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2025年5月公開
佐藤文俊
ケアプロ在宅医療株式会社
ケアプロ訪問看護ステーション東京
中野ステーション 診療看護師
(2025年3月 現在)
がんに伴う苦痛のなかでも、QOLに大きな影響を及ぼすのが「痛み」です。療養者自身への直接的な苦痛に加え、療養者を介護し見守る家族や介護者にとっても辛いものとなります。在宅療養を続けていくうえで、いかに適切に疼痛コントロール(マネジメント)を進めていくかは、大変重要です。
本特集では、疼痛コントロールの基本となる疼痛治療薬の管理に焦点を当てています。薬剤の処方に携わるのは医師ですが、服薬・投与を適切に継続していくために、訪問看護師の役割は大きいです。病院と異なり、在宅はすぐに医師が駆けつけられる環境ではありません。また、取り扱いの厳しい麻薬系の薬剤は、すみやかな手配が難しい場合もあります。
療養者の日々の状態変化を的確に捉え、先々に起こりうる可能性とそれに対して在宅でとれる手段を、早めに医師や薬剤師、関連職種と共有し、先を見据えて対処することが大切です。
本特集では、まず在宅におけるがん性疼痛コントロールについて概説したうえで、投与経路ごとに管理のポイントや療養者・家族からの相談対応をまとめていきます。
在宅におけるがん性疼痛コントロールのポイント
末期がんを既往にもつ在宅療養者にとって、QOLに大きく影響する要因の1つが、がん性疼痛のコントロール状況です。
がん性疼痛には、体性痛、内臓痛、神経障害性疼痛の3つの種類があり、それらを適切にアセスメントし、アプローチ方法を選択する必要があります。また、痛みは持続的なものだけでなく、瞬間的に増強する突出痛もみられることが多く、適切なレスキュー薬の使用が求められます。そして、疼痛は療養者の身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインとも密接に関連しており、全人的なケアが必要です。
このように、がん性疼痛では細やかなアセスメントとケアが必要ですが、在宅では医療者が常にそばにいて、状況に応じてすぐに対応できるわけではありません。さまざまな可能性を予測して先手を打つ医療連携が求められます。
がん性疼痛に対しては、オピオイドをはじめとした疼痛治療薬を用いた疼痛コントロールが基本となります。複数の投与経路があり、療養者の状態に応じて選択されます。それぞれの特徴を表1にまとめます。
次項以降で、投与経路ごとに、在宅での管理のポイントや注意点、療養者や家族からの問い合わせ対応などについて掘り下げていきます。
表1 薬物療法の投与経路ごとの特徴
投与経路 | メリット、特徴 | デメリット、注意点 |
---|---|---|
経口投与 口から薬を服用する |
・服用が簡単 ・侵襲がない ・療養者本人や家族による介助で容易に服用が可能 |
・意識レベルの低下や消化管閉塞などの理由で服用が困難になる |
口腔内投与 舌下、あるいは頬と歯茎の間に錠剤を挟み、口腔粘膜から吸収させる |
・急速に効果を発現する | ・介助者が投与しようとした際に指を噛まれるリスクがある ・錠剤を口腔内にとどめることなく飲み込んでしまうと、薬効が十分に発揮されない恐れがある ・口腔内が乾燥していると、薬が溶けずに十分に吸収されない |
直腸内投与 直腸から坐薬を投与する |
・経口投与ができなくなった場合でも使用可能 | ・挿入に不快感を伴う ・坐薬挿入のために側臥位に体位変換する身体的負担を伴う ・家族で投与できない場合には、看護師が緊急訪問をするか定時訪問の時に使用する必要があるなど、タイムリーな使用に制限がある |
経皮投与 貼付薬で経皮的に薬物を吸収させる |
・経口投与ができない療養者に対して非侵襲的に使用できる | ・投与量の迅速な変更が難しい ・温度上昇によって薬物の吸収量が増加することに注意が必要 ・他の投与経路から貼付薬に切り替えた際、予定の鎮痛効果を発揮するまでにタイムラグがある |
皮下投与 皮下組織に留置針を留置し、薬液を投与する |
・静脈にルートを確保する必要がなく、末梢の静脈路を確保することが難しくなった方でも薬液を投与可能 ・静脈内投与に比べ低侵襲 ・薬液の投与量が容易に変更でき、症状コントロールの程度によってこまめな調整が可能 |
・ルートに関するトラブルに注意が必要 ・穿刺部の感染に注意が必要 |
静脈内投与 静脈内に留置針を留置し、薬液を投与する |
・薬液を投与後すみやかに薬効が得られる ・高用量の薬液を投与できる |
・ルートに関するトラブルに注意が必要 ・ルート確保が難しくなってきた場合に繰り返しの穿刺が必要になったり、別の投与経路を検討する必要がある |
がん性疼痛コントロールにおいて、いかに疼痛の程度に合わせてタイムリーに薬剤の調整ができるかどうかが重要です。そのため、「疼痛が増強してきたら受診」というフローになっている場合、症状緩和が後手になってしまいます。可能な限り24時間365日対応をしている訪問診療を導入して、変化する症状に迅速に対応できることが望ましいです。
また、薬剤がいつでもすぐに自宅に届くためには、薬局が土日祝日対応をしている必要があります。連携する薬局は、土日祝日夜間も対応しているかどうかを基準に選定します。
使用済みの薬は、子供やペットの手の届かない場所に廃棄することに気をつけなくてはなりません。
また、医療用麻薬を他人に譲り渡すことは、法律で禁じられており、使わずに残った薬は、病院または薬局に返却します。
がん性疼痛の特徴に関する具体的な内容については、こちらの記事をご覧ください。
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