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2024年11月公開
令和6年度介護報酬改定から読み解く介護業界の今後の動向
~地域包括ケアシステムの深化・推進~
一般社団法人全国介護事業者連盟
理事長 斉藤 正行
そして、もう1つ令和6年度介護報酬改定における重要なテーマは「地域包括ケアシステムの深化・推進」です。具体的な項目には「質の高い公正中立なケアマネジメント」「地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組」「感染症や災害への対応力強化」「高齢者虐待防止の推進」などと共に、「認知症への対応力向上」が示されており、様々なサービス分類において、認知症関連加算への評価・拡充が行われました。とりわけ注目すべきは、施設系サービスおよび認知症対応型共同生活介護(グループホーム)に新設された「認知症チームケア推進加算」です。
図3 認知症チームケア推進加算の概要
引用:令和6年度介護報酬改定における改定事項について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230329.pdf
認知症の行動・心理症状(BPSD)の発現を未然に防ぐため、または発現時に早期に対応するため、通常時の取り組みを評価する加算となります。利用者に占める認知症の方の割合や、職員の研修受講義務とともに、利用者個々の認知症行動・心理症状の定量的な評価 を行い、予防に向けたチームケアを行うことで算定することが可能となります。今後、介護事業所では認知症に対する取り組みが一層求められることは間違いありません。
そして、「看取りへの対応強化」「医療と介護の連携の推進」が重要な項目となります。今回の報酬改定は医療との同時改定であり、診療報酬・介護報酬ともに、看取りと医療・介護連携を重視する見直しが行われました。介護報酬においては、様々なサービス分類において看取りに関連する加算の拡充や創設が行われ、医療との連携強化も様々な評価が行われることになりました。特に、施設・居住系サービスにおける協力医療機関との連携体制は、名目上の連携ではなく、実効性のある連携が求められる見直しが行われて、連携に対して評価する「協力医療機関連携加算」が創設されました。
図4 協力医療機関連携加算の概要
引用:令和6年度介護報酬改定における改定事項について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230329.pdf
これまで、医療と介護の連携強化は長年にわたって大きな課題とされていましたが、その実現が困難であることは言うまでもなく、まだ確固たる連携スキームが構築されていない状況にあります。そのような中、長引くコロナ禍による社会および生活の在り方が大きく変化を遂げたことを契機に、医療と介護の連携強化も新たなステージに向けて動き出していると感じます。前述の通り、人口構造を踏まえた「生産性向上」が求められる中、コロナ禍による「新しい生活様式」に基づき、医療・介護業界においても数多くの変化がもたらされています。苦手意識が強かった医療・介護業界に、オンライン化・DX(デジタルトランスフォーメーション)化に向けた機運が高まってきています。
令和6年度介護報酬改定よりも以前から、政府では「生産性向上」に向けて事業者への支援策拡充を推進しています。押印が必要な文書を大幅に削減し、保管すべき書類のデジタル化を推進するとともに、今後は、指定申請など行政提出書類のオンライン化や、電子申請の仕組みの導入に向けた準備も進められています。また、在宅介護の分野で本格導入された「ケアプランデータ連携システム」4 は今後も大注目の取り組みとなります。従来、介護事業所間の書類はほとんどが紙ベースであり、FAXによる書類の送受信が主流となっており、効率性の観点からも大きな課題であると指摘されていました。先進的な取り組みを行っている一部の事業者では、デジタル化が促進されているケースも多く見られますが、相手側の事業所がデジタル対応していなければ、紙ベースでの連携を強いられることとなります。在宅介護事業所においては、居宅介護支援事業所のケアマネジャーが中核的役割を担っているものの、多くのケアマネジャーはデジタル化への対応が遅れていると、課題が指摘されているところです。もう1つの課題は、相互システムの連携です。ケアプランや記録、および介護報酬を請求するレセプトのシステムは、数多のメーカーが商品を開発していることから、事業所が導入しているシステムの仕様が異なることで、データ連携がスムーズに進まないことも多く、IT連携を阻害している大きな要因となっています。「ケアプランデータ連携システム」では、居宅介護支援事業所と介護サービス事業所間のケアプランに関連する様々なデータ連携を可能とする、政府主導で統一したプラットフォームであります。まだ導入率に課題はありますが、今後のさらなる現場への導入が期待されるところです。
介護サービス事業所間のIT連携が進むこととなれば、医療と介護のIT連携も推進されます。要介護高齢者の多くは基礎疾患を抱えており、適切なケアマネジメントの実践、および介護サービスの提供に際しては、医療機関からの情報提供が不可欠であります。日々の生活支援においても、緊急時対応のみならず、健康管理や服薬管理など、様々な場面で医療・介護の連携が必要となります。介護サービス事業所間の連携以上に、医療・介護の連携は、IT連携を含めて課題が山積している状況にあり、一部のケースを除くとほとんど行われず、紙ベースでの連携が中心となっています。さらには、治療を目的とする医療と、生活支援を目的とする介護では、高齢者に対するアプローチ方法が異なるため、コミュニケーションエラーを生じることも多く、医療的な知識が不足している介護従事者の多くは、医療関係者とコミュニケーションを図ることに対して苦手意識を感じていることは否めません。これらの課題を解決し、医療と介護の連携強化を図ることは容易ではありません。しかしながら、その連携を進めていくためのキーワードの1つがIT連携であることは間違いないと思っています。ITツールの活用においては、共通言語で課題解決に向けた話し合いを持ち、ITによる連携を最初に始めていくことで、医療・介護連携を強化していくための第一歩とすることが出来ると思います。
また前述した「科学的介護の推進」も医療と介護の連携強化に繋がる重要な要素であると思います。「LIFE」の運用においては、利用者個々の「疾病の状況」「服薬情報」の収集も介護事業所で求められます。将来的には、マイナンバーカードを通じて、医療機関と介護事業所で利用者情報を一体的に管理するデータベースの構築も期待されます。時間は要するかもしれませんが、介護現場においてエビデンスに基づく科学的介護の実践が根付くことで、介護従事者と医療関係者のコミュニケーションが円滑になることも大いに期待されるところであります。介護の現場においては、いわゆる医療行為に対するルールの緩和も求められており、介護現場での医療行為の実践は、医療との連携が不可欠であります。医療と介護の連携における現状と課題を整理して、これからの時代の変化によって IT連携から始まる医療と介護の連携強化の可能性を示しました。
最後のまとめとなりますが、令和6年度介護報酬改定は、「将来の大変革に向けた土台固めの改定」であるとの認識にたち、介護事業者はこれからの大変革に備えなければなりません。コロナ禍や欧州での戦争に端を発した物価高騰など、異例ともいえる社会情勢の変化によって今回は大きなプラス改定となりましたが、今後は大きなプラス改定が実現する可能性は低いと言わざるを得ません。長期視点で考えれば報酬削減、そして大きな制度改革が行われていくことになると思います。今回の介護報酬改定で、どうにかプラスの介護報酬が確保されたので、この3年間を大変革に向けた、土台づくりを行うための期間であると理解し、働き方改革・職場環境の改善による職員の定着化を図り、生産性向上に向けた取り組みとともに、自立支援・重度化防止と科学的介護の推進に向けて、介護事業者は、運営改革および介護の在り方の変革が必要不可欠であることを肝に命じなければなりません。
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