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2025年12月公開
Part1 在宅で人工呼吸療法を行っている療養者のケアでまず押さえたいこと
1.在宅人工呼吸療法(HMV:home mechanical ventilation)の広がりと基本的理解
辻本雄大
株式会社GIVE&MAKE代表取締役社長
クリケア訪問看護ステーション所長/管理者
急性・重症患者看護専門看護師、特定看護師(7区分16行為)、公認心理師
在宅で人工呼吸器を使用する療養者は年々増加しています。これは高齢化の進展に加え、急性期医療の進歩により救命率が上がり、慢性呼吸不全や神経筋疾患を抱える方が長期的に在宅生活を送れるようになったことが背景にあります。さらに、医療的ケア児の在宅療養も社会的に支援体制が整いつつあり、小児から高齢者まで幅広い層で在宅人工呼吸療法が選択されています。
在宅で人工呼吸療法を行う目的は、単に延命ではありません。「住み慣れた場所で、その人らしい生活を続けること」を支えるための手段であり、医療と生活の両立が最大のテーマとなります。そのため、訪問看護師は「生命維持装置を管理する」という緊張感と、「生活を支えるパートナーになる」という柔軟性の両方をもち合わせることが求められます。
人工呼吸療法は、以下の2つに大きく分かれます。それぞれの特徴を表1に示します。
①NPPV(noninvasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気)
マスクやマウスピースを用いて換気補助を行う方法です。身体への侵襲が少なく、会話や嚥下も可能でQOLを保ちやすいです。
②TPPV(tracheostomy positive pressure ventilation:侵襲的陽圧換気)
気管切開チューブ(気管カニューレ)を介して換気を行う方法です。完全な呼吸代行が可能で、分泌物の吸引や長期管理がしやすいです。侵襲性や合併症リスクが高い点に注意が必要です。
表1 NPPVとTPPVの比較
| NPPV | TPPV | |
|---|---|---|
| 患者への侵襲性 | 低い(マスク装着での管理) | 高い(気管切開下での管理) |
| 会話の可否 | 可 | 否(困難) |
| 食事 | 可 | 困難 |
| 気道ケア・感染など | 簡便で、感染の機会も少ない | 管理に慎重を要する |
| 加湿の必要性 | 口渇ありならオプション使用。不要な場合もあり | 必須(加温加湿器または人工鼻) |
| 気道吸引 | 困難 | 可 |
| 蘇生バッグによる換気 | 困難(最悪の場合、入らない) | 可(練習により安全に行える) |
人工呼吸器が必要になる疾患としては、神経筋疾患、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)が最も多く、ついで、肺結核後遺症などが挙げられています。肥満症の増加とともに、NPPVが導入となる肥満低換気症候群も増えています。
特に在宅TPPVの基礎疾患は、神経筋疾患が大半を占めており、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)患者は、病状進行に伴いNPPVからTPPVへの移行が多くなっています1。
2.在宅人工呼吸療法を行っている療養者を支えるために必要な知識
呼吸は、身体に酸素を取り込む「酸素化」と、二酸化炭素を出し入れする「換気」から成り立っています(図1)。呼吸不全は、Ⅰ型呼吸不全とⅡ型呼吸不全に分類されており、酸素化と換気が不十分な状態を表します(図2)。
図1 呼吸のしくみ
図2 人工呼吸器の適応と目的
人工呼吸器管理の目的は、①適切な換気量の維持、②酸素化の改善、③呼吸仕事量の軽減です。これらに加えて、気道確保も目的の1つです。TPPVでは特に気管切開を行っているため、この点も大きな利点となっています。
以上のことから、これらの目的が達成できているかどうか、および、人工呼吸中の合併症やトラブルが生じていないかを観察し、異常の早期発見に努めることが重要です。訪問時には、療養者本人と人工呼吸器の状態をセットで確認することが基本です。
特に、在宅では病院のように動脈血液ガス分析や胸部X線、血液データ、EtCO2(呼気終末二酸化炭素分圧)といった検査データや数値が少ないため、「いつもと違う」という感覚や、フィジカルアセスメントが重要となります。
POINT 「いつもと違う」「何かおかしい」を共有する
在宅での急変は「なんとなくおかしい」から始まります。
このような小さなサインを見逃さないことが看護師の腕の見せどころです。家族の観察力も非常に重要で、「いつもと違う」の共有が命を救うことにつながります。
訪問時にまず必要な、療養者の観察項目を表2にまとめます。
在宅人工呼吸療法中に異常を察知したら、「DOPE」で原因を検索し対応します。筆者は、日本語の頭文字を取って「いきつめ」で覚えています(図3)。
また、機器の設定と動作も、併せて確認してください(表3)。
表2 療養者の観察項目
| 全身状態 | バイタルサインの異常、訴え、苦悶表情、顔色(チアノーゼの有無)、末梢冷感 |
|---|---|
| 酸素化 | 一回換気量、SpO2、胸郭の動き、気道分泌物の量・性状 |
| 換気 | 不穏や傾眠、頭痛、意識レベルの低下、顔面紅潮、発汗など ※在宅では、CO2を測定できないため、ナルコーシスの症状を見逃さない |
| 呼吸仕事量 | 呼吸数・リズム、努力呼吸、呼吸補助筋の使用、頸静脈の怒張、異常呼吸音、RSBI※ |
※RSBI*1=RR*2/TV*3<105(回/分/L)。RSBIが105を超えていると浅速呼吸が生じていることを示す。
*1 RSBI:rapid shallow breathing index(浅速換気指数)
*2 RR:respiratory rate(呼吸回数)
*3 TV:tidal volume(一回換気量)
図3 人工呼吸中の異常と対応「DOPE」「いきつめ」
表3 機器の確認項目
| 設定の確認 | モード・換気設定 | 処方どおりか (例:SIMV/PCV、回数12回、吸気圧15cmH₂O) |
|---|---|---|
| 実測値 | 一回換気量(VT)、分時換気量、SpO₂、呼吸回数 | |
| アラーム履歴 | 過去24時間に頻発したアラームの有無 | |
| 機器の確認 | ・本体に異常ランプは点灯していないか ・人工呼吸器のAC電源の抜けがなく、バッテリー残量は十分か ・回路の接続に緩み・抜け、破損はないか ・回路に結露はないか |
|
災害発生時は、地震の揺れによる回路の破損、気管カニューレの抜去、長時間の停電によるバッテリー不足、避難先や移動など、さまざまな問題が生じます。日ごろから災害に備えて準備しておくことが大切です。以下の確認事項を、家族・訪問関連職種と確認、共有しておきましょう。
【確認事項】
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