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2025年1月公開
ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の看護とは?
牛久保 美津子
群馬大学大学院保健学研究科 教授
牛久保 美津子
群馬大学大学院保健学研究科 教授
「ALS(難病)には治療法がない、だからこそケア」といわれています。ケアといえば看護師です。
また、看護師は医療とケアの両方に精通した専門職です。多職種のなかでも、患者と家族の代弁者役割など看護師が果たす役割は大きく、ケアマネジャーと協力し、医療と福祉の連携強化を担います。
ALSケアは「緩和ケアで始まり緩和ケアで終わる」といわれているとおり、苦痛の緩和が重要です。身体的、精神的、社会的、スピリチュアルの4つの側面(トータルペインの考え方)で苦痛緩和に努めます(図1)。
図1 トータルペイン(全人的苦痛)
牛久保美津子:第10章 難病を持つ人に対する在宅看護.永田智子,小野若菜子編,地域・在宅看護論.放送大学教育振興会,東京,2023:168.を参考に作成
在宅医療は「治し、治せなくても生活を支える医療」です。ALSは治せませんので、生活を支える医療が根幹となります。
看護師は、別名、療養生活支援の専門家です。訪問看護師は、患者の本来の生活の場において、一人ひとり異なる患者と家族の生活を患者・家族・多職種と共創しながら、個別性高く支援できる職種です。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の暮らしを支えるケアとは ?
ALSの筋萎縮や筋力低下からくる症状は、生活障害に直結します。失われた筋肉の代わりを家族や第三者によるケアやサービスで補います。
適切なケア提供があれば、患者は普通の暮らしができるといえます。加えて、できないところは動くところを使って本人ができるようにする自立支援(残存能力の活用)、そして、できるところは動かさないことによる廃用を避け、機能維持を図る予防的ケア・リハビリテーション(以下、リハビリ)が重要です。
ALSの進行に伴い、嚥下関連筋・上肢筋などの筋力低下や呼吸不全による摂食嚥下障害が必発します。誤嚥を予防し、口から食べる楽しみを支えるケアはQOL向上につながります。
食事に長時間を要す場合に、経口摂取のみに頼ることは望ましくなく、胃瘻造設が必要となります。ですが、食前の嚥下体操、アイスマッサージ、食形態の工夫、体位の工夫、飲み込むタイミング・介助指導、口腔装置(軟口蓋挙上装置)の使用などがありますので、リハビリ職種[理学療法士(physical therapist:PT)・作業療法士(occupational therapist:OT)・言語聴覚士(speech language hearing therapist:ST)]、歯科医師、栄養士と連携し、食べる楽しみを長く維持できるように支援します。誤嚥防止手術(喉頭気管分離術と喉頭摘出術)を受ける患者もいます。
嚥下検査として、病院で嚥下造影検査(swallowing videofluorography:VF)や嚥下内視鏡検査(swallowing videoendoscopy:VE)を行います。軽度な障害の場合などには、簡便な嚥下機能検査として、反復唾液嚥下テスト、水飲みテスト、改訂水飲みテストなどもあります。不顕性誤嚥(むせない誤嚥)にも要注意です。
病状初期は、基礎代謝が高まり、急激な体重減少がみられます。適切な栄養管理は、生命の延長につながることが明らかにされています。栄養が十分でない状況では、患者の気力・体力は減退し、生きる希望さえも見失ってしまいます。体重やBMI(body mass index:肥満度指数)を維持できるよう、ハイカロリータイプの経腸栄養剤や半消化態・半固形化栄養剤などを使用して、経口あるいは胃瘻との併用での摂取をすすめるなどして栄養管理を行います。
一方、人工呼吸器を装着した場合は、呼吸による消費カロリーがなくなることから800~900kcal/日で十分といわれています。合併症予防のためにも、病期に合わせた適切な栄養管理が必要です。
誤嚥を避け、適切な栄養管理をするために胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)があります。たとえ経口摂取に問題がない状態であっても、努力性肺活量(forced vital capacity:FVC)が50%以下になると胃瘻造設術は危険となるため、その前に胃瘻造設に踏み切る必要があります。
看護師は、呼吸機能と嚥下機能、かつ患者の心情に考慮しながら、胃瘻造設のタイミングを逸しないようにします。「食べることで窒息死しても後悔はない」「胃に穴をあけてまで長生きなどしたくない」と言う患者は少なくありません。患者の心情も受け止めながら胃瘻造設について十分な説明を行い、意思決定支援を行います。
病状悪化が進むにつれ、口頭で自分の思いを伝えることが困難となります。手指の動きが保たれていれば、スマートフォンで自分の言いたいことを打って文字化して伝える患者もおり、「特殊なコミュニケーション機器など必要ない」と言う患者も少なくありません。また、あらかじめ登録していた文章をタップし人工音声で意思が伝えられる「指伝話プラス」(製造販売:有限会社オフィス結アジア)というアプリもあります。
(1)拡大・代替コミュニケーション技法(AAC)の種類
拡大・代替コミュニケーション技法(augmentative and alternative communication:AAC)とは、身体の残存機能とテクノロジーを活用し、自分の意思を他者に伝えるコミュニケーション活動を指します。AACは、ノーテク、ローテク、ハイテクの3つに大別されます。ハイテクの場合は、病状が進んでからの機器使用トレーニングは困難さが増しますので、なるべく早期から導入できることが望ましいです。
①ノーテク
物を使わないコミュニケーション技法です。代表的な例を2つご紹介します。
例1:まばたきによるサイン
まばたき1回なら「はい」、まばたき2回なら「いいえ」、あるいは、「はい」は眼球を左に寄せる、「いいえ」は下を見るなど、合図を申し合わせておく。
例2:口述文字盤
「る」を伝えたい場合は、介護者が「あかさたなはまやらわ」と順に読み上げていき、患者は「ら」のところでまばたきをする。介護者が「ら行」を順に読み上げ、患者は「る」のところでまばたきをして合図する。これを繰り返し、文字をつなぎ合わせて文を伝える方法。
②ローテク
文字盤やコミュニケーションボードなど、ローテクノロジーを用いるコミュニケーション技法です。
例1:簡易筆談器
磁気式や液晶のものがある。専用のペンで文字や絵を描いて意思を伝える。
「かきポンくん」(製造販売元:株式会社アウトソーシングビジネスサービス)
「ブギーボード」(製造販売:株式会社キングジム)など
例2:文字盤
50音が並んだ文字盤。指で直接文字を選ぶなどして意思を伝える。
例3:透明文字盤(図1)
アクリル板などの透明な板に50音が並んだ文字盤。視線を利用して文字を確定し、会話する。
図1 透明文字盤を使用したコミュニケーション法
③ハイテク
ハイテクノロジーを用いたコミュニケーション技法です。コミュニケーション機器の発展はめざましく、表1に示したようにさまざまなものがあります。
スイッチの改良も進んでいます。手足の指、額のしわ寄せなど、ほんのわずかでも自力で動かせるところがあれば、スイッチを押すことができ、コミュニケーションが可能です。最近ではワンキーマウスやニューロノードなどもあります。ワンキーマウスは操作のすべてを1つのスイッチ操作で行うことができるマウスです。ニューロノードは、筋肉を動かす際に皮膚の表面で発生する電気信号を測定し、筋電図をスィッチとして使うウェアラブルスイッチです。
また、声が出なくなる前に自分の声を録音しておくことで、入力した文字を読み上げる人工音声に代わって自分の声を使える技術もあります。
表1 コミュニケーション機器(ハイテク)の種類(50音順)
Eeyes(イーアイズ) (製造販売:株式会社オレンジアーチ) |
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指や目の動きなどの限りなく小さい身体動作を使って、自分の意思を伝達するための意思伝達装置 |
OrHime eye+Switch(オリヒメアイ プラススイッチ) (製造販売:株式会社オリィ研究所) |
![]() ©OryLab Inc. |
視線入力やスイッチにより、文字入力や合成音声でのスピーチができる意思伝達装置 |
新心語り (製造販売:ダブル技研株式会社) |
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脳血流によってYES・NOを伝達できる意思伝達装置 |
TCスキャン (製造販売:株式会社クレアクト) |
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スイッチや視線で会話、環境制御、メール、インターネットなどができる意思伝達装置。操作画面を自由にカスタマイズ可能 |
伝の心(でんのしん) (製造販売:株式会社日立ケーイーシステムズ) |
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スイッチや視線による文字入力や音声合成での会話、環境制御、インターネット、メール、SNSができる意思伝達装置 |
トーキングエイド (製造販売:株式会社ユープラス) |
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文字盤を押していくことで、会話やメッセージを作成する装置 |
話想(はなそう) (製造販売:企業組合S.R.D) |
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会話や学習、環境制御、インターネット、メールなどができる装置 |
ファイン・チャット (製造販売:アクセスエール株式会社) |
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身体の動く部位を使って入力スイッチを操作し、「押す/離す」を繰り返すだけで文章作成、呼出ブザー、リモコン操作などができる装置 |
マイトビー (製造販売:株式会社クレアクト) |
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視線で会話や学習、環境制御、インターネット、メール、SNSなどができる意思伝達装置。合成音声で通話も可能。防塵防滴で屋外でも安心。タッチパネル一体型 |
MCTOS model FX (製造販売:株式会社テクノスジャパン) |
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脳波や筋電信号などの生体信号により、YES・NOを伝達できる意思伝達装置 |
miyasukuEyeConSW (製造販売:株式会社ユニコーン) |
![]() |
体の一部や視線を動かしてスイッチを操作し、意思を伝えられる装置。キーボードやパネルのカスタマイズが可能 |
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AACの導入においては、リハビリ職種(PTやOT)と協働します。体のどこがまだ動かせるのか、どこが使えそうかを把握するのは、全身をよく観察している看護師が力量を発揮します。ローテクの口述文字盤や文字盤は、電気や特別な設定を必要としないため、災害時でも用いることができます。よって、ALS患者にかかわる看護師だれもが文字盤を使えるようになることが望ましいです。
コミュニケーションは、一方通行ではなく「双方向」で成り立つものです。つまり、患者がしゃべりたい、話をきいてほしいという思いと、家族や医療者がそれをききたいという双方の思いがあって成立します。それがなければ、どんな高価な機器でも役には立ちません。また、スイッチやパソコンの設定なども、介護者の負担を軽減する製品が出てきていますが、介護者の協力は必要不可欠です。
(2)コミュニケーション支援の意義
コミュニケーションは、人が人として生きるうえで必要不可欠であり、ALS患者が最も重要視していることです。コミュニケーション機器を使いこなすことができれば、メール送受信やインターネットを介して、世界とつながることができますので、外出困難な療養者のQOLが向上します。また、ナースコールの役目も果たせますので、安全面の確保にもつながります。
呼吸筋や呼吸関連筋の筋力低下により、呼吸障害(拘束性換気障害)が出現します。肺実質には問題がありません。呼吸という生理的ニードが満たされなく、吸っても吸っても空気が入ってこない、
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