Part12まとめ:腹膜透析は地域包括ケア推進の
決め手となるか

医療法人おひさま会おひさま在宅クリニック
透析看護認定看護師/慢性疾患看護専門看護師
板谷 真紀子

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2023年7月公開

2020年末のデータ1によると、腹膜透析患者全体の中で75歳以上の腹膜透析患者の割合が約22%を占めています。また、慢性維持透析患者全体の平均年齢は年々上昇しており、2020年末で69.40歳でした。腹膜透析患者の平均年齢は、慢性維持透析患者の平均年齢より5歳ほど若いといわれていますが、今後上昇することは想像できます。つまり、腹膜透析患者の高齢化が進んでいるのです。

国は、団塊の世代が75歳以上となる2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。重度な要介護状態となっても、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築です(図1)。

図1地域包括ケアシステムとは
図1 地域包括ケアシステムとは

厚生労働省:福祉・介護 地域包括ケアシステム.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-4.pdf
より引用

腹膜透析患者においても同様に、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるようなシステムの構築が必要であり、各地でそのような取り組みがなされています。その取り組みの一つが、前述した“Assisted PD”の普及だと考えます。

現状では、腹膜透析診療は依然として基幹病院が担っている地域が少なくありません。しかし、加齢や身体機能の低下に伴って、月1~2回の基幹病院への通院さえも困難となるケースに出会うことが増えてきたように感じています。そのような腹膜透析患者・家族が、地域包括ケアシステムの中で治療を継続し、安心して生活するためにもAssisted PDの普及は欠かせないでしょう。

このようなシステムの構築が可能であれば、腹膜透析が地域包括ケア推進の決め手となりうると考えられます。普段は、地域で腹膜透析治療をサポートできる訪問診療医やかかりつけ医、訪問看護師、家族、介護サービス、介護施設などで患者を支えます。そして、在宅で治療困難な腹膜透析関連の治療が必要となった場合は、希望に応じて急性期病院や基幹病院で患者を受け入れることが必要です。あるいは、患者・家族の意思決定に基づいて在宅で看取りを行うなどのシステムも必要になるでしょう。

このシステムの構築には、腎・透析専門医と訪問診療医やかかりつけ医、訪問看護事業所、介護事業所との連携の強化が必要であり、どのセクションが何をするかなど、具体的な役割や運用フローの作成を行う必要があると考えられます。筆者は現在、訪問診療の同行看護師として勤務しています。最近、当クリニックでも腹膜透析患者を受け入れましたが、現時点で当クリニックには腎・透析専門医はいません。そのため、基幹病院の腎・透析専門医からの引き継ぎと連携、訪問看護師との連携体制の構築、ケアマネジャーとの連携、腹膜透析メーカーとの連携、訪問薬局の手配など、さまざまなことを行いました。将来的には、家族の負担軽減も鑑みて、介護施設へのレスパイトなども検討しなければならないときが来ることが予想され、介護施設との連携も欠かせないと考えています。
そのために、まずは関係各所の“顔の見える関係”の構築が必要であること、地域包括ケアシステムの中で地域が一丸となって腹膜透析患者・家族を支えるシステムの構築を行っていく必要性があることを改めて感じています(図2)。

図2腹膜透析患者を取り巻く地域包括ケアシステムのイメージ
図2 腹膜透析患者を取り巻く地域包括ケアシステムのイメージ

腹膜透析は、循環動態の変動をきたすことが少ない安全な治療であり、患者の生活に合わせやすい治療であるため、時間的負担も少なくできる可能性があります。つまり、高齢者が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることを可能にする治療法である可能性が高いのです。そのため、地域でシステムを構築し、腹膜透析患者がAssisted PDなどを活用しながら、患者・家族の意思決定のもとに必要な医療、看護、介護、リハビリテーション、保健、福祉を受け、最期までその人らしく生きることを支えていくことができると考えています。

引用文献

  1. 1.花房規男,阿部雅紀,常喜信彦,他:わが国の慢性透析療法の現況(2020 年12月31日現在).日本透析医学会雑誌 2021;54(12):611-657.
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