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第32回オストメイトの集い 特別講演 賢く食べて健やかに ~“足し算食べ”のすすめ~ ストーマを持たれた方の食生活

2018年10月公開

賢く食べて健やかに ~“足し算食べ”のすすめ~

はじめに

私は長年、病院で管理栄養士を務めてきました。一般的に、高血圧なら「塩分を控えましょう」、糖尿病なら「摂取カロリーを抑えましょう」といった指導が行われています。しかし、控えるばかりでは楽しい食生活を送れません。今日は「栄養素を引き算する食べかた」ではなく、「どう足し算をして食べたら健康で長生きできるか」というお話をしたいと思います。

歳をとったら「痩せない」ことが大切

一般的に、健康で長生きするには標準体重を維持するべきだと言われています。標準体重とは、体格指数であるBMI(Body Mass Index)が22程度の体重を指しますが、70歳を過ぎたら必ずしもそれは当てはまりません。

厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2015年版)』では、70歳以上の場合は22.5~27.4程度、つまり小太りといわれるくらいが健康的だとしています(図1)。一方、痩せ過ぎや「低栄養」は活力や身体機能の低下を招き、健康を損ないます。

低栄養とは、食欲の低下や食事が食べにくくなるなどの理由から食事量が減り、身体を動かすエネルギーや、筋肉、皮膚、内臓などをつくるたんぱく質が不足した状態のことです。つまり、高齢者はしっかり食事をして栄養を摂り、痩せないように注意することが大切になります。

※BMI=体重(kg)÷〔身長(m)×身長(m)〕

図1 死亡率とBMIの関係

「たんぱく質」をしっかり摂取

高齢者の場合、肉など動物性たんぱく質の摂取が特に減る傾向にあります1。加齢とともに減少する筋肉を維持・強化し、高齢者が陥りがちな「フレイル」を予防するには、動物性たんぱく質をしっかり摂る必要があります。

『日本人の食事摂取基準(2015年版)』によると、高齢者では「少なくとも毎食良質なたんぱく質を25~30g摂取しなければ骨格筋で有効なたんぱく合成が1日を通して維持できない可能性がある2」と記載されています。これは1日に換算すると75gになります。たんぱく質の推奨量は、成人男性が60g、女性が50gなので、高齢者が筋肉を維持するには一般成人より多く摂る必要があるのです。

では、どのような食事をすればこれを満たすことができるのでしょうか。1食25~30gのたんぱく質を摂るには、例えば朝食なら「納豆1個+卵1個+ギリシャヨーグルト1個」が必要となります。ギリシャヨーグルトは、水切りしてあるため少量でもたんぱく質を多く摂取できてお勧めです。夕食なら、さんま1尾+豆腐1/4丁+卵1個程度を食べる必要があります(図2)。

※フレイル:英語で虚弱や老衰などの意味を指す「Frailty」をもとに、日本老年学会によって考案された概念。高齢になって筋力や活力が衰えた状態で、健康と病気の中間的な段階とされる。

図2 1食分のたんぱく質を満たす目安量

  1. 1.厚生労働省:平成23年国民健康・栄養調査結果の概要
  2. 2.Paddon-Jones D, et al.: Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2009; 12: 86-90.
「緑黄色野菜」が先、「炭水化物」は後

食後は血糖値が一時的に上がりますが、通常は2時間以内に正常値に戻ります。食後2時間経っても血糖値が140mg/dL以上ある場合は「食後高血糖」と呼ばれ、糖尿病予備軍であるにも関わらず健康診断で見逃されやすことから、近年問題視されています。

この食後高血糖を防ぐには、食べる順番が大切です。緑黄色野菜などの食物繊維や肉類などのたんぱく質を先に食べてから、ごはんなどの炭水化物を食べると、食後の血糖上昇が穏やかになります(図3)。

図3 血糖値の上がり方と食べ方の関係

「果物」を積極的にとる

果物は血糖値を上げやすいイメージがありますが、それは必ずしも正しくありません。1日あたり約250gの果物摂取で糖尿病の発症リスクが最も低いことがわかっています3。また、心筋梗塞や脳卒中の予防にも果物の摂取は重要です。日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017』では、「果物を高頻度あるいは量を多く摂取した群ほど、心血管疾患死亡率や脳卒中死亡率が低い4」と記載しています。

