※パスワードの変更もこちらから
【この記事に関連するより新しい記事があります(2020年9月公開)】
2018年12月公開
(1)「身体拘束をしない看護」に向けて、国をあげての取り組みが始まった
『エキスパートナース』編集部
2016年の診療報酬改定で、認知症ケアに加算が新設されました。「認知症ケア加算」には、「認知症ケア加算1」と「認知症ケア加算2」の2つがあります。認知症ケア加算1は、認知症ケアチームの活動を算定要件とし、1日につき150点(14日以内)、30点(15日以上)の点数が算定できます。これに対して、認知症ケア加算2は、認知症ケアチームの設置は求められませんが、原則としてすべての病棟に「適切な研修を受けた看護師」が複数名配置されている必要があります。認知症ケア加算2では、1日につき30点(14日以内)、10点(15日以上)の点数がつきます。ここで、特筆すべき項目が設けられました。いずれも「身体的拘束を実施した日」は、1日につき所定点数の100分の60点しか認められないというペナルティがついたのです1。このように、身体拘束をすると点数が低くなるということは、「身体拘束をしない看護」に対して経済的インセンティブが働いたということです。
さらに、2018年の診療報酬改定では、「夜間看護加算」や「急性期看護補助体制加算」の要件として、「日頃より身体的拘束を必要としない状態となるよう環境を整えること」が明記されました2。そして、身体的拘束を実施するかどうかは、職員個々の判断ではなく、その患者にかかわる医師、看護師など複数の職員で検討することとされました。
介護系ではこの動きはさらに加速しています。2018年の介護報酬改定では、「身体的拘束等の適正化の推進」として、「居住系サービス及び施設系サービスについて、身体的拘束等の適正化のための指針の整備や、身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会の定期的な開催などを義務づけるとともに義務違反の施設の基本報酬を減額する」と明示されたのです(表1)。要約すると以下のようになります。
1.身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況ならびに緊急やむを得ない理由を記録すること。 2.身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること。 3.身体拘束等の適正化のために指針を整備すること。 4.介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。 |
表1 身体拘束廃止未実施減算について3
身体拘束未実施減算 10%/日減算(居住系サービスは新設) 身体拘束廃止未実施減算について身体拘束廃止未実施減算については、施設において身体拘束等が行われていた場合ではなく、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生労働省令第37号)第183条第5項の記録(同条第4項に規定する身体拘束等を行う場合の記録)を行っていない場合及び同条第6項に規定する措置を講じていない場合に、入居者全員について所定単位数から減算することとなる。具体的には、記録を行っていない、身体的拘束の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催していない、身体的拘束適正化のための指針を整備していない又は身体的拘束適正化のための定期的な研修を実施していない事実が生じた場合、速やかに改善計画を都道府県知事に提出した後、事実が生じた月から3月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することとし、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月までの間について、入居者全員について所定単位数から減算することとする。 |
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000202748.pdf(2018.10.31.アクセス)
このように、国をあげて、認知症患者の尊厳を守るために身体拘束を行わない取り組みが強力に進められています。こうした動きを受けて、学会でも動き始めました。日本老年看護学会では、2016年8月に出した「急性期病院において認知症高齢者を擁護する」という立場表明のなかで、「身体拘束を当たり前としない医療・ケア」を打ち出したのです4。それは、急性期病院では事故予防・安全を第一義とするために身体拘束が行われている実態を踏まえて、不必要な身体拘束は行わないという原則に立つことを明らかにしたものです。ただし、認知症高齢者の「命を預かる」治療現場の実情を踏まえて、当面の目標として、「身体拘束を当たり前としない」こととしています。
引用文献
1.厚生労働省 平成28年度診療報酬改定について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106421.html
(2018.10.31.アクセス)
2.厚生労働省 平成30年度診療報酬改定について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
(2018.10.20.アクセス)
3.厚生労働省:平成28年度診療報酬改定について,診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について[通知]平成28年3月4日付保医発0304第3号,別添1.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114848.pdf
(2018.10.31アクセス)
4.日本老年看護学会:「急性期病院において認知症高齢者を擁護する」日本老年看護学会の立場表明2016.
http://www.rounenkango.com/
(2018.10.20.アクセス)
©DEARCARE Co., Ltd.