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2019年11月公開
スクリーニングによって転倒ハイリスクに気づく
編集 上内哲男
独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)東京蒲田医療センター
リハビリテーション科 リハビリテーション士長
日本転倒予防学会理事
専門理学療法士(生活環境支援/運動器)
転倒を防ぐためには、“その患者さんがどれだけ転倒しやすいか”、つまり、転倒リスクに気づくことが重要です。
転倒リスクを評価するにあたって、日本転倒予防学会の転倒・転落リスクアセスメントツール検討委員会では、図1に示すようなアセスメント基本モデルを提唱しています1。
まず、集団から転倒ハイリスク者を選別する「スクリーニング」を行います。次に、スクリーニングによって選別されたハイリスク者を対象に、転倒のリスク要因をくわしく調べる「精査」を行います。精査でわかったリスク要因をもとに、介助者(医療/介護者)や患者さん自身が行える転倒予防対策を導き出し(対策導出)、それを実施します。
なお、アセスメントは一度で終わるわけではありません。患者さんの状態の変化に伴い、リスク要因も変わっていきます。適宜再評価を行い、そのときの患者さんの状態に適した転倒予防対策をとるようにしましょう。
これが、転倒リスクのアセスメントの基本となります。
このなかで、病棟勤務の看護師に第一に求められるのは「スクリーニング」です。患者さんが入院してきたときに、転倒ハイリスク者を選別することで、多職種によるリスク要因の精査・転倒予防対策の導出へと道筋がつけられるでしょう。
次の項目では、具体的なスクリーニングツールについてみていきましょう。
図1 転倒・転落リスクアセスメントモデル
文献1 図1を参考に作成.
1.チェックリスト形式
転倒しやすさを把握するためのスクリーニングツールとしては、日本看護協会が推奨する転倒・転落アセスメント・スコアシート2が有名です。しかし、病院で使用されているものは、病院ごとに項目の追加などのアレンジがされていることが多いでしょう。この状態では、本来の信頼性が担保できない状況であることを認識しなくてはいけません。
今使用しているものがおのおのの病院で本当に有効かどうか、検証がないまま継続使用されていることはありませんか? はじめに紹介した転倒率などを参考に、自院のデータと照らし合わせて、検証することをお勧めします。
その他、エビデンスのあるスクリーニングツールとしてはSTRATIFYとMorse Fall Scaleが挙げられます3, 4。いずれもチェックリスト形式であるため使いやすいとされています。
なお、国内でのスクリーニングツールの使用例は圧倒的(約55%)に転倒・転落アセスメント・スコアシートが占めており、その他のツールは少数派と予測されます5。
2.実測形式
ベッドサイドでも簡便にできる運動を患者さんにしてもらうことで、筋力低下やバランス能力低下などの転倒リスクをはかることもできます。
ただし、方法によっては測定に時間がかかり、また、患者さんが実際に動くことによる転倒リスクも伴います。そのため、ベッドサイドで手軽に実施するにはハードルが高く、スクリーニングよりもリスク要因を精査する段階で使用されることが多いかもしれません。
実施しやすくお勧めなのが、バランス評価尺度(SIDE :Standing test for Imbalance and Disequilibirium)6-8や5回立ち上がりテスト(SS-5:5 times sit to stand test)9,10です。
バランス評価尺度(SIDE)は、日本で開発された実測形式のスクリーニングツールです。ベッドサイドで開脚立位、閉脚立位、継ぎ足立位、片脚立位を段階的に実施する、その場に止まった状態でのバランス評価法(静的バランス評価法)です(図3)。安全性を考慮しても、職種に関係なく検査可能であり、5分以内に検査可能で利便性および実用性の面で病棟でのスクリーニング評価としても有用です。
国立長寿医療研究センターでは、SIDEを使用した転倒・転落アセスメントシートを運用しています(図4)。
図3 SIDE評価のフローチャート
*【継ぎ足立位】=片方の足の踵を、もう一方の足のつま先につけて、一直線にして立つ姿勢。右足(または左足)を前にする場合と後ろにする場合がある。
●低いレベルから検査を行い、あるレベルのテストでバランスを崩して介助を受けた場合は、それ以上のレベルは試みない。
●特に初めてこのテストを行う場合は、時間のチェックやバランスを崩すかどうかを判定する者と、患者が転倒しないよう注意を払う者、2人の介助者のもとで施行することが望ましい。
文献6より、一部改変のうえ転載.日本語訳は近藤和泉先生よりご提供(近藤和泉,細川賀乃子,寺西利生:SIDE-Standing test for imbalance and disequilibrium Version 1.0 立位バランステスト.2013.).
図4 SIDEを用いた転倒・転落アセスメントシート(国立長寿医療研究センター)
©DEARCARE Co., Ltd.