※パスワードの変更もこちらから
【わかりやすい実践動画を活用した研修・スキルアップで介護現場の生産性向上!】
2024年11月公開
令和6年度介護報酬改定から読み解く介護業界の今後の動向
~科学的介護、自立支援・重症化防止の推進~
一般社団法人全国介護事業者連盟
理事長 斉藤 正行
「生産性向上」と合わせて、今後の介護事業者が必ず取り組まなければならない重要な報酬改定のテーマは、「科学的介護の推進」「自立支援・重度化防止の推進」です。前回(令和3年度)介護報酬改定において、科学的介護情報システム「LIFE」2の本格運用がスタートし、「科学的介護推進体制加算」を始めとして、様々な関連する加算が創設されました。この「LIFE」ですが、現場の評判は正直よくありません。膨大なデータを入力する必要があり、人手不足の介護現場において、「これ以上の手間を増やすのか」という声や、期待されていたフィードバックデータも、活用が可能なデータになっていない等、様々な不満の声が聞こえています。
それでも、私は「科学的介護」が、これからの介護業界において最も大切な考え方であり、介護現場はその重要性を理解し、前向きに取り組む必要があると思います。「LIFE」は、高齢者の情報をデータ入力して加算算定するという単純なものではありません。「LIFE」は、医療における「EBM(Evidence Based Medicine)」の介護版とも言われており、医療分野では30年ほど前から、エビデンスに基づいた医療が提供されてきました。これまで、介護・高齢者に対しては寄り添ったサービス提供が重要であると言われ続けてきました。もちろん、これからも「寄り添う介護」の重要性が損なわれることはありません。しかしながら、寄り添った介護を提供した結果がどうなったのか。高齢者の生活の質(QOL)は高まったのか。自立支援に繋がったのか。重度化防止は実現出来たのか。このように、明確な成果が求められるようになってきました。これをアウトカム評価の推進と言います。「ADL維持等加算」のように、成果に基づく評価が介護保険制度においても重要視され始めました。さらには、具体的にどのような介護を行うことで成果に繋がるのか。エビデンスに基づき分析して、介護サービスの質を高めていくことが「科学的介護の推進」であります。
そして「LIFE」では、科学的に妥当性のある指標として、専門家が数年にわたり議論を重ねて「ADL」「口腔機能」「栄養状態」「認知機能」の評価スケールが定められ、ビックデータとして集積されることになりました。その集積されたビッグデータを分析して、現場に分析結果をフィードバックした上で、更なる科学的介護を推進していくサイクルこそが「LIFE」導入の目的であります。従って、「LIFE」及び「科学的介護の推進」によって、医療分野と同等に、介護もエビデンスに基づく専門性の高いプロフェッショナルな領域となり、地位向上にも繋がっていきます。
令和6年度介護報酬改定においても科学的介護の推進は1つのテーマではありますが、本格導入された前回(令和3年度)の介護報酬改定以降、介護現場での実践は課題が山積しており、今回改定では課題解決に向けて、限定的な見直しとなりました。居宅介護支援や訪問介護などのサービスにおける「科学的介護推進体制加算」の創設は見送られることとなり、提出すべきデータの簡素化や提出頻度の統一等が行われ、データベースシステムを新システムへと移行することとなりました。操作性を向上させて、介護現場の業務負担軽減へと繋げるとともに、フィードバックデータの充実を図り、介護現場への浸透を図ることを目的としています。次回の令和9年度介護報酬改定以降では、さらなる踏み込んだ見直しが予測されます。
あわせて、「科学的介護の推進」とともに、今後の重要テーマの1つである「自立支援・重度化防止の推進」について触れたいと思います。高齢者の自立支援を行うことは、介護保険法にも定められた根幹の考え方であります。しかしながら、この自立支援について誤った認識を持っている方も多いように感じます。例えば、自立支援の推進が「比較的軽度な要介護・要支援高齢者に対して、機能訓練を行い、身体機能(ADL)を改善させる取り組みである」との認識です。そうなると、認知症ケアを専門に向き合っている事業所や、中重度者・看取り期に向き合っている事業所では、「自立支援が昨今の流行りであることは承知しているが、自分達の事業所にはあまり関係がない」との思考に陥りがちですが、それは大きな誤りです。
まず、「自立支援」は「重度化防止」とセットで様々な議論や対策が講じられています。つまり、「高齢者の自立を促進、状態を改善すること=自立支援」ではなく、現在の状態像を維持する、もしくは重度化の進行を緩やかにしていくための取り組みを行うこと。これらを全て包含して、「自立支援・重度化防止の推進」と捉えなければなりません。従って、認知症の方や重度な方を含めた全ての利用者に対して、全ての事業所で向き合っていかなければならないテーマとなります。
また、その取り組みについても、機能訓練による身体機能(ADL)に対するアプローチが自立支援ではありません。機能訓練特化型ということで、午前と午後に短時間サービスを2回転する通所介護(デイサービス)モデルが注目されていますが、それはあくまで機能訓練であり、自立支援を実践しているわけではありません。むしろ、そのようなモデルで運営してきた事業所は、これから本当の意味での自立支援モデルへの変革を迫られることになります。自立支援の目指す取り組みは、「身体機能(ADL)」へのアプローチのみならず、「口腔機能」「栄養状態」「認知機能」など、高齢者の状態像への総合支援が求められています。近年の介護報酬改定においては、そのような総合的な取り組みが評価されており、その傾向が今後は強まっていくと予測されます。
これから重要視される「自立支援・重度化防止の推進」を実践する上で大切なことは、何をもって状態改善が図れたとするか、現状が維持されているのか、重度化の進行を緩やかに出来たのか。その評価指標を明確にすることが重要であり、その仕組みこそが、科学的介護情報システム「LIFE」となるのです。「自立支援・重度化防止の推進」と「科学的介護の推進」は一体的に取り組むことが求められています。
©DEARCARE Co., Ltd.