※パスワードの変更もこちらから
2023年4月公開
Part2 がん緩和ケアで見られる症状②
食べられなくて困っています
がん患者の食欲不振に対する支援の考え方
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
食欲不振に対する基本的な考え方は、食欲不振の原因をアセスメントし、食欲不振を引き起こしている原因に対する支援を提供することです。そのため、がん悪液質のステージ分類や、悪心・嘔吐の有無、口腔内の状態など、食欲不振に関連する原因を評価することが重要になります。
また、患者さんが抱えている「食べられない」ことに対するつらさ(eating related distress:ERD)に焦点を当て、そのつらさを理解することも重要です。多くのがん患者さんは「食べられない」ことに関してつらさを感じています。先行研究では、体重減少によるボディイメージの変化や、食事がとれないことによる死への意識、料理することに関連した家族内の役割の変化によるつらさがあることが報告されています1。
さらに、患者さんのご家族は、「栄養が足りていないと弱ってしまう」「なんで食べてくれないのか」「作った食事を食べてくれないので悲しい」などといった否定的な感情を抱くことが報告されています2,3。このように、患者さん側の「食べたいのに食べられない」という思いと、家族側の「食べてほしいのに食べてくれない」といった思いが対立することもあります。結果として、食欲不振といった身体症状は、心理的・社会的な側面にまで影響を及ぼす可能性があることを理解する必要があります。
がん患者の食欲不振に対するケア
食欲不振の原因に対する支援について紹介しましょう。
がん悪液質に対する支援では、ステージ分類により支援が異なります。前悪液質では、症状や食事に関連したリスク要因(食事の環境、食事のつらさなど)をモニタリングし、予防的に関わることが重要であると考えます。悪液質では、アナモレリンやコルチコステロイドなど、薬物による治療が主体となりますが、これらに組み合わせて、栄養カウンセリングや栄養補助食品による支援4,5、運動療法などの支援が取り組みとして行われています6(図2)。不応性悪液質では、苦痛な症状の緩和、および「食べられない」ことへのつらさに対する心理社会的なケアが中心となります。例えば、ボディイメージの変化への支援や患者さん-ご家族間の思いの傾聴や、思いの対立への支援、役割調整などが重要になります。
図2 がん悪液質のマネジメントに関するアルゴリズム
文献7を著者が翻訳
食事の工夫では、患者さんの好みに応じた食材や調理法、味付けにするなどを考慮するとともに、食べやすいものを選択することが重要です。また、決まって3食食べるというよりは、食べられそうなときに少量ずつ食べるという考え方が良いかもしれません。何よりも、おいしく食べることを重視することが大切になります。加えて、匂いや視覚による情報も重要になります。慣れ親しんだ食器を使用したり、盛り付けを少量にするなどの工夫も有用かもしれません。
悪心・嘔吐がある場合は、食事の前に氷片を口に含み、様子を見てから食事を進めてみましょう。また、食べ物の匂いにより悪心・嘔吐が誘発される場合があります。その場合は、匂いの少ない食事を選択したり、少し冷ました状態で提供するとよいかもしれません。基本的な考え方としては、消化が良く、患者さんの食べたいと思うものを選択すると良いと思います。筆者の経験上、シャーベットやアイス、フルーツ、ゼリーなど、さっぱりとした食事を好まれることが多いように思います。
口腔内に痛みがある場合は、刺激の少ない食事を選択することも一つの方法です。また、食事の形態を柔らかいものにしたり、場合によっては栄養補助食品のゼリー飲料などを利用したりするのも一案です。
環境の調整では、食事前の準備状況を整えることが重要になります。進行がん患者さんの場合、食欲不振の症状に加え、倦怠感などさまざまな症状を抱えている可能性があります。安楽な姿勢を保持できるよう、クッションなどを利用し体位を整えることが重要です。
食欲不振には、日々の口腔ケアが重要になります。具体的な口腔ケアの方法の例を表1に示します。口渇や口内炎などの口腔内のトラブルに対処し、食事摂取できるよう取り組むことも大変重要です。
表1 具体的な口腔ケアの方法例
口腔ケアの方法 | |
---|---|
①口腔ケアの必要性と効果を説明 ②体位調整(30度仰臥位、頸部前屈) ③口唇の保湿(ワセリン塗布) ④口腔粘膜に保湿ジェルを塗布 ⑤スポンジブラシで汚れを除去 |
⑥愛護的に歯を磨く(柔らかめの歯ブラシを使用) ⑦スポンジブラシで汚れを除去 ⑧保湿ジェルを塗布 ⑨姿勢を整える |
ケア時のポイント: ●含嗽が可能な場合は3~4回/日で実施する(アルコール非含有) ●2回/日以上の頻度で口腔ケアを行う(経口摂取をしていない場合も) ●唾液の分泌;ペパーミント、ビタミンC*、チューインガム、水分補給 ●唾液の代替;水スプレー、人口唾液 ●口内炎;リドカイン入りの含嗽剤を考慮、薬剤による鎮痛 ●悪心・嘔吐;ミント水やレモン水*、冷水による含嗽 |
※口内炎がある場合は刺激に注意する
文献8~10を参考に作成
©ALCARE Co., Ltd.