験を行い、実際に臨床現場に届けることを目標としています。

─先天性巨大色素性母斑とは、どのような疾患でしょうか。

色素性母斑は、皮膚の中に存在する母斑細胞がメラニン色素を産生するために生じます。小さいものはいわゆる「ほくろ」と呼ばれる茶色〜黒色のあざです。先天性巨大色素性母斑は、産まれた時から存在する大きなあざで、「巨大」の定義については成人では直径20㎝以上のもの、1歳時点での目安は体幹で6㎝以上、頭で9㎝以上のものとされています。
大きな母斑では悪性黒色腫(皮膚がん)の発生率が高まるため、切除することが望ましいとされています。発生率は数十%と言われていた頃もありましたが、2000年以後、解析が進んできて日本では数%と言われるようになり、臨床の現場からみても1~2%ではないかと感じています。そのほとんどが3歳から思春期までに発生すると言われ、そのまま治療をせずに20歳を超えると、発生のリスクは下がっていきます。
皮膚は外界から体内を保護する役割をもつ表皮(表層にある0.1mmから0.2mm程度の部分)と真皮(表皮の下層にある1mm程度の強い支持組織)から成り立っています。母斑はもともと皮膚の浅い部分で発生し、成長とともに徐々に深い層まで移動する性質があるため、生後できるだけ早い時期に取るのがよいと言えます。
患者さんの数については正確な統計はありませんが、出生2万人に1人程度とされています。つまり、日本での出生数が年間約100万人とすると、毎年50人程度の患者さんが産まれていることになります。胎児診断ではわからないため、生後に判明し、親御さんが心配して受診されるケースが多いです。
一方、母斑があると、見た目が気になるという問題もあります。成長につれて体表面積も大きくなるうえ、皮膚は小さいときのほうが伸びやすいため、それも1~2歳くらいまでの早い時期の治療を勧める理由の一つです。成人になって受診される方もいますが、50~60歳くらいになると、一般的に色が薄くなって目立ちにくくなってきます。

─先天性巨大色素性母斑の治療法には、どのようなものがありますか。

巨大色素性母斑の治療は、母斑の存在する部位や大きさ、年齢などによって治療法を選択し、いくつかの治療法を組み合わせて行います。基本的には、手術で母斑を完全に切除することが原則です。母斑を完全に切除できれば、皮膚がんの発生の心配も少なくなります。
残念ながら、巨大色素性母斑の治療方法は、現状で確立されていません。ただし、手術やレーザーなどの治療後、皮膚がんの発生頻度が上昇したという報告はありません。つまり、母斑細胞をゼロにすることはできなくても、母斑細胞の数を減らすことで皮膚がんの発生を抑制していると考えられます。
また、完全に取り切ることは難しい症例が多いため、整容性と皮膚がん発症のリスクを考え、どこで治療を終了するかも話し合う必要があります。

分割切除術およびエキスパンダー 分割切除術は、何回かに分けて色素性母斑を切除し、縫い合わせる方法です。エキスパンダー(皮膚を伸展させるシリコンバック)を皮下に埋入し、数ヵ月かけて拡張させた後の皮膚を用いた再建手術もよく行われます。切除手術などを行う場合は1歳以降に行います。体幹部や上下肢では1歳半くらいから、顔面、頭部へのエキスパンダーの使用は骨が癒合するのを待って2歳前くらいから行います。
植皮術 患者さんの皮膚を採取して移植する植皮手術は、病変部を除去した後に、正常な場所から皮膚を取ってきて置き換える方法です。皮膚が取れる大きさに限りがあり、皮膚を採取する場所にも傷ができてしまうという問題があります。
自家培養表皮移植術 患者さんの健康な皮膚の一部を切り取り、3週間ほどかけて培養して表皮細胞シートを作製します。そして、色素性母斑を取り除いた後、表皮細胞シートを移植します。すると、表皮細胞シートが真皮に生着して時間をかけてしっかりとした皮膚になります。
キュレッテージ 母斑の表面を削り取る手術です。1歳以下で、何回かに分けても切除できない大きさの母斑、あるいは切除しにくい場所(顔面など)にある母斑がある場合、できるだけ早期(生後3ヵ月程度から)にキュレッテージを行います。1歳までに数回以上手術を行えば、体表面積の数十%以上のかなり大きな母斑でも削り取ることが可能です。母斑に生えている毛を取り除くため、レーザーを用いた脱毛処置も行います。治療後、3ヵ月~半年程度は傷の遮光、圧迫、保湿などを行います。
レーザー治療  レーザーは色素を破壊する方法で、複数回の治療を必要とします。直接母斑細胞を破壊するわけではなく、皮膚の深部までは届かないため、母斑細胞を完全に取り除くことは困難です。特に獣毛性母斑という毛の多い母斑では、毛包(毛の根元)から再発することがよくあります。

