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2020年7月公開
学会が示した「熱中症予防に関する提言」
編集
谷口英喜
恩賜財団済生会横浜市東部病院
患者支援センター長 周術期支援センター長
栄養部部長
日本救急医学会では例年、熱中症の危険性とその対応策について呼びかけを行ってきていますが、今年は、日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本臨床救急医学会と共同で新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループを発足し、「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」(『新しい生活様式』下における熱中症予防に関する学術団体からのコンセンサス・ステートメント)をまとめました。その概要を紹介します。
[提言1] 屋内においては、室内換気に十分な配慮をしつつ、こまめにエアコン温度を調節し室内温度を確認しましょう。
屋内の滞在時は、「部屋の窓を風の流れができるように、毎時2回以上は開放(数分程度/回)し、換気を確保すること」が推奨されている。エアコンにより新鮮な空気に入れ替わっていると思われがちだが、通常の家庭用エアコンは空気を循環させるだけで、換気の機能はない。そのため、適宜窓を開け、風通しをよくすることが重要である。しかし、頻回に窓を開けたり、換気システムを使用して室内換気を行うと、室内温度が上昇してしまいがちである。すだれやレースカーテンなどで直射日光の照射を避け、さらに部屋の温度をこまめに確認することが重要である。
[提言2] マスク着用により、身体に負担がかかりますので、適宜マスクをはずして休憩することも大切です。ただし感染対策上重要ですので、はずす際はフィジカルディスタンシングに配慮し、周囲環境等に十分に注意を払って下さい。また口渇感によらず頻回に水分も摂取しましょう。
外出時には他者への飛沫拡散を避けるため、マスクを用いた咳エチケットが推奨されている。しかし、マスクを着用してジョギングなどを行うと呼吸障害を引き起こして熱中症などが発生してしまう怖れもある。マスク着用が身体、特に体温に及ぼす影響を学術的に研究した報告はあまりないが、マスクを装着して運動した人は有意に心拍数、呼吸数、二酸化炭素が増加、マスクをつけている部分の皮膚温度はつけていない人の顔面に比べて温度が上昇したという報告もある。マスクをつけて運動しているから必ず熱中症になりやすいとも言えないが、心拍数、呼吸数、二酸化炭素、体感温度の上昇から、マスクをつけることで、体に負担がかかることは考えられる。また、マスクをしていると口腔内の渇きをあまり感じないことも想定される。
熱中症予防にはこまめな水分摂取が必要で、口渇感によらず脱水のリスクが高い小児や高齢者ではささいな体調変化も見逃さないで、塩分を含む経口補水液を頻回に摂取することが重要である。
[提言3] 体が暑さに慣れていない時期が危険です。フィジカルディスタンシングに注意しつつ、室内・室外での適度な運動で少しずつ暑さに体を慣れさせましょう。
熱中症は毎年、気温が熱くなり始める時期、体が慣れきっていない時期に増加する。通常、暑い日が続くと体が暑さに慣れてきて(暑熱順化)暑さに強くなるが、今年はコロナ禍の外出制限によって在宅時間が長くなり、多くの人が十分な運動ができなかったため暑熱順化が遅れる可能性がある。そこで、自宅で、立ち上がって足踏みをする、スクワットをする、体操をするなどを行って活動量・運動量を増やすことが必要である。屋外での運動も、咳や発熱の症状がないことを確認したうえで、人混みを避け、一人や限られた人数で散歩するなど、暑熱順化を獲得するよう取り組むことが重要である。
[提言4] 熱中症弱者(独居高齢者、日常生活動作に支障がある方など)の方には特に注意し、社会的孤立を防ぐべく、頻繁に連絡を取り合いましょう。
日常生活のなかで起こる非労作性熱中症は徐々に進行し、周囲の人に気づかれにくく、対応が遅れる危険性がある。コロナ禍における外出自粛に伴う屋内の長時間滞在や、いわゆるフィジカルディスタンシングに配慮するため、見守り頻度が減少することが熱中症の発症リスクや重症度を上げてしまうことが危惧される。そこで、高齢者や独居の方に、声かけを頻回に行い、孤立を防ぐことが重要である。
[提言5] 日頃の体調管理を行い、観察記録をつけておきましょう。おかしいなと思ったら、地域の「帰国者・接触者相談センター」や最寄りの医療機関に連絡・相談をしましょう。
COVID-19を疑う際の受診の目安として、下記の症状が挙げられている。
・息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
・重症化しやすい方で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
・その他、発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
また、上記以外で発熱(37.5℃以上に限らない)や咳など比較的軽い風邪の症状が4日以上続く場合にも相談センターに連絡するよう推奨されている。
熱中症患者も高熱やだるさを訴えることがあり、COVID-19との鑑別が難しいことも考えられる。発熱や呼吸困難等の症状がみられたら、毎日体温を測定し、症状を記録しておくことが重要である。病院を受診する際にも、COVID-19の疑いがあるのか、それとも熱中症が疑わしいかは、発熱の期間や呼吸困難出現の有無など、今までの体調の変化や接触歴の有無からも判断される。
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