こんなときどうする?いざというときに備える!在宅で遭遇する急変(急な状態変化)への対応こんなときどうする?いざというときに備える!在宅で遭遇する急変(急な状態変化)への対応

利用者の急な状態変化にも慌てず対応するためのエッセンスをぎゅっと凝縮

Part3急変、救急対応の実際:症状別

医療法人社団 YAYOI
 やよい在宅クリニック
 やよい訪問看護ステーション
 (管理者)、看護部長
診療看護師/ナース・プラクティショナー
野呂 美香 先生

一部会員限定
ページあり!

2025年4月公開

3.桃を摂取したあとから呼吸が苦しいと連絡あり!

押さえておこう【アナフィラキシーショックへの対応】

こんなとき、どうする?

「朝に桃を食べたあとから呼吸が苦しい感じがする」と、本人より電話があり訪問した。訪問すると、蕁麻疹と嘔気症状があり、血圧低下も認めた。

アレルギーの確認は、初診の情報収集で行っている施設が多いと思います。ですが、まれに意図的でなく摂取してしまったり、新しい食べ物でアレルギー症状が出る場合があります。
重要なのは、緊急性のあるアレルギー症状かどうかを判断することです。軽度の発疹や掻痒感であれば、抗アレルギー薬で経過をみることもできます。急がなければならないのは、アナフィラキシー、またアナフィラキシーショックです。どのように判別したらいいでしょう。
まずはアナフィラキシーの特徴を押さえておきましょう。ショック症状があれば対症療法を在宅で行いつつ、医療機関への搬送になります。アドレナリン自己注射薬(製品例:エピペン)を持っている利用者にはそちらを投与し、搬送準備をします。

1.アセスメントと対応の流れ

  • まずは安静にする
  • 出現している症状を把握し、アナフィラキシーかどうか確認
  • アナフィラキシーを疑う場合はABC(気道:airway、呼吸:breathing、循環:critical-care)をまず確認

〈対応の流れ〉

  • アナフィラキシーと判断する場合は基本的に医療機関への搬送を想定して動くが、在宅でできる限りの処置を行う
  • 繰り返しのバイタル測定とモニタリング(在宅にはモニターはないため、SpO2と脈拍を経時的に測定する)
  • ABCに異常があれば末梢血管確保、CVポートや中心静脈カテーテルが挿入されている場合はそこから補液負荷を開始する準備を行う
  • 診療車に乗せている酸素ボンベを準備し、酸素投与の準備
  • 本人のアドレナリン自己注射薬を使用、またはアドレナリン筋肉注射の準備

2.緊急性(搬送の要不要)の判断

アナフィラキシー症状があり、かつ、ショックバイタルである場合は緊急と判断し、搬送、入院治療が必要です。

Key wordアナフィラキシー

日本アレルギー学会では、アナフィラキシーについて以下のように定義しています。
「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」
アナフィラキシーの症状とパターンを表1、表2に示します1

表1 アナフィラキシー症状

アナフィラキシー症状

上田剛士監修,高岸勝繁著:ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版.シーニュ,東京,2024:964.より引用

表2 アナフィラキシーのパターン

アナフィラキシーのパターン

上田剛士監修,高岸勝繁著:ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版.シーニュ,東京,2024:964.より引用

Key wordショック

ショックは、組織への酸素需要の低下、酸素消費の増加などの結果で起こる臓器の低酸素症です。血圧低下を伴うことが多くあります。血圧低下以外の症状としては、尿量低下、意識障害、皮膚異常所見(網状皮疹、冷汗)、消化器症状などであり、多臓器不全徴候を見逃さないことが重要です。
早期対応が遅れると可逆的な状態から不可逆的な多臓器不全へ移行するため、早期発見と対応が非常に重要です。

以下に示すショックの5徴候(図1)を見落とさないようにしましょう。
①皮膚蒼白、②虚脱、③脈拍微弱、④冷汗、⑤呼吸不全

図1 ショックの5徴候(5P)
ショックの5徴候(5P)

ショックは以下の4つに大別されます2

  1. 1血液分布異常性ショック(distributive shock)
    • 末梢血管拡張により起こる(SVR〈末梢血管抵抗〉の低下)。
    • 初期は末梢は温かいが(warm shock)、循環障害が進行すると血管が収縮し、冷たくなる(cold shock)。
    • 主な原因:敗血症、アナフィラキシー、神経原性(脳外傷、脊髄損傷、ミトコンドリア機能不全)、内分泌性(副腎不全、甲状腺機能異常)、薬物・毒素(血管拡張薬過量投与、虫咬傷、輸血後反応、重金属中毒、トキシックショック、一酸化炭素中毒、シアン中毒)、SIRS(膵炎、熱傷、心筋梗塞後、冠動脈バイパス後、心停止後、羊水・空気・脂肪塞栓後)
  2. 2心原性ショック(cardiogenic shock)
    • 心臓のポンプ機能の失調で起こる(CO〈心拍出量〉の低下)。
    • 心収縮能/拡張能低下(SV〈1回拍出量〉の低下)や徐脈性不整脈・ペースメーカ症例(HRの低下)が原因となる。
    • 主な原因:心筋機能不全(心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋スタニング、敗血症関連心機能障害、心筋炎)、不整脈(頻脈、徐脈も含める)、機能性(重症弁膜症、急性弁破壊、重度動脈硬化、心室中隔機能不全、心室瘤破裂、心房粘液腫)
  3. 3循環血液量減少性ショック(hypovolemic shock)
    • 血管内容量の低下(SVの低下)によって起きる。
    • 出血または、嘔吐、下痢、多尿などの非出血性の喪失による。
    • 主な原因:出血、消化管由来(嘔吐・下痢、ドレナージ)、皮膚由来(熱中症、熱傷)、腎由来(利尿薬、浸透圧利尿、塩類喪失性、低アルドステロン症)、血管外漏出(術後、外傷、腸管閉塞、クラッシュ、膵炎、肝硬変)
  4. 4閉塞性ショック(obstructive shock)
    • 心外の要因によって心拍出量が低下(SVの低下)することで起こる。
    • 肺塞栓症や重症肺高血圧による右室機能不全由来の左室圧排が原因の肺血管性と、緊張性気胸や心タンポナーデなどの機械性によるものがある。
    • 主な原因:肺血管性(肺塞栓症、肺高血圧症)、機械性(緊張性気胸、心タンポナーデ)、収縮性心筋炎、拘束型心筋症
POINT
  • アナフィラキシー症状があるかを確認し、あれば搬送を手配する
  • アドレナリン自己注射を常備している場合はすみやかに投与する

引用文献

  1. 1.上田剛士監修,高岸勝繁著:ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第3版.シーニュ,東京,2024:964.
  2. 2.筒泉貴彦, 山田悠史, 小坂鎮太郎編:総合内科病棟マニュアル 疾患ごとの管理.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2021:214.
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