─自家培養表皮ジェイス®※を用いた治療について教えてください。

自家培養表皮の技術は1970年代に米国で開発され、日本では2009年からこの培養技術を用いて作製される自家培養表皮ジェイス®が重症熱傷治療に保険適用されました。そして2016年12月からは、先天性巨大色素性母斑の治療に対しても保険適用となりました。自家培養表皮ジェイス®は、これまでに重症熱傷治療で約700名以上、巨大色素性母斑治療で100例以上の患者さんに使用されています。
当院では、母斑が大きい場合や顔面など早くきれいに直す必要がある部位にジェイス®を使用しています。先天性巨大色素性母斑の患者さんが年間80~90名いる中、ジェイスを使った症例は延べ16例の経験があり、その結果を検証しているところです。手のひらの大きさが患者さんの体表面積の約1%になりますが、ジェイス®を用いる場合は体表面積の5~10%程度まで一度の手術でキュレッテージを行うことが可能です。全身麻酔下での手術がある程度安定してできるのは生後3ヵ月程度からになるため、生後1~2ヵ月で当院に紹介され来院後、3ヵ月時に皮膚を採取し培養して、4ヵ月時に移植という症例が多いです。
ジェイス®だけで皮膚の再生が行えれば理想的なのですが、母斑を取るために深く切除しなければならない場合は治療が難しくなります。皮膚は表皮と真皮からできていて、自家培養表皮が生着するためには土台の真皮が必要なのです。そこで、6倍程度に拡大した自家メッシュ植皮を行い、その上にジェイス®を重ねて移植するという併用法を行うと、生着率がぐんと上がり、傷の速やかな上皮化が得られることがわかりました。

─ジェイス®を移植した症例をご紹介いただけますか。

■症例①

3ヵ月 女児 頭部
キュレッティング後にジェイス®を移植しました。移植1週で上皮化した後、11日後、1ヵ月後と日が経つにつれ、痂皮が収縮しひび割れが発生しましたが、痂皮を除去すると落ち着きました。術後6ヵ月で再発はなく、毛も生えました。(図1~2)。

図1
図2

■症例②

1歳 男児 左耳介
キュレッティング後にジェイス®を移植しました。移植1週で上皮化、1年後、色調は薄くなっていて、肥厚性瘢痕も見られません。毛根を中心とした色調の再発と剛毛が目立つため、今後、レーザーによる追加治療を予定しています(図3~6)。

図3
図4
図5
図6

─今後の皮膚再生医療の発展について、どのようにお考えですか。

皮膚の再生医療は最も古くから臨床応用されている分野で、他人の皮膚移植(同種皮膚移植)は1950年代から、自家培養表皮は1970年代に、二層性人工真皮は1990年代に開発されています。iPS細胞が登場して再生医療が脚光を浴びる前から、形成外科では皮膚の再生治療が行われてきました。しかし、残念ながら完全な皮膚再生は未だに不可能です。また、部位や範囲、皮膚の状態、治療後の経過などには個人差が大きく、なかなか一般化することは難しいといえます。
私は皮膚再生研究を20年近く行ってきた中で、培養皮膚、薬剤徐放性新規人工真皮(2018年にペルナックGプラス®として保険収載)の開発にも携わってきました。ジェイス®を用いた治療においては、比較的満足のいく結果が得られている症例もありますが、切除した部分にそのまま置き換えられるようなしっかりした皮膚ができればいいと思います。
治療はさまざまな技術を組み合わせることで進歩することが多く、皮膚再生も自家培養表皮などの細胞、人工真皮、細胞成長因子、高圧処理といった技術を組み合わせて、今後も発展すると考えています。

※自家培養表皮ジェイス®とは

1970年代にハーバード大学医学部のHoward Green教授が生み出した手法をベースに、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)が日本初のヒト細胞を用いた再生医療製品として開発したもの。1-2㎠程度の正常な皮膚組織から表皮細胞を分離して培養すると、3-4週間で全身をすべて覆える面積の培養表皮シートを作製することができる。

株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング

第2回 座談会「自家培養表皮を用いた先天性巨大色素性母斑の治療における術後のケア」

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