2020年6月公開
口腔ケアができていれば、“誤嚥しても肺炎を起こしにくい”状況にできるかもしれません。そのためには口腔ケアはどのように進めるとよいのでしょうか? 肺炎予防のために口腔ケアが果たす役割や、その際の注意点を示します(図1)。
硬組織である歯の表面には、歯垢(しこう)として非常に高密度に菌が存在します。1gあたり1,000億もの菌が存在すると言われており、糞便を超えるような“人体で最も高密度の菌塊”なのです。
この歯垢は典型的な“バイオフィルム”であり、歯面に強固に付着しているため洗口(口をゆすぐ)だけでは除去できません。歯ブラシなどでゴシゴシと物理的にこすり落とす(ブラッシング)必要があります。歯垢はバイオ“フィルム”という名前の通り、菌から産生されたネバネバ成分の膜により菌塊の表面が“よろい”のように守られています(図2)。抗菌薬や消毒薬を使っても内部に浸透しにくく、歯垢中の菌には効果がないと考えられます。
一方、皮膚や口腔を含めた粘膜の表面には常在菌叢が形成されており、これらによって外来微生物の侵入を果たす役割を持ちます。そのため、消毒薬などによって菌叢のバランスを崩さないほうがよいでしょう。
舌苔の「汚れ」も菌や微細な食物残渣、あるいは剥離した粘膜上皮であり、適度に除去する必要があります。このとき気をつけたいのは、舌苔のすべてが汚染物でなく、糸状乳頭の間に汚れが付着しているのであり、“舌の表面に薄く白い舌苔がある”程度であれば、正常であるということです。舌苔全部の除去をめざすと、舌の表面を傷つけかねません。そのため、削り取るような器具よりも、濡らしたスポンジブラシや綿棒、やわらかいブラシなどを用います。経口摂取をしているなら自然に剥がれるので、通常は舌苔の除去は不要です。
歯磨きに次いで“洗口”を行いますが、このとき、汚染した水を口腔から除去することが最も重要です。ブラッシングを行った後の汚染水は、歯垢などが遊離し、誤嚥した場合のリスクが高くなっています。自分で洗口できない患者では、吸引装置とディスポーザブルの排唾管などを使って回収に努める必要があります。
絶食や脱水などで唾液が減少すると、口腔粘膜の新陳代謝により剥離した上皮に喀痰などがからみ、痰が固まったような状態になります。固着すると除去が難しくなるため、口腔は潤いを保つ必要があります。加湿と蒸発予防による保湿を意識します(保湿の方程式)。
ポイント!
口腔ケア後には保湿ジェル等を用いましょう。ただし、保湿ジェルを厚く塗り重ねると、保湿ジェル自体が固まってしまう場合があり要注意です。保湿ジェルは厚く塗るのではなく、万遍なく薄く塗り拡げるように心がけましょう。
唾液は「洗浄作用」「抗菌作用」「粘膜保護作用」「pH緩衝作用」などさまざまな機能を持ちます(表1)1。唾液は、“天然の抗菌性洗口液”であり、唾液の分泌を促すことが重要です。また、“食べない”こと(絶食)は唾液の分泌を低下させるため、なるべく経口摂取を維持する必要があります。
表1 唾液の機能
(文献1より引用)
唾液を促す手技として“唾液腺マッサージ”が 紹介されていることがあります。これは、大唾液腺である耳下腺、顎下腺、舌下腺に相当する部位をマッサージするものですが、このとき排出される唾液は、貯留しているものを押し出しているだけと考えられます。脱水の状況下においては、リバウンドでその後の唾液の流出が減少するリスクがあります。
コンスタントに安静時の唾液の分泌を増やすために、全身的な脱水を解消するよう水分の摂取を促したり、酸味のある食事で刺激性唾液を分泌させるなどの工夫をします。
また、人はリラックスすると副交感神経優位となり、耳下腺から漿液性の“さらさらした”唾液が排出されやすくなります。頬などのストレッチといった顔面マッサージを行い、リラクセーションにつなげるとよいでしょう。
引用文献
参考文献
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