Part10 褥瘡(じょくそう)を治すために必要な栄養と痛みの知識褥瘡の「痛み」にどう対応する?
2023年2月更新(2016年6月公開)
仙骨部の深くて大きな褥瘡を見たとき、「この患者は痛くないのかな?」と思った方は多いでしょう。高齢患者の中には、意識状態が明瞭でなかったり、訴えをはっきりと伝えることができなったりする人が多いことから、医療従事者は「褥瘡の痛み」についてあまり深刻に考えていないことが多いようです。しかし、痛みは最大の苦痛です。褥瘡患者のQOLを維持・向上させるためには、痛みの有無と程度を知って、疼痛緩和のためにできる限りの治療やケアを行うことが重要です。
『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』には、急性期病院、長期ケア施設、在宅のステージⅡ、Ⅲ、Ⅳの褥瘡をもっている患者の75%が「緩やかな痛み」を、18%が「耐えがたい痛み」をもっていると報告しています1。このことから、浅い褥瘡でも患者は痛みを感じており、深い褥瘡ほど強い痛みがあることがわかります。特に、DTIなど炎症期にある褥瘡は強い痛みを伴います。そこで、すべての褥瘡において痛みのアセスメントが不可欠になります。
『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』では、痛みについては「処置時および安静時を含めた処置以外のときに評価してもよい」とされています。痛みの評価は、主観的疼痛評価スケールを用いて評価することとなっています。主観的疼痛評価スケールとしては、VAS(視覚的アナログ尺度:visual analogue scale、図1)、NRS(数値的評価尺度:numerical rating scale、図2)、FRS(フェイススケール、図3)、MPQ(マクギル疼痛質問票:McGill Pain Questionnaire)などがあります。VAS、FRS、MPQなどの主観的疼痛評価スケールは、患者が感じている褥瘡の痛みの程度を反映しており、褥瘡の痛みの評価に適しているとされています。
急性期褥瘡では特に強い痛みを訴える場合があるので、鎮痛薬を有効に使うことも必要になります。
図1 視覚的アナログ尺度(VAS:visual analogue scale)
図2 数値的評価尺度(NRS:numerical rating scale)
図3 フェイススケール(FRS:Wong-Baker faces pain rating scale)
また、ドレッシング材の中には、痛みを緩和するはたらきをもつものもあります(表1)。それらを効果的に使って、患者の痛みを取る治療・ケアを優先させましょう。さらに、ドレッシング材交換時の痛みを除去することも大切です。ドレッシング材交換時の身体的痛みは、表2のような状況が考えられます。それぞれの状況に対して、トータルペインの考え方により有効なアプローチを行う必要があります。
表1 痛みの緩和が期待できる代表的なドレッシング材
ハイドロジェル(真皮に至る創傷用) | |
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ビューゲル® |
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ポリウレタンフォーム(皮下組織に至る創傷用) | |
メピレックス®ボーダー フレックス |
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ハイドロサイト®ADジェントル |
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表2 ドレッシング材交換時の痛みの状況
- 安静時にも見られる創の炎症や感染などによる痛み
- 体動時にも見られる衣類やドレッシング材の摩擦刺激による痛み
- ドレッシング材の除去や創部の洗浄、外科的デブリードマンなど処置を行うときの機械的刺激による痛み
- 粘着性ドレッシング材や粘着テープを剥離したときの創周囲皮膚への機械的刺激による痛み
- 処置を行う際の体位による骨や関節、筋肉の痛み
祖父江正代:ドレッシング材交換時の痛みのマネジメント.エキスパートナース2010;26(14):48.より引用
引用文献
- Szor JK, Bourguignon C:Description of pressure ulcer pain at rest and dressing change. J Wound Ostomy Continence Nurs 26(3):115-120,1999.
- 祖父江正代:ドレッシング材交換時の痛みのマネジメント.エキスパートナース 2010;26(14):48.