特にキウイやリンゴ、ナシは血糖値を上げにくいので、おやつを食べるならこれらを選ぶのがお勧めです。一方、ブドウはぶどう糖が多く、カキ、パイナップル、マンゴー、バナナなどはしょ糖が多く、血糖値を上げやすいため、食後に食べるか上がりにくい種類と組みあわせて食べるなど注意が必要です。

「油脂」の摂取も大切

歳をとると油脂(脂肪)も控えめにするほうが良いと考えがちです。しかし、脂肪は炭水化物やたんぱく質とともに、生命維持に欠かせない栄養素で、身体を動かすエネルギー源や、ホルモンなどの材料になるとともに、体温を保つ働きもしています。

摂取する油脂としては、オリーブ油などの一価不飽和脂肪酸が推奨されます。『動脈硬化疾患予防ガイドライン2017』では、「オリーブ油の摂取増加のみで総死亡率、心血管死亡率、心血管イベント、脳卒中の発症の減少が認められている5」と記載しています。一方、動物性の脂肪(飽和脂肪酸)は悪者扱いされがちですが、『日本人の食事摂取基準(2015年版)』では、「乳製品由来の飽和脂肪酸は心血管疾患を予防する6」と記されています。上手に油脂を摂ることが、健康長寿に不可欠だと言えるのです。

  1. 3.Li M, et al.: BMJ Open 2014; 4: e005497
  2. 4.Okuda N, et al.: Eur J Clin Nutr 2015; 69: 482-8
  3. 5.Schwingshackl L, et al.: Lipids Health Dis 2014; 13: 154
  4. 6.de Oliveira Otto MC, et al.: Am J Clin Nutr 2012; 96: 397-404
まとめ

東京都健康長寿医療センター研究所が発表した「老化予防を目めざした食生活指針」(表)でも、「食事は絶対に抜かないこと」「動物性たんぱく質を十分に摂ること」「油脂類の摂取が不足しないようにすること」「食欲がないときは、おかずを先に食べご飯を残す」などが示されています。高齢になると簡単な食事で済ませがちですが、それは間違いです。低栄養に注意し、十分な栄養を摂ることが、健康長寿につながることを覚えておいてください。

表 老化予防をめざした食生活指針

ストーマを持たれた方の食生活

消化管ストーマを造設された方

「癒着による腸閉塞」を防ぐために、食べ過ぎに注意

消化器ストーマを造設された方が、特に食べてはならない食品はありません。ただし、注意していただきたいのは、腸の癒着による腸閉塞です。開腹手術をすると、どうしても小腸同士や、小腸と腹壁が癒着するリスクが生じます(図1)。すると、癒着した部分で腸の内容物の通りが悪くなり、腸閉塞を起こすこともあり得ます。

腸閉塞を防ぐには、食べ過ぎないことが重要です。注意すべきは海藻類や白滝、こんにゃく、きのこなどの食物繊維です。これらは消化されにくく、摂取し過ぎると癒着部位で詰まる恐れがあります。意外なところでは、目安の待ち時間よりも早く食べてしまったカップ麺です。これも腸内で膨張することがあるので注意が必要です。

多くの場合、手術後は以前のように食べられるようになるため体重増加が見られます。ただし、急激に太ると生活習慣病のリスクが増大したり、装具が合わなくなったりすることもあるので、食べ過ぎには注意しましょう。

監修:渡邊 成

図1 腸の癒着の種類と、癒着で生じる障害

尿路ストーマを造設された方

「尿路感染」予防には、水分摂取が重要

尿路ストーマを造設された方に注意していただきたいのは、ストーマからの細菌の侵入による尿路感染症です。細菌が尿管から腎臓に上がってこないようにするには、洗い流してしまうことが一番です(図2)。つまり、水分を十分に摂取して、尿量を減らさないようにすることが重要です。

水分は、飲料水に限りません。牛乳やヨーグルト、アイスクリームなどの乳製品でも、柑橘類やスイカなどの果物でも構わないので、こまめに摂るようにしましょう。

図2 細菌を尿で洗い流すことが大切