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2023年10月公開
「ハイフローセラピー」ってどんなもの? 在宅でのハイフローセラピーは?
畑 凌矢
Footage訪問看護ステーション 名城公園 管理者
中島 真也
同 訪問看護師
畑 凌矢
Footage訪問看護ステーション 名城公園 管理者
中島 真也
同 訪問看護師
「ハイフローセラピー」は診療報酬上の名称で、用語としては「高流量鼻カニュラ」(HFNC;high-flow nasal cannula)、治療法としては「高流量鼻カニュラ酸素療法」という言葉が適切です。「ネーザルハイフロー」(NHF:nasal high flow)という言い方もされます。これは、専用の鼻カニュラを介して加温加湿した高流量の酸素や空気、もしくは酸素と空気の混合ガスを投与する呼吸管理法の一つです。 高流量であっても十分な加温加湿により、快適に治療を継続することができます。
在宅ハイフローセラピーは、在宅において実施するハイフローセラピーのことを言います。診療報酬上では、2022年4月の診療報酬改定において、「在宅ハイフローセラピー指導管理料(1か月2,400点)」が新設されました。対象患者は、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease : COPD)患者のうち安定した病態にある退院患者となります(図1)。
それまでは、通常の酸素療法(在宅酸素療法)と非侵襲的陽圧換気(Non invasive Positive Pressure Ventilation:NPPV)を含めた人工呼吸療法のみが保険適用でした。ハイフローセラピーは、いわば「酸素療法」と「NPPV」の中間に位置づけられるもので、在宅ハイフローセラピー指導管理料が保険適用となったために、在宅ハイフローセラピーの利用者は増加傾向にあります。
図1 在宅ハイフローセラピー指導管理料の概要
C107-3 在宅ハイフローセラピー指導管理料 2,400点 |
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(1)在宅ハイフローセラピーとは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者のうち、安定した病態にある退院患者について、在宅において実施するハイフローセラピーをいう。 (2)次のいずれも満たす場合に、当該指導管理料を算定する。 ア.患者が使用する装置の保守・管理を十分に行うこと(委託の場合を含む。)。 イ.装置に必要な保守・管理の内容を患者に説明すること。 ウ.夜間・緊急時の対応等を患者に説明すること。 エ.その他、療養上必要な指導管理を行うこと。 (3)対象となる患者は、在宅ハイフローセラピー導入時に以下のいずれも満たす慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者であって、病状が安定し、在宅でのハイフローセラピーを行うことが適当と医師が認めた者とする。 ア.呼吸困難、去痰困難、起床時頭痛・頭重感等の自覚症状を有すること。 イ.在宅酸素療法を実施している患者であって、次のいずれかを満たすこと。 (イ)在宅酸素療法導入時又は導入後に動脈血二酸化炭素分圧 45mmHg 以上 55mgHg 未満の高炭酸ガス血症を認めること。 (ロ)在宅酸素療法導入時又は導入後に動脈血二酸化炭素分圧 55mmHg 以上の高炭酸ガス血症を認める患者であって、在宅人工呼吸療法が不適であること。 (ハ)在宅酸素療法導入後に夜間の低換気による低酸素血症を認めること(終夜睡眠ポリグラフィー又は経皮的動脈血酸素飽和度測定を実施し、経皮的動脈血酸素飽和度が90%以下となる時間が5分間以上持続する場合又は全体の 10%以上である場合に限る。)。 (4)在宅ハイフローセラピーを実施する保険医療機関又は緊急時に入院するための施設は、次の機械及び器具を備えなければならない。 ア.酸素吸入設備 イ.気管内挿管又は気管切開の器具 ウ.レスピレーター エ.気道内分泌物吸引装置 オ.動脈血ガス分析装置(常時実施できる状態であるもの) カ.スパイロメトリー用装置(常時実施できる状態であるもの) キ.胸部エックス線撮影装置(常時実施できる状態であるもの) (5)在宅ハイフローセラピー指導管理料を算定している患者(入院中の患者を除く。)については、区分番号「J024」酸素吸入、区分番号「J024-2」突発性難聴に対する酸素療法、区分番号「J025」酸素テント、区分番号「J026」間歇的陽圧吸入法、区分番号「J026-3」体外式陰圧人工呼吸器治療、区分番号「J018」喀痰吸引、区分番号「J018-3」干渉低周波去痰器による喀痰排出、区分番号「J026-2」鼻マスク式補助換気法及び区分番号「J026-3」ハイフローセラピー(これらに係る酸素代も含む。)の費用(薬剤及び特定保険医療材料に係る費用を含む。)は算定できない。 (6)指導管理の内容について、診療録に記載する。 |
一般的に行われている鼻カニュラによる酸素療法は、1回換気量以下の酸素を吸入させるもので、周囲の空気で希釈されたものが肺内に流入します。1回換気量の変動によらず酸素濃度を維持するためには周囲の空気で希釈されないことが必要になります。そのためには1回換気量の吸気流量を上回るガスを供給する必要があります。このような周囲の空気で希釈されない流量を供給するシステムを「高流量システム」といい、HFNCはその1つです。HFNCの基本的な構造を図1に示しました。この装置によって、20~60L/分の高流量ガスを鼻カニュラから吹き込みます。
図1 HFNCの基本的な構造
HFNCは単なる酸素療法ではありません。慢性呼吸不全患者の低換気状態に対して、以下のような生理的効果が期待されます。
1)FiO2の安定供給
構造のところで述べたように、患者の吸気流速にかかわらず一定濃度(FiO2)のガスを供給できます。慢性Ⅱ型呼吸不全で通常の酸素カニュラなどの低流量システムによる酸素投与を行うと、予想外に高いFiO2に起因するCO2ナルコーシスのリスクが懸念されます。HFNCではそのリスクを避けられます。
2)加温加湿による気道の粘液線毛クリアランス
HFNCは高流量でありながら十分に加温加湿することで、鼻腔への刺激が少なく、快適性を向上させるため、継続しやすいメリットがあります。さらに、加温加湿機能により、粘膜線毛機能の最適化、気道分泌物の排出促進による気道浄化作用がもたらされます。それが慢性呼吸器疾患増悪を抑制します。
3)解剖学的死腔のウォッシュアウト
鼻カニュラから高流量のガスが吹き入れられるため、ガス交換にあずからない気道内の空気が洗い出されます。このような死腔換気量の減少は肺胞換気量の増加につながります。
4)PEEP(呼気終末陽圧)効果
HFNCは直接高流量の酸素が投与できることから、気道は陽圧となりPEEP効果が得られると期待されています。しかし、NPPVほどの閉鎖環境での酸素投与ではないため、PEEPの数値を設定することが不可能です。また、開口のためPEEP効果も減弱するためPEEP効果は少なく、患者の呼吸様式や病態、QOLに合わせて適切なデバイスの選択を行う必要があります。
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このように、HFNC(ハイフローセラピー)は、通常の酸素療法では得られない効果が期待されており、NPPVと比べても侵襲度が低いことから、酸素療法(低流量システム・高流量システム)とNPPVの中間的治療として位置づけられています(図2)。
図2 HFNC(ハイフローセラピー)の位置づけ
富井啓介監修:TEIJIN Medical Web ハイフローセラピー.https://medical.teijin-pharma.co.jp/respiratory/hfnc.htmlを参考に作成
©DEARCARE Co., Ltd.