Part1誤嚥性肺炎の予防における
「口腔ケア」の役割

兵庫医科大学歯科口腔外科学 主任教授
岸本 裕充

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2020年6月公開

1.肺炎を繰り返す患者への対応のカギ「口腔ケア」

1.肺炎のリピーターに生じている現象

微熱が続いていると思ったら肺炎と診断され、その状況が何度も繰り返される。“これは、年だから、抵抗力が落ちているから、仕方ないのかな……?”と思いがちですが、そんな高齢者を見たときに考えたいのは、「口腔ケアは適切に行われているか」ということです。

肺炎のリピーターには、「マイクロアスピレーション(微量誤嚥)」と呼ばれる“誤嚥”が隠れています。“誤嚥”といっても、食物や嘔吐物が気管に入ってしまうような、量が多くて誤嚥のエピソードがはっきりしているもの(「マクロアスピレーション」と呼ばれる)ではありません。夜間睡眠中などに、唾液や逆流してきた胃液をごく少量ずつ誤嚥するものであり、“むせ”などの症状がないまま起こることから、不顕性誤嚥(ふけんせいごえん、サイレントアスピレーション)とも呼ばれます。

不顕性誤嚥を起こすのは、嚥下反射や咳反射が低下しているためであり、高齢者に共通しているわけではありません。肺炎になりやすいのは、サブスタンスPやドパミンの低下が背景にあります。高齢者でなくても、脳血管障害やパーキンソン病のような神経難病、意識障害(麻酔・鎮静薬の使用時も含む)がある場合も、同じように誤嚥性肺炎につながる恐れがあります。

2.口腔ケアで“病原性菌を減らす”ことを意識しよう

ここで重要なのは、“絶食していれば安心ではない”ということです。絶食によってマクロアスピレーションのリスクは少なくなりますが、マイクロアスピレーション自体は減りません。むしろ口腔の自浄作用が低下することで、誤嚥した際の菌量は増えてしまいます。

この状況における対策の1つに「口腔ケア」があります。口腔ケアによって口腔、および咽頭の病原性菌の量を減らすことができれば、不顕性誤嚥を起こした際のリスクを低下させることができるのです。

ポイント!

  • 食べることこそ肺炎予防!
  • 絶食が肺炎をつくる!

コラム食べることも口腔ケア!

ちょっと意外かもしれませんが、食後のほうが口腔の菌量は大幅に減少します。飲食物と一緒に、汚染物が嚥下されるからです。つまり、歯磨き以外にも、食事によって口腔ケアをしていることになります。そのため、絶食にすると、その分、口腔ケアの回数が減ってしまうことになります。

参考文献

  1. 1.岸本裕充:口腔ケア4つの新常識!.エキスパートナース 2007;23(7):115-117.
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