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公開日:2020/4/1
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
先天性巨大色素性母斑は生まれた時から存在する大きなあざです。外見上の問題や将来的ながん化のリスクを考慮し、本人・親御さんとの話し合いを経て様々な治療(あるいは経過観察)が行われてきました。今回、本治療について先駆的に取り組んでこられた京都大学形成外科をお訪ねし、自家培養表皮を用いた最新の再生医療及び術後のケアについて、お話を伺いました。
第1回 先天性巨大色素性母斑の治療と自家培養表皮を用いた再生医療
第2回 座談会「自家培養表皮を用いた先天性巨大色素性母斑の治療における術後のケア」
(参加者)
京都大学大学院医学研究科 形成外科学
教授 森本尚樹 先生
講師 坂本道治 先生
看護部 山本由美子さん
看護部 三富陽子さん
三富:
私はWOCナースで、もともと褥瘡対策の専任師長ですが、3年前から外来の師長を兼任しています。褥瘡治療の経験を活かして、先天性巨大色素性母斑の子どもたちの退院してからの創の状態や在宅での管理状況をよく観察し、変化を見逃さないようにしています。
山本:
私は小児科の外科チームに所属していますが、一番気を付けているのは、術後の感染防止です。滲出液の量をこまめにチェックし、熱が出たら微熱でも、しばらく様子を見るのではなく、タイムリーに報告して指示を仰いでいます。感染を起こした場合は、先生から抗菌薬投与などの指示がありますので、それに従い、点滴を漏らさないといったことにも注意しています。
森本:
自家培養表皮ジェイス®を使用したとき、術後5日間ほどはガーゼを縫合固定するので、その間はほとんどの場合、問題は起こりません。5~7日目くらいで傷の様子を見ながらガーゼを外していきますが、その間は1日で傷の状態が変わることがあるので、注意が必要です。
森本:
だいたい1週間から10日くらいで、シャワーが可能になります。
三富:
術後、最初のシャワーは、先生と看護師とお母さんも一緒に行います。どれくらいの水圧、温度が適切か、「ここは石鹸を泡立ててやさしく洗ってください」「石鹸が残らないように流すのが大事ですよ」といった指導を先生と一緒に行い、看護師間でも共有し、次の医師立ち合いがないシャワー浴でも同様の指導が行えるようにしています。
山本:
水圧の調整が難しいときは、シャワーヘッドにタオルをつけてゆるくする工夫をしたりもしています。あと、形成外科の子どもたちは、包帯を巻かれていて暑いので、室温管理には注意しています。汗をかくと、かゆみの原因にもなりますから。
森本:
シャワーで洗って清潔にした後は、皮膚に問題を起こさないような被覆材で覆い、適度の湿潤状態を保ちます。
山本:
被覆材の中でも創傷用シリコーンゲルドレッシングは、シリコン素材で皮膚を傷つけずにはがせるので、安心して使えます。
森本:
ジェイス®を使った場合も、皮膚が弱いところに被覆材を貼るので、テープによるトラブルもあります。また、滲出液が出てきた場合も、何を貼るかという問題が出てきます。京大に来たとき、皮膚にやさしい被覆材が少なかったので、かなり入れ替えさせていただきました。
三富:
森本教授が就任されてから、かなりシリコーンゲルドレッシング材のラインナップが揃い、スキンケアがしやすくなりました。私たちとしては、やはり痛みなく交換できるものが一番だと考えています。
森本:
点滴のルートの固定なども、しっかり止めたほうがいいのですが、皮膚が弱いお子さんの場合、はがすときに問題が起こらないようにしなければなりません。
坂本:
接着剤を使ったテープだと、毎回リムーバーを使って剥がす必要があります。シリコン製のものははがすとき痛くないので、子どもたちが処置を嫌がることが少ないですね。
三富:
退院後はご自宅でケアをされますので、売店にも同じものを置いてもらいました。また、遠方の方には配送できる体制も整えています。
山本:
包帯がずれると、中のガーゼなどもずれてしまうので、安静にしてもらうことは常に気を使っています。
三富:
「安静にしてね」と言ってもまだ理解できない年齢のお子さんもいるので、どうやって患部を守るかが課題でもあります。
山本:
移植する皮膚を取ってくる部位は、股やお尻、背部といった場所に傷があることも多く、動かないようにするのは難しいんです。ですから、先生に抱っこはしてもいいか、プレイルームに遊びに行っていいかなど確認して、お母さんにも気をつけてもらっています。赤ちゃんは便が柔らかいので、傷がある背中側に潜り込んでしまうのも困ります。
三富:
汚れたドレッシング材を長時間つけているのはよくないので、汚染したら放置せず、早く取って洗って、スキンケアしてあげることが大事ですね。
森本:
昔は消毒して触るなという方針が多かったですが、今は汚れたら即対処するという方針です。菌は一時的に減ったとしても又増えるものです。
山本:
抱っこしているときや、寝ているとき、ダイレクトに背中側に便が流れてしまうので、包帯の上にフィルム材を貼って、なるべく汚染させないようにしています。最後に、その上からガーゼを置いて吸わせると、せき止められて効果的でした。
坂本:
排泄を意思表示できる年齢の子では、おむつを履いたまま立たせて、その中にしてもらうこともありますね。
山本:
術後はどうしても気張れなかったり、足を曲げられなかったりするので、洋式トイレに座るのも困難なのです。大きくなれば、トイレ介助も年齢に応じた対応をしなければいけません。
坂本:
遠方の患者さんの場合、ちょっと見せてもらうために来院してもらうことが難しいですよね。そこで退院後、術後の経過は、患部をスマートフォンで撮影して送ってもらっています。個人情報の取り扱いには十分注意しながらということにはなりますが。
森本:
自宅でのケアについて迷う親御さんもいますが、画像が見られるとアドバイスもできますからね。
三富:
お電話で「傷が赤いんですけど」と相談されても、どの程度かわかりませんが、写真があれば先生に確認してもらって「これなら大丈夫」と言えます。
坂本:
何よりも今すぐ受診しなければいけない状態なのか、少し様子を見てもいい状態なのか判断がつくだけで、親御さんとしてはかなり助かるかと思いますし、こちらとしても安心なんです。
森本:
次の外来受診が数日後といった場合も、その間に何が起こるかわからないので、連絡してもらえればすぐに確認できるようにしています。
三富:
ご家族には気を付けてほしいことなどをまとめた冊子をお渡ししていますが、傷が赤くなったり、痛みが持続したり、どのような状態のときに連絡してほしいかも詳しく書いてあります。
山本:
形成外科に限定した看護のマニュアルというものは、市販されていません。私も実践で覚えていき、先生方から学び、それを知識としてやってきました。学生時代の教科書などでも形成外科のケアについて書かれたものは少なくて、インターネットで先生方のサイトなどで調べたりしています。ですから新しいメンバーが入ってくると、ケアの方法は病棟で継承していくしかないんです。
三富:
お母さんたちに渡すパンフレットなども、手本となるような看護の本がないので、ほとんどオリジナルです。先生と一緒に写真を撮って、お母さんたちに、わかりやすく解説し、手作りしています。
森本:
たしかに形成外科の看護の教材は、あまりないですね。本を出しても数が少なく、売れないからかもしれません。症例を集めて、揃えていけばいいのでしょうが。
坂本:
また、各医者のこだわりがそれぞれ違うんですよね。
森本:
本当にみんな自分流のところはありますね。皮膚移植の術後は5日間~1週間は動かさないとか、傷が落ち着くまで3ヵ月くらいはテープで固定するとか、そういう基本的なことは決まっています。でも、それ以上の細かいところは、それぞれの部位にもよって違いますしね。
三富:
ドレッシング材なども、褥瘡用のものはたくさんあるのに、形成外科の術後創傷用となると少ないんです。特に母斑の術後の傷というのは、多種多様、個別性が高いので、管理方法に迷うこともあります。
山本:
いろいろ工夫して、あとは時代の流れとともに、いいものが出てきたら取り入れていく感じです。
森本:
やはり褥瘡のほうが一般化されていますね。
山本:
他施設がどうしているかという情報がないので、先生に言われた通りにやり、日々どうしたらよいか試行錯誤しています。
山本:
数カ月の小さな赤ちゃんに手術をするのはかわいそうにも感じますが、「うちの子も早くしてあげればよかった」とお母さんが自分の決断が遅かったり、受診を躊躇したりしたことを後悔しているケースもあり、スタートは早いほうがいいかなと実感します。当院では1歳未満から治療を始めることも多いので、年を追って成長を見守っている子たちがたくさんいます。
森本:
最初はお母さん自身も出産したばかりで、数ヵ月のうちに手術を決断するのは大変だと思います。でも何回か行っているうちに、次第に慣れてきますね。
山本:
お母さんたちは、知識も豊富です。病気のこと、病院や先生たちのこともよく調べていて驚かされます。
森本:
最近はみなさん、ネットで調べますからね。あとは来院していただいて、ある程度時間を取って個別にお話しして治療方針を決めることになります。ただ、産婦人科や小児科などでの啓蒙がもう少し必要だと感じていて、周産期の学会に行って話したりすることもあります。このような治療があるということを皆さんに知っていただきたいです。
三富:
お母さんによっても温度差がありますね。お母さんが気にしていても、お子さん自身はさほど気にしていないことも。お子さんの年齢にもよりますが、けっこう審美的な要素も多い治療なので、個人の価値観的な部分が大きいかとは思います。
森本:
全国各地から患者さんが見えますが、地域差もあるように感じます。患者さんはまんべんなくいるはずなのですが、関西に比べて東北や北海道ではジェイス®を使った症例数も少ないですし。また、ある九州の方は「この子ががんになる率はどれくらいでしょうか?」と訊ねられて、それほど高くはないことをご説明すると、「それなら取らなくていいです」と。すでに本人も小学生になっていて、そのまま生活しているからと。そういう方も少なからずいらっしゃいます。
山本:
母斑の治療をしている子どもたちを見ていて思うのは、まるで夢のような人工の皮膚があって、1回の手術で母斑を取り切ってそれを貼るだけできれいな皮膚になるといいなということです。現実の現場でほしいのは、もっと吸収力の高いドレッシング材。何枚も重ねていても、一晩で滲出液が染み出てくることがあるんです。
三富:
滲出液の吸収力は高いのに分厚くなく、通気性がよく、感染しにくいものがいいですね。また、シリコン製のものはとてもよいので、単価を気にせずに気軽に使える価格になるとうれしいです。
山本:
包帯やネットは、かゆみが抑えられるものがあると助かります。子どもたちは「掻いたらあかん」と言っても、掻いてしまうので。
三富:
かゆみはクーリングで冷やすことくらいしかできないんです。
山本:
ひんやりする素材のものがあるといいかもしれません。
森本:
そもそもなんでかゆいのかを知る必要がありますね。
坂本:
服などとは別の布が当たるからですかね。素材を変えればいいのかどうか。あるいは接触の具合によるのか。
山本:
おむつの形態にしても、現在はガーゼを挟んでせき止めていますが、腰の部分に吸収する素材が入っているとよいかもしれません。感染が一番困りますし、入院期間が伸びるとストレスにもなってしまいます。皮膚に影響を与えず、快適に過ごせるようなものが充実するとありがたいです。
森本:
これからも現場の声をまとめて、治療に活かしていきたいと思います。