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2023年4月公開
Part2 がん緩和ケアで見られる症状②
食べられなくて困っています
Key point
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がん患者における食欲不振とは
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
食欲不振とは、「意図しない食欲の減少あるいは喪失」と定義され、進行がん患者さんの約8割が経験する症状です1,2。また、「食べたいのに食べられない」や「食べないといけない」と思う患者さんも多く、このような場合も食欲不振の定義に含まれるのではないかと考えます。急性の症状である場合は、通常、病気の解決とともに症状が軽快し、栄養剤や食事摂取の量を増やすことができます。一方で、進行がん患者さんでは、症状の改善が難しい場合があります。
進行がん患者さんの「食べられない」原因にはさまざまなものがありますが、中でも、“がん悪液質”は最も顕著な原因です。がん悪液質とは、食欲低下と体重減少、骨格筋量の持続的な減少が主な症状であり、従来の栄養サポートでは改善することが困難な、進行性の機能障害をもたらします3。
がん悪液質は、時間経過の連続体として3つのステージに分類されます(図1)4。すべてのがん患者さんがこの経過をたどるとは限りませんが、このステージ分類は、患者さんの置かれている状況を理解し適切な支援を提供するために役立ちます。前悪液質とは、悪液質に至る前の段階であり、食欲不振や耐糖能異常などの兆候が、体重低下に先立ち生じることがあります。これらのことから、進行がん患者さんの食欲不振を考えるうえで、悪液質について知ることは大変重要なことです。
図1 がん悪液質のステージ分類
文献4を著者が翻訳
がん悪液質の他にも、食欲低下は病状の進行やがん治療の影響など、さまざまな原因によって引き起こされます。その中でも食欲不振の代表的な原因となる、悪心・嘔吐、口腔内トラブルについて述べていきます。
①悪心・嘔吐
悪心・嘔吐とは、消化管の内容物を口から吐出したいという切迫した不快な感覚、および消化管の内容物が口から強制的に排泄されること、と定義されています5。悪心・嘔吐の原因は、抗がん薬やオピオイドなどの薬物治療によるもの、消化管運動の異常・低下・亢進によるもの、中枢神経・心理的な原因によるものなど多岐にわたります。加えて、悪心・嘔吐は、これらの原因が複数同時に存在することも多くあります。
②口腔内トラブル
食欲不振の原因である口腔内トラブルとしては、主に口腔内が乾燥していると感じる患者さんの主観的な症状である「口渇」と、口腔内で生じる炎症の総称であり強い痛みを伴う「口内炎」が挙げられます。これらの口腔内の症状は、約8~9割の進行がん患者さんが経験し、「食べられない」ことに関する悩みを抱えています6-8。
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