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2023年4月公開
Part4 がん緩和ケアで見られる症状④
動くのがつらくて困っています
がん関連倦怠感に対する支援の考え方
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
がん関連倦怠感(CRF)に対する支援の基本的な考え方は、CRFの原因をアセスメントし、前項の図1に示した原因に対して支援を提供することです。一方で、患者さんの残された予後によっては、それらの対応が負担になる場合も少なくありません。例えば、残された予後が短い臨死期の場合は、やや脱水傾向に調整したほうが、浮腫や腹水、胸水などの身体的な苦痛を緩和できることが示されています。そのため、脱水だからといって安易に補液を増やすことは望ましいとは言えません1。このように、CRFだけでなく、患者さんの置かれている状態を総合的にアセスメントし、支援の提供の可否を判断する必要があります。
CRFの有無を確認するために、症状の評価を行うことも重要です。例えば、定量的な評価方法の一つとして“Numerical rating scale(NRS)”があります。これは、0(全くない)~10(最も悪い)までの11段階でCRFを示してもらい評価するものです。具体的には数値を「症状の重症度」に置き換え、支援のタイミングを検討します。例えば、1~3は軽度、4~6は中等度、7~10は重度と判断します。中等度以上のCRFが確認された場合は、より詳細な情報収集に努め、NRS3以下となることを目指してCRFへの支援を検討します2,3。筆者らの研究4では、CRFのNRS4の数値は、患者さんが「症状あり」と判断する境界となる数値であることが示唆されており、これが考え方の一つの参考になるかもしれません。また、CRFの症状は病状とともに変化することが予測されるため、症状を見逃さないためにも定期的な評価が重要になります。
CRFに対する有効な治療法は確立されていませんが、患者さんの状態に応じて一般的には、有効性が期待されているステロイドによる薬物療法が行われることが多いのが現状です5,6。一方で、ステロイドを投与することによる不眠やせん妄、血糖値の上昇などがCRFの悪化につながるリスクを考慮しなければなりません。そのため、CRFへの支援では、薬物療法と合わせて、次の項で紹介する非薬物的な支援も重要になります。
がん関連倦怠感に対するケア
がん関連倦怠感(CRF)に対する支援では、運動療法、心理教育的支援、体力温存と活動管理などで効果が認められ、これらの支援を提供することが推奨されています7。
運動療法8-11は、有酸素運動や筋力トレーニング、ウォーキングなどが行われ、多くの研究でその効果が期待されています。先行研究では、運動の方法や強度、タイミングなどはさまざまな方法で実施されていますので、具体的にどのような方法が望ましいとは一概には言えません。患者さんに対して支援を実施する際は、患者さんの状態や希望に合わせた実施可能な方法を選択することが重要と考えます。
心理教育的支援8,12,13は、CRFを患者さん自身で管理することを目的とした支援です。症状マネジメントやストