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2022年12月公開
エコーによる排便のアセスメント
浦田克美
東葛クリニック病院 主任
皮膚・排泄ケア特定認定看護師
「慢性便秘症患者は非便秘者と比べて死亡率が12%高くなる、2種類以上の下剤の内服は死亡率を上昇させる」1といった報告は、便秘に対する医療者の認識を転換させました。『慢性便秘症診療ガイドライン』によると、「便秘とは本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」となります2。
わが国における便秘の有訴者率は65歳以上で7.38%、75歳以上では10.13%と、加齢に伴い増加しています3。高齢者便秘の原因は、腹圧や直腸機能の低下、水分および食物繊維不足、向精神薬やオピオイド系薬による薬剤性など多様です。超高齢社会とともに便秘人口も増加していくでしょう。
当院では、2018年から臨床検査技師とともに超音波診断装置(エコー)を使って排泄前の便を可視化し、便秘ケア方法の選択について研究してきました。その結果、エコーで腸管内に停滞している便性と量を観察できるようになりました。加えて、次々と下剤の新薬が販売され、便秘に対する打ち手の幅も広がりました。現在では、排便サポートチームを立ち上げ、便秘の評価から排便ケア方法の検討や提案などを行っています。ここでは、便秘ケアにおけるエコーの活用方法と慢性便秘の患者から得た学びを事例で紹介していきます。
エコー機は、必要なタイミングで簡便に使用できるラップトップ型もしくは携帯型エコーを使用します。プローブは膀胱や腸管を描出できるコンベックス型、周波数は5MHz、Depth(深さ)6~15cmを初期設定とします。さらに、褥瘡エコーと同様に、プローブはポリエチレンやラップ類などで保護します。
便エコーは、後で詳しく解説しますが、「経腹アプローチ走査法」と当院の臨床検査技師が開発した「経臀裂アプローチ走査法」で評価します。診療報酬(表1)は、経腹アプローチ走査法に限っては腹部エコー検査の範囲として530点/回の算定が可能です。しかし、経臀裂アプローチ走査法はまだエビデンスも不十分なため、当院では算定していません。
表1 エコー検査に関する診療報酬
検査部位・検査方法 | 診療報酬(1点=10円) |
断層撮影法(Bモード) ・胸腹部のBモード ・四肢、体表〈甲状腺や乳腺など〉末梢血管などの胸腹部以外のBモード |
530点 350点 |
心臓超音波検査 | 880点 |
(2022年8月現在)
便エコーの役割は、(1)便の有無を評価、(2)排便ケア後の残便確認です。
(1)便の有無を評価
直腸内の便を観察する方法は、「経腹アプローチ走査法」と「経臀裂アプローチ走査法」の2つです(図1)。
図1 「経腹アプローチ走査法」と「経臀裂アプローチ走査法」
「経腹アプローチ走査法」は、皮膚の露出が少なく膀胱と直腸を同時に観察できるのが利点です。プローブは、恥骨結合上縁に短軸(横断面)、長軸(縦断面)の順で走査します。有形便が貯留している場合、短軸では膀胱の下に半月型の高エコー所見(写真1)が観察できます。硬便では高エコー所見が三日月型となります4。長軸では、膀胱の後面や下部の直腸内に便を示す高エコー所見の有無を探っていきましょう。
便の貯留がない場合は、短軸では膀胱の下に低エコーの直腸、長軸では連続した高エコーの腸壁が確認できます。
男性の場合は、膀胱と直腸の間に前立腺があるため直腸と間違えないようにしましょう。
写真1 経腹アプローチ走査法:半月型便
「経臀裂アプローチ走査法」は、側臥位姿勢で行います。膀胱内の尿量やガスに影響されずに安定した観察ができ、浣腸や摘便などの実施もスムーズなのが利点です。プローブを臀裂に挟む形で肛門部に当てると、直腸下部から直腸肛門角付近の観察が可能です。さらに、便のエコー画像を以下の特徴に倣って分類すると便性の予測もできます。
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