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2020年7月公開
国が呼びかけた「新しい生活様式」での熱中症リスク
編集
谷口英喜
恩賜財団済生会横浜市東部病院
患者支援センター長 周術期支援センター長
栄養部部長
私たちは、2020年の夏を、これまでとは大きく変わった状況で迎えることになりました。それは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のリスクの下での生活を余儀なくされているからです。医療や介護の現場においても、患者さんや利用者さんとの接し方やサービスの提供の仕方について、「感染させない・感染しない」ための多くの取り組みが行われています。
ワクチンや治療薬が開発途上の現段階においては、一人ひとりに感染予防を意識した行動が求められます。2020年5月4日に行われた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議では、「新型コロナウイルスを想定した『新しい生活様式』」が提示されました(図1)。感染防止の3つの基本である①身体的距離の確保、②マスクの着用、③手洗いを実践するとともに、「3つの密(密集、密接、密閉)」を避けるなどの対策を取り入れた生活様式が求められています。
図1 新しい生活様式の実践例
厚生労働省:「新しい生活様式」の実践例(2020)
こうしたこれまでとは異なる環境のなかで心配されているのが「熱中症リスクの増大」です。特に夏期においては、気温・湿度が高いなかでマスクの着用を続けると、熱がこもり熱中症にかかりやすくなります。
また、熱中症は屋外だけではなく室内でかかる場合も多いことが知られています。「密閉」を避けるためには、外気温が高いなかでも換気扇の使用や窓の開放で換気を行う必要があり、知らないうちに室内温度が上がってしまいます。さらに、感染予防のために外出を自粛し室内にこもりがちになるため、エアコンの使用を好まない高齢の方は、これまで以上に熱中症リスクが増えることが懸念されています。
そこで、政府は、「令和2年度の熱中症予防行動」として、「新しい生活様式」における熱中症予防行動のポイントをまとめて、注意を呼びかけました。以下に紹介しましょう。
厚生労働省の熱中症予防行動ポスター
熱中症対策の基本は、暑さを避け、こまめな水分補給を心がけることです。室内の温度・湿度の適切な管理や、外出時の天気や気温の確認、日傘や帽子の活用などは例年どおり心がけてもらうようにしましょう。水分補給は、のどが渇く前から行うことが大切です。特に高齢者はのどの渇きを自覚しにくくなっているため、意識して水分を摂ってもらうようにしましょう。高齢者でなくても、マスクを着用していると口腔内が乾燥しにくく喉が渇きにくいので注意が必要です。今年は、こまめな水分補給を心がけ、できれば時間を決めて水分を摂取するようにすると良いでしょう。
「新しい生活様式」を実践していくなかで、マスクの着用は大切です。ただし、熱中症リスクを避けるため、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、熱中症リスクを考慮しマスクをはずすように伝えましょう。
また、マスク着用時は、強い負荷がかかる作業や運動は避けて、のどが乾いていなくてもこまめに水分を摂るように促します。周囲の人との距離を十分にとれる場所では、適宜マスクをはずして休憩してもらうことも必要です。
室内においては、感染予防のための換気を行うことで室温が上がりがちになります。エアコンの設定をこまめに調整し、熱中症にならないような温度・湿度管理をしてもらいましょう。温度・湿度を測定してアラームなどで熱中症リスクを知らせてくれるグッズもあるため、活用してもらうのもよいでしょう。エアコンに扇風機を併用することで空気を循環させることで、エアコンの冷却効率を上げることができます。
「新しい生活様式」のなかでは、日ごろから体温を測ったり体調をチェックすることで、感染予防とともに熱中症予防にもつながります。体調のすぐれないときは無理をせず自宅で静養してもらうようにしましょう。
特に高齢者は、気温の変化やのどの渇きなどを感じにくくなっており、脱水から熱中症に陥る危険が高いです。脱水の徴候を早くに見抜き、水分管理を意識することで、重篤化を防ぐことが期待できます。新たな環境の今こそ、私たちの細やかな目配り、声かけが患者さんの安全につながることを改めて認識していただき、取り組んでいただければと思います。
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