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公開日:2020/11/20
日本シグマックス株式会社
この記事を読んでくださる多くの看護師さんにとっては、「エコー、難しそう」「(忙しいし、わかんないし)検査の人か医者がやってよ…」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか?セミナーや講演会でも、SNS、個人メールに至るまで同様のお悩みをよく聞きます。折角この記事を読んで見ようと思った方々には、ぜひエコーに触れてみてほしいと思います。
その際は、今回の連載を参考にして、エコーをどんなことに使いたいのか、イメージをしてみてください。エコーは、ピッと当てれば機械が判断して答えてくれるモダリティではありません。使用に際して、我々医療者の判断が必要なものであるという前提を考えると、アレもコレも手を出そうとしすぎると挫折しやすい気がしています。
エコーの小型化により、その場で直ぐに当て判断するエコーの手技、ポイントオブケアエコー(point-of-care ultrasound, POCUS)とも呼ばれる「ちょいあてエコー」が、世界的にも、もちろん日本でも、都市部でも地方でも、病院でも診療所でも、そして医師でも看護師でも、盛んになっています。看護師も気軽に使える「ポケットエコー miruco(ミルコ)」は、看護師が出来る「ちょいあてエコー」をサポートするデバイスです。
普段の排泄ケアに、ちょい足しの気分でエコーを手にしてもらうと、この便利さを実感してもらうことができると思います。ポケットエコーmirucoは、看護師の排泄アセスメントととても相性が良いのです。
こんな経験もありました。「あの患者さん、トイレが近い」と思って、イライラしながトイレ介助をしていたけど、あるいは「おしっこ近い」と思っていたけど、エコーで見てみたら実は便がびっちりと溜まっていた。何度トイレに行っても、患者さん自身は「便が出そうで出ない」、看護師も「出そうで出ていない」と勘違いしていたのです。患者さんご本人にとっても「どうしていいか分からず、困っていた」、看護師にとっても「気づいてあげられなくて、反省をしていた」という事例が散見されます。我々は今まで、可視化できないことで勘違いをしたり、患者さんにとって負担を増やしたり、自分たちの仕事の効率までも落とすようなことになっていたのかもしれません。
「便が出ない」というのは、どんな状態でしょうか?我々は「食事が摂れない」という問題に対して、「どの食形態が良いだろうか?」「摂取カロリーが不足しそうだから、ドリンクを追加したらどうか?」と対処し始める前に、「食欲がないのか?」「食べる機能に問題があるのか?」「そもそも食べたくないのか?」と確認します。同じように「便が出ない」という問題を解決する場合も、本来は同じです。「下剤はどれだけ飲ませるか?」「浣腸をかけよう!」と対処を優先する前に、原因を考えることが大切になります。
「便が出ない」ことで起こる随伴症状は多いため、原疾患の治療が優先されるような状況では致し方ない場面もあるかと思います。でも、日常生活でそれが延々と続くことは、心苦しくないでしょうか?
「便が出ない」という状態は、2つに大別できます。
1)便が「ない」から出ない
2)便が「ある」のに出ない
排便ケアの難しさは、便が外に出てくるまで、肛門周囲で目視できるまで、または肛門や直腸内に指で確認ができる状態になるまで、便の行方が分からないということにありました。
その結果として、「とりあえず下剤を飲んでおけばいいじゃない」とか、「出るか分からないけど、今日は浣腸の日だから、とりあえず浣腸をかけておこう」など、患者の状態に見合わない排便ケアが習慣化しているという現状が続いていました。
エコーの活用に慣れた方であれば、大腸全体をみて、便やガスの状態を見極めることもさほど難しくはありません。腸閉塞の兆候などの観察もベットサイドで行うことができます。しかし、普段エコーの画像を見慣れていない方が大腸全体を確認するには、解剖学的知識や、人によって異なる大腸の走行を探す技術など、ある程度の慣れが必要になります。
一般的に、便が有形になるのは大腸の遠位2/3(3分の2)から直腸にかけてです。便エコーに慣れていない場合は、「直腸に便があるか、ないか」の判断から活用を始めて、徐々に腹部全体の活用するように使って欲しいと思います。腸の全体像が評価できる方が、より良いアセスメントが可能ではありますが、まずは「直腸に便があるかないか」、「その硬さがどの程度か?」が分かれば、「今まさに便を出したほうが良いのか?」「まだ様子を見て良いのか?」の判断の助けになります。その意味でもどこでも気軽に使え、簡単に操作できる「ポケットエコー miruco」は便利です。
