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2017年5月公開
(7)ポジショニングにおける“卵-鶏”問題
田中マキ子
山口県立大学副学長
山口県立大学大学院 健康福祉学研究科 教授
ポジショニングを行う際には、体圧分散寝具やポジショニング・ピローなど、ポジショニングを行うための環境整備(物品を揃える)が必要になります。しかし、いずれも安価な品物ではないので、病院や施設等でどのような物をどの程度揃えるとよいのか等、困ることが多いものです。究極、体圧分散寝具かポジショニング・ピローのいずれかしか準備できない場合、どちらを選択するかという「ポジショニングにおける“卵-鶏”問題」が起こります。
筆者は、まず体圧分散寝具を揃えることがよいのではないかと考えています。患者は、24時間、365日、生活の場としてその大半をベッド上で過ごすことになるので、まず基本としての環境を整えるという発想が重要だと思います。特に、寝たきりであったり、症状や治療によって体動(動き・活動)が制限されている場合やターミナル期にある場合などは、優先される必要があるでしょう。
その理由の1つとして、体圧分散寝具はその構造によっては体圧のみならず、ずれ力等を調整できる機能があるため、褥瘡発生のリスクを低くすることはもちろん、快適な寝心地をもたらすことができれば安楽感が増し、症状や状況以上に「つらさ・苦しさ」を患者に与えずにすむからです。
第2の理由として、仮にポジショニング・ピローが準備できない場合には、それに代わるケアの提供ができると考えられるからです。例えば、ポジショニング・グローブを使用して、適宜身体と寝具(マットレス)が接触している部位に対して介入を図るケアを実践すると、同一体位が続くことで生じる弊害を小さくします。症例によっては、褥瘡発生に至らない、あるいは改善・治癒に向かわせることもできます。臥床しているだけでも、患者は自重(自身の身体の重さ)から寝具と接する部分(身体の接触面)にずれ力が発生し、そのずれ力は体圧を上昇させる要因となります。また、長く密着する状況は「蒸れ」を発生させ、皮膚を浸軟させて外力の影響を受けやすい状態とします。このような意味から、ポジショニング・ピローが使えない状況をケア力(手間ひま)でカバーすることが可能なのです。
可能ならば、体圧分散寝具とポジショニング・ピローはその組み合わせも考慮して完備することです。ポジショニング・グローブによる介入は、ケア量を増し、看護師の負担増になることを免れないからです。「ポジショニングにおける“卵-鶏”問題」は、臨床現場では頻繁に経験されることであり、こうした問題が生じたとき、どのような対応を図るか一定の方針を持つことが必要とされるでしょう。
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