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2023年8月公開
医師から看護師へのタスク・シフト/シェアはどのように進んでいるか
医療におけるタスク・シフト/シェアは、医師の働き方改革推進のために進められてきた経緯はありますが、これを「医師の業務軽減のために、他の医療関係職種が医師の業務を肩代わりする」というように後ろ向きにとらえると、ことの本質を見誤るように思われます。むしろ、実際に医療現場で行われているさまざまな業務を見直して、それぞれの職種がどの業務を担えば、医療が安全・安楽に効率的で患者本位に行われるかという見直しが行われたと、前向きにとらえたほうがよいでしょう。それにより、各職種の専門性の見直しとアイデンティティの確立、ひいては職域の拡大にもつながるでしょう。
さて前述したように、看護師においては、臨床検査技師や診療放射線技師、臨床工学技士などの他の医療専門職と同様に、医師からのタスク・シフト/シェアがある一方で、看護職から看護補助者へのタスク・シフト/シェアという2つの側面があります。まず、医師からのタスク・シフト/シェアについて解説します。
2021年9月、「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」(厚労省医政局長通知、医発0930第16号)が発出されました。この中で、医師から看護師へのタスク・シフト/シェアに関して表1のような記載があります。ここに盛り込まれているのは、「特定行為研修制度の活用」「特定行為研修を修了していない看護師の包括的指示の活用」「事前に取り決めたプロトコールの活用」などです。
第一番目に挙げられた「特定行為の実施」は、医師から看護師へのタスク・シフト/シェアの例としては真っ先に挙げられるものといえるでしょう。看護師の特定行為研修はそもそも医師の業務移管と看護師の業務拡大のために進められており、タスク・シフト/シェアはその推進を後押しするものと思われます。注目されるのは、特定行為研修を修了していない看護師への業務移管(薬剤の投与、採血・検査に限る)です。これは、「事前に取り決めたプロトコールに基づく」という枕詞は付いている点は留意しなければなりません。これまでの実情を鑑みて整理し、今回新たに明示されたものです。
表1 現行制度の下で医師から看護師へのタスク・シフト/シェアが可能な業務の具体例
1.特定行為(38行為21 区分)の実施 |
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特定行為研修を修了した看護師は、手順書により特定行為を行うことが可能 [具体的行為] 人工呼吸管理や持続点滴中の降圧剤や利尿剤等の薬剤の投与量の調整、中心静脈カテーテルの抜去やPICC挿入等の特定行為について、そのつど医師の指示を求めることなく、医師が予め作成した手順書により行うことが可能 |
2.事前に取り決めたプロトコールに基づく薬剤の投与、採血・検査の実施 |
高度かつ専門的な知識および技能までは要しない薬剤の投与、採血・検査については、医師が包括的指示を用いることで、看護師は指示範囲内で患者の状態に応じて柔軟な対応を行うことも可能 [具体的行為] ①対応可能な病態の変化の範囲、②実施する薬剤の投与、採血・検査の内容およびその判断の基準、③対応可能な範囲を逸脱した場合の医師への連絡等について、医師と看護師との間で事前にプロトコールを取り決めておき、医師が、診察を行った患者について、病態の変化を予測し、当該プロトコールを適用することを指示することにより、看護師は、患者の状態を適切に把握した上で、患者の状態を踏まえた薬剤の投与や投与量の調整、採血や検査の実施を当該プロトコールに基づいて行うことが可能 |
3.救急外来における医師の事前の指示や事前に取り決めたプロトコールに基づく採血・検査の実施 |
救急外来において、看護師が医師の事前の指示の下で採血・検査を実施し、医師が診察する際に、検査結果等の重要な情報を揃えておくことにより、医師が救急外来の患者に対しより迅速に対応することが可能になる [具体的行為] ①対応可能な患者の範囲、②対応可能な病態の変化の範囲、③実施する採血・検査の内容およびその判断の基準、④対応可能な範囲を逸脱した場合の医師への連絡等について、医師が看護師に事前に指示を出しておく、または医師と看護師との間で事前にプロトコールを取り決めておくことにより、救急外来の患者について、医師が診察を行う前に看護師が医師の事前指示やプロトコールに基づいて採血・検査を行うことが可能 |
4.血管造影・画像下治療(IVR)の介助 |
・血管造影・画像下治療において、看護師は、医師の指示の下、診療の補助として、造影剤の投与や、治療終了後の圧迫止血等の行為を行うことが可能 ・X線撮影等の放射線を照射する行為については、医師または医師の指示の下に診療放射線技師が行う |
5.注射、採血、静脈路の確保等 |
・静脈注射・皮下注射・筋肉注射(ワクチン接種のためのものを含む)、静脈採血(静脈路からの採血を含む)、動脈路からの採血、静脈路確保、静脈ライン・動脈ラインの抜去および止血については、診療の補助として医師の指示の下に看護師が行うことが可能 |
6.カテーテルの留置、抜去等の各種処置行為 |
・尿道カテーテル留置、末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの抜去、皮下埋め込み式CVポートの穿刺、胃管・EDチューブの挿入および抜去、手術部位(創部)の消毒、鶏眼処置、創傷処置、ドレッシング抜去、抜糸、軟膏処置、光線療法の開始・中止については、診療の補助として、医師の指示の下に看護師が行うことが可能 |
7.診察前の情報収集 |
・病歴聴取、バイタルサイン測定、服薬状況の確認、リスク因子のチェック、検査結果の確認等の診察前の情報収集は、必ずしも医師が行う必要はない。知識・技能を有する看護師が、医師との適切な連携の下で、医師による診察前に情報収集を行い、診察を行う医師に結果を報告する(看護師が報告した結果に基づく病状等の診断は医師が行う) ・休日・夜間の救急来院時、事前に医師との連携の下で診療の優先順位の決定(トリアージ)にかかる具体的な対応方針を整備しておくことで、看護師が病歴聴取、バイタルサイン測定等の結果を踏まえて、診療の優先順位の判断を行うことも可能 |
・包括的指示:看護師が患者の状態に応じて柔軟に対応できるよう、医師が、患者の病態の変化を予測し、その範囲内で看護師が実施すべき行為について一括して出す指示
・プロトコール:事前に予測可能な範囲で対応の手順をまとめたもの(診療の補助においては、医師の指示となるものをいう)
厚労省医政局長通知「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」(医発0930第16号)を元に作成
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