※パスワードの変更もこちらから
2023年1月更新(2021年4月公開)
「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と「臨界的定着疑い」が組み込まれた理由
最新ガイドライン、DESIGN-R®2020に基づく 新 まるわかり褥瘡ケア
『エキスパートナース』編集部
今回改定された「DESIGN-R®2020」の主な変更点は、前述したように、①「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」、②「臨界的定着疑い」が追加されたことです。①に関しては、表1のように、深さ(Depth)の「D(ラージディ)」の中に「DTI:深部損傷褥瘡(DTI)疑い」の項目が入りました。②に関しては、炎症/感染(Inflammation/Infection)の「I(ラージアイ)」の中に「3C:臨界的定着疑い(創面にぬめりがあり、滲出液が多い、肉芽があれば、浮腫性で脆弱など)」の項目が入りました(表2)。ともに「疑い」という表現がされています。
表1 深さ(Depth)の項目の変更点
文献1より引用
表2 炎症/感染(Inflammation/Infection)の項目の変更点
文献1より引用
まず、DTI(deep tissue injury)について説明しましょう。日本褥瘡学会では、DTIを「深部損傷褥瘡」と訳し、「NPUAPが2005年に使用した用語であり、表皮剥離のない褥瘡(stageⅠ)のうち、皮下組織より深部の組織損傷が疑われる所見がある褥瘡をいう」と定義しています2。“NPUAP”というのはNational Pressure Ulcer Advisory Panel、米国褥瘡諮問委員会のことで、現在は“NPIAP”(National Pressure Injury Advisory Panel)と名称変更されています。NPUAPでは2007年の褥瘡分類で、新たに「suspected deep tissue injury」として、「最初は一見軽症に見えるが、時間の経過とともに深い褥瘡に変化するものを指す」ものを追加しました。ここでは“suspected”、つまり「疑い」となっています。その状態は、皮膚の表面上は「明かな損傷は見られないものの、紫色や栗色に変色した限局した範囲の皮膚、あるいは血疱」で、「硬結を有したり、ぶよぶよしたり、熱感や冷感を伴う」とされています。
実は、ナースはこのような状態の褥瘡にしばしば遭遇するといわれています。明かな皮膚の欠損がないためにDESIGN-R®の分類では「d1」(持続する発赤)と評価していたのに、なかなか治らず、時間が経つと深いところでかなり褥瘡が進んでしまっていたりする状態です。
日本褥瘡学会が策定している「褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)」では、DTIとの判別に関しては、表3のように規定しています。
表3 ガイドラインでの「深部損傷褥瘡」判別のCQ
CQ7.3 深部損傷褥瘡(DTI)を判別するためにはどのような方法を行うとよいか |
---|
|
文献3より引用
ガイドラインでこのように規定されたDTI(深部損傷褥瘡)について、DESIGN-R®2020では、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」として組み込むことになったのです。
感染の4段階は、①汚染、②定着、③クリティカルコロナイゼーション、④感染、とされています。この “クリティカルコロナイゼーション”のことを“臨界的定着”と呼んでいます。クリティカルコロナイゼーションは前段階の「定着」よりも細菌数が多くなり、創感染に移行しそうな状態、あるいは炎症防御反応により創治癒が遅滞した状態をいいます。
つまり、臨界的定着とは、「炎症」と「感染」の中間にある状態と言うことができます。日本褥瘡学会が2015年に策定したガイドラインでは、「慢性創傷の創面には細菌が存在するが、細菌数が増えて創の治癒遅延をきたしている状態は“臨界的定着(critical colonization)”と呼ばれる。臨床的には悪臭や滲出液の増加と、それに伴う浮腫状の肉芽形成などの変化が見られ、治療の変更を検討すべき所見ととらえるべき」と書かれています4。DESIGN-R®で課題になっていたのは、「i1」と「I3」との間に位置すると思われる状態です。難治性であることはよく言われていましたが、DESIGN-R®上の分類に含まれていませんでした。
策定されたガイドラインでは、臨界的定着に関するCQとして、肉芽形成期の創傷治癒遅延における外用薬・ドレッシング材使用の項目があります(表4)。
外用薬選択の解説として、「肉芽形成が不十分であっても、臨界的定着が疑われれば、抗菌作用を有する外用薬や洗浄の強化が優先される。感染制御に対する治療を参考とした選択を行う」と書かれています5。
表4 ガイドラインでの「臨界的定着」にかかわるCQ
CQ.1.12 臨界的定着により肉芽形成期の創傷治癒遅延が疑われる場合、どのような外用薬を用いたらよいか |
---|
|
CQ.2.10 臨界的定着により肉芽形成期の創傷治癒遅延が疑われる場合、どのようなドレッシング材を用いたらよいか |
---|
|
文献5より引用
このように、DESIGNが作られた2002年時点では、クリティカルコロナイゼーションという概念が明らかでなかったため、当初のDESIGNの「I」の項目の中にクリティカルコロナイゼーション(臨界的定着)は含まれていませんでした。それが徐々にクリティカルコロナイゼーションについての知見が増えてきたため、今回のDESIGN-R®2020の中に組み込まれることになったわけです。
©DEARCARE Co., Ltd.