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2022年12月公開
エコーは看護にどう活かせるのか
浦田克美
東葛クリニック病院 主任
皮膚・排泄ケア特定認定看護師
終戦から3年後の1945年に制定された保健師助産師看護師法第5条によると、「看護師」とは、「厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう」1とあります。 私はこの規定を踏まえて、看護師の役割を次のように解釈しました。「療養上の世話」とは「人が生きていく姿を支える」こと、「診療の補助」とは、「人の命を支える」こと。人の生命活動の中で看護師がかかわることができる範囲は幅広く多岐にわたります。したがって、看護の必要性は高く、あらゆるリソースを最大限にすることで、今以上に拡張できると考えています。
2022年、日本看護協会から「看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド」2が発刊されました。ここでは、医師のタスク・シフトとしてナースが専門性を発揮するよう推奨しています。
かつて戦後の高度経済発展に伴い、疾病や傷病者が急増し聴診器を使用した血圧測定が医師からナースへタスク・シフトされました。同じようにエコーも、医師が診断するための機器から、ナースが、観察目的で使用する機器にタスク・シフトされつつあります。つまり、「人が生きていく姿を支える」ために、「人の命を支える」ためにエコーを活用していく時代に変化しているのではないでしょうか。時代の後押しもあり、私はエコーに看護の未来を感じています。
エコーが看護で活用されている場面について一部を紹介しましょう。
「人が生きていく姿を支える」ための看護の中には、1つは、排尿エコーで膀胱内尿量を測定して排尿自立を促進することや、便エコーで腸内をアセスメントして個々の患者に応じた排便ケアの提供などがあります(写真1)。また、助産師を対象とした研究では、エコーは、胎児が正常であることを確認し、妊婦とのコミュニケーションのツールとして有効であるなどの報告3があります。これらは、まさにエコー画像がコミュニケーションツールとなっている例です。実際に、「人が生きていく姿を支える」ための看護にエコーが活用されているといえます。
写真1 排便ケアに活かすエコー
一方、「人の命を支える」ための看護としては、救急の場面で腹部膨満の患者に腹水の貯留や腸閉塞の状態をエコーで発見し、早期除外につながった事例があります4。エコーの異常画像を早期に医師へ報告できれば、早期治療につながるわけです。褥瘡対策の場面で、DTIの発見も重症化予防の1つです(写真2)。血液透析治療の際の穿刺支援(写真3)も、「人の命を支える」ための看護にエコーを活用している例だといえます。
写真2 褥瘡ケアに活かすエコー
写真3 血液透析治療の際のエコーガイド下穿刺
ナースがエコーを活用する価値は、観察ツールと言われる五感の一部を画像化し客観的にアセスメントができるということ、さらに、患者も含めて、医師やメディカルスタッフと画像を共有できることもエコーの価値の一つでしょう。特に、訪問看護師が単独でケアの提供をする訪問看護の場面では、エコーのニーズが高いのではないでしょうか。
このように、ナースがエコーを活用する価値にはさまざまなものがあります。とはいえ、従来エコーは医師が診断目的で使用していたため、ナースにとってはハードルの高い医療機器です。看護教育の中の基礎科目にも組み込まれていません。さらに、価格面でいえば、聴診器のように気軽に使えるほど安価ではありません。そして、酸素飽和度モニターや電動血圧計のように直感的に使用できるものではないため、活用するためには指導者が必要です。
そこで、まずは超音波検査士もしくは臨床検査技師とコラボレーションできるシステムを作ることから始めてみることをお勧めします。彼らは、エコー検査を日々実践しているエキスパートです。さらに、技術指導やデモ機のリースなどのサービス提供をしてくれるエコーの販売メーカーとのパイプもあります。私は、褥瘡回診というチーム医療の中で臨床検査技師からエコーを学びました。
“看護”という文脈の中でエコーを活用するためには、協力してくれる仲間は必須です。エコー技術は経験数に比例しますが、エコー画像を読む力は短期的に習熟できます。エコーを使いこなすためのファーストステップは、描出したい部位の解剖を理解し、エコー画像を読むことです。
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ナースは、日々五感を使って観察してきました。加えてナースが、エコーを活用できるようになれば観察したことが客観的なデータになります。活用領域も、コミュニケーション、排泄ケア、異常の早期発見や穿刺支援以外にも広がる可能性を秘めています。
ここからは、看護の文脈のなかでエコーを活用できる具体的な場面を紹介していきます。
©DEARCARE Co., Ltd.