一方で、便エコーはプローブの操作技術が必要ですので、エコーを初めて触る方は、ぜひ「膀胱エコー(連載第1回参照」)から学んで頂くことをオススメいたします。排便と排尿は、密接な関係にあり、前述のように「便が出ない」という訴えの原因が「尿閉」だったということもありますし、その逆も珍しくはありません。
仰臥位の状態で観察をすると、直腸は膀胱の背側に位置します。膀胱のエコーをマスターしてしまえば、直腸を描出することはあまり難しくありません。実際の直腸診などと併用をしながら観察を行うことも有用です。また、超音波は水分の多い場所を透過しやすいため、直腸の便の観察をする際には、膀胱に尿が溜まっている状態(音響窓などと表記される)のほうが容易になります(図1、2)。はじめは、できるだけ見えやすい条件で観察を行う方が良いと思います。
エコーでは、液体は黒く(尿など)、硬いものは白く(骨など)見えます。そのため、エコーでの便の見え方は、便の硬さによって異なります(図3、4)。ブリストル便形状スケールとあわせて考えると画像のイメージが付きやすく、実際のケアに役立ちます。
●いわゆる硬便(ブリストルスケール1や2)の場合:
便のエコー像は、周囲の組織との間に、白くはっきりとした境界(高エコー像)が見えます。さらに、便を超音波が透過しないために生じる黒い影(後方音響陰影:図3)が生じます。このような画像がはっきりわかる状態だと、患者さんが自力で排便をすることが困難なため、摘便などの処置で直腸から便を出す看護援助が必要になります。このような状態の「便が出ていない」患者さんに、下剤の内服で排便を促してはいけません。なぜなら下剤には直腸から便を押し出すという薬効はありません。そのため、硬便が排出されたあとに、下剤が効きすぎた影響で、今度は下痢をする状態を作り出してしまうことになります。
●便の硬さと形が正常の範囲(ブリストルスケールが3から4)の場合:
便のエコー像は、高エコー像が不明瞭となり、後方音響陰影も黒一色で明瞭ではない画像になることが多いです。これは、硬便よりも超音波を透過する部位が混ざるためです。このような画像が見られる際には、患者さんをトイレに誘導したり、温水便座の刺激をしたり、必要であれば、座薬や浣腸などの排便を促す処置が効果的です。また、硬便の塊は元々複数の便の塊が、寄り集まって形成されます。そのため、臨床では、直腸の中に複数の高エコー像と、それに伴う後方音響陰影像が散在する状態を見ることが多くあります。
2018年頃に実施したの我々の研究でも、硬便から普通便(ブリストルスケール1から4)の状態であれば、80%以上は予測が可能という結果でした。そこからも、直腸に便があるのか、ないのかはエコーで概ね知ることができます。また、便の硬さについても、ある程度の正確性を持って判断することができると考えています(慣れると更に精度があがる)。現状は便の量の評価が確立していないので、排便の量が実際のケアとどのような因果関係になるのか検証が今後は必要だと思います。
今まで、患者さんの負担になる、手間がかかるなどの理由で、直腸診により「直腸への便の下降」を確認することが敬遠されてきたと思います。結果、「便が出ないから下剤や浣腸」というルーチン化したケアの弊害が目立ちました。その弊害を是正するには、直腸に「便の下降」を認めたら、「下剤の内服は不要である」、「便の硬さに応じて便を出す援助が必要である」と自信をもって判断するためにも、ポケットエコーを活用して排便アセスメントの情報収集をすることが大切になってきます。
看護師向けに開発された「ポケットエコー miruco」を重要な判断ツールとして、排便ケアのアセスメントに活用できるよう、今後もケアのプロトコールの作成などに取り組んでいきたいと考えています。
参考文献
(1) 厚生労働省:平成25年国民生活調査 統計表.
(2) 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会 慢性便秘の診・治療研究会編.慢性便秘症診療ガイドライン2017:3-5,南江堂,東京,2017
(3) 小林只(編著).みるミルできるポケットエコー 膀胱. 中外医学社, 2016.
(4) 明野伸次:訪問看護におけるエコーを活用した「排便アセスメントガイド」の作成,2017