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2025年12月公開
Part2 在宅でNPPVを利用している療養者へのケア
1.NPPVの基本的理解
辻本雄大
株式会社GIVE&MAKE代表取締役社長
クリケア訪問看護ステーション所長/管理者
急性・重症患者看護専門看護師、特定看護師(7区分16行為)、公認心理師
在宅療養において、NPPVは、最も多く導入されている人工呼吸療法の1つです(図1)。NPPVはマスクを介して換気を行うため、気管切開を必要とせず、身体的負担が少ないという大きなメリットがあります。一方で、在宅では療養者自身や家族がマスク装着・管理を担うため、「マスクトラブル」「リーク管理」「皮膚トラブル」といった問題が頻発します。
ここでは、訪問看護師が押さえておくべきNPPV療養者へのケアの要点を整理します。
図1 高機能なNPPV専用機の例
製品例:NIPネーザル® V-E
(写真提供:帝人ファーマ株式会社)
特徴:自動リーク補正機能やAVAPS機能(目標換気量に応じた圧自動調整:後述)を搭載し、呼吸状態の変化に応じて最適な換気を提供する。小型・軽量かつ、操作性・静音性にすぐれている。
NPPVの主な対象疾患は以下のとおりです。
急性期病院でNPPVを導入し、安定した後に在宅へ移行するケースが多いです。在宅では、「長期的に呼吸を補助する」ことが主な目的となります。
例として、COPDの急性増悪に伴うNPPVの導入を考慮する基準を以下に示します。
・呼吸困難の増強と呼吸仕事量の増加(頻呼吸もしくは呼吸補助筋の緊張)を認める
・呼吸回数:閉塞性障害で>24回/分、拘束性障害で>30回/分
・血液ガス:Ⅱ型呼吸不全でPaCO2>45Torr/pH<7.35、Ⅰ型呼吸不全でPaO2/FiO2<200など
日本呼吸器学会NPPVガイドライン作成委員会編:NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン(改訂第2版).南江堂,東京,2015.を参考に作成
機械を装着する際は、忍容性、つまり、療養者が機器の装着を受け入れることができるか否かが重要になります。基本設定でいきなり使用を始めるのではなく、以下のような流れで徐々に受け入れが進むよう配慮しましょう。
【装着の流れ】
①NPPVによる送気を手などで感じてもらったうえで、マスクを顔に当てる
②開始時の圧を低く設定し、慣れたら徐々に圧を上げる
③マスクをしばらく手で支え、NPPVとの同調を確認する
④療養者の意思を確認し、可能な限り優先する(休憩、口渇、体位調整など)
⑤呼吸介助を並行して実施する
⑥呼吸困難など症状を確認し、改善を実感してもらう
2.換気モードや設定の理解
NPPV専用機は、従圧式人工呼吸器です。その利点として、①マスクからの空気漏れを補正するため、ある程度空気が漏れてもよい、②過度に気道内圧を与えることができないため、気胸などの合併症のリスクが低い、ことが挙げられます。
次に、NPPVでよく使われるモードを紹介します。最も多いのは、CPAPモードとS/Tモードです。表1と図2に、換気モードとその特徴を示します。慣れない方は、略語や専門用語が多く、少し難しく感じるかもしれません。表2に関連用語をまとめているので、併せて参考にしてください。
換気モードや設定、療養者の状態に異常がないかについては、チェックシートを用いて観察します。自治体が発行しているフォーマットが参考になりますので、活用してください。
【参考資料】
東京都福祉保健局:難病患者在宅人工呼吸器導入時における退院調整・地域連携ノート(平成25年7月).
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/25taiintyouseirenkeinote
(2025.11.10アクセス)
表1 NPPVの換気モードとその特徴
| モード | 特徴 |
|---|---|
| CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続気道陽圧療法)モード | ・常に一定の陽圧を気道に加える(持続的気道陽圧)モード ・IPPV*1でいうところのPEEP*2と同じであり、酸素化の改善は見込めるが換気の改善は認めない。つまり、高二酸化炭素血症には適応がない ・設定項目はFIO2とEPAPのみ |
| S(Spontaneous)モード=自発換気サポート | ・患者が吸気努力を示すと、呼吸器がそれを感知し、設定した吸気圧(IPAP)で換気をサポートするモード ・自発呼吸がないとサポートされない |
| T(Timed)モード=時間制御換気 | ・一定時間内に自発呼吸がなければ、呼吸器が自動的に換気を行う(バックアップ換気)モード ・自発呼吸には同調しない |
| S/T(Spontaneous/Timed)モード |
・患者の自発呼吸に同調してサポートしつつ、呼吸がないときにはバックアップとして強制換気を行うモード 【注意点】 ・バックアップといってもIPPVのように完全に換気を補助できるわけではないため、自発呼吸が弱い場合は、NPPVの限界であることを認識し、IPPVへの移行も検討する |
| AVAPS-AEモード (Trilogy Evo搭載) |
・一回換気量を一定に維持できるように自動調整するモード ・睡眠中や疲労時など、換気量が低下しやすい場面で有効 ・神経筋疾患の患者など、日中は換気量が保たれているが、夜間に換気量が低下する場合などに有効なことがある |
*1 IPPV:intermittent positive pressure ventilation(間欠的陽圧換気)
*2 PEEP:positive end expiratory pressure(呼気終末陽圧)
*3 PS:pressure support(圧補助)
図2 NPPVの換気モードの比較イメージ
永田一真,竹川幸恵編:アプローチの「引き出し」を増やす! NPPVとハイフローセラピーの強化書. みんなの呼吸器Respica 2023;21(6):52.を参考に作成
表2 NPPV設定項目の用語
| IPAP(吸気圧、吸気気道陽圧) | 吸気時にかける圧 |
|---|---|
| EPAP(呼気圧、呼気気道陽圧) | 呼気時に残す圧(気道開存保持)。PEEPと同じ |
| バックアップ呼吸回数(BPM) | 最低限保証する呼吸数(例:12回/分) |
| Ti(吸気時間) | バックアップ換気の吸気時間 |
| ライズタイム | EPAPからIPAPに切り替わるのに要する時間。長いほどゆっくり圧が上がり、短いほど早く圧が上がる |
臨床エピソード:適切なモード選択がQOLにも影響
神経筋疾患の方で、日中は自発呼吸がしっかりしているものの、夜間に換気量が低下しSpO₂が下がる傾向がある療養者がいらっしゃいました。AVAPS-AEモードを導入したところ、夜間の低酸素血症が改善し、朝の頭痛や倦怠感も減少し、熟眠感も得られました。モードの適切な選択がQOLに直結することを示す事例です。
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