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2025年6月公開
在宅中心静脈栄養法の基本知識
伊藤智恵子
医療法人財団健和会
北千住訪問看護ステーション
所長
疾患や加齢による嚥下機能や認知機能の低下に伴って、経口摂取で十分に栄養が摂れない場合、栄養療法が必要になります。その場合、消化機能が保たれていれば、原則、経腸栄養を選択します。
消化機能が保たれていない場合、経静脈栄養を選択します。経静脈栄養には、腕などの末梢静脈から投与する「末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition:PPN)」と、心臓に近い太い血管である中心静脈から投与する「中心静脈栄養(total parenteral nutrition:TPN)」があります(注)。食事ができない期間が1週間~10日までの場合はPPNが行われ、それ以上の長期間にわたると予想される場合はTPNが選択されます。
注:高カロリー輸液は、IVH(intravenous hyperalimentation)などとも呼ばれますが、現在はIVHよりもTPNのほうが適切であるという意見が多く、国際的にもTPNを用いる方向になっています。
図1 栄養投与経路の選択
日本静脈経腸栄養学会編:静脈経腸栄養ガイドライン 第3版.照林社,東京,2013を参考に作成
TPNは、食物を口から食べることができない場合などに、心臓近くの太い血管―中心静脈の中に留置したカテーテルから点滴し、生命維持や成長に必要なエネルギー、各種栄養素を補給する方法です。
投与ルートとなるカテーテルは、先端部を上大静脈(中心静脈)に留置します(図1)。上大静脈は、心臓に近い太い血管で、血液量が多くて血流も速いため、糖濃度の高い輸液も投与できます。
図1 TPNのカテーテル先端留置位置
TPNを在宅で行うことを、在宅中心静脈栄養法(home parenteral nutrition:HPN)といいます。HPNの目的は、在宅で適切な栄養量を注入して栄養状態を維持・改善し、栄養維持を目的とした入院をなくし、家庭や社会復帰を可能にして、療養者と家族の生活の質(QOL)を向上させることです。
絶対的な適応は、消化管が使用できず、長期的にTPNを必要とするが、一般状態が安定している方で、腸管大量切除後や炎症性腸疾患、腸管運動障害、放射線性腸炎、消化吸収不良症候群、難治性下痢症などの方です。
相対的な適応としては、悪性疾患終末期でTPNを必要とするが家庭生活を希望する方や、化学療法中などで経口・経腸栄養が不能または不十分な期間が長い場合です。
医師が必要と認めれば、保険診療上は「疾患を問わず」実施が可能です。
実施には、以下のような3つの前提条件があります。
①患者が入院治療を必要とせずに病状が安定しており、HPN実施で生活の質向上がめざせる場合
②HPN実施にあたり、院内外を含む管理・連携体制が整備されている場合
③患者と家族がHPNの必要性をよく認識して希望し、輸液調製が問題なくでき、注入管理が安全に行えて合併症発生の危険が少ない場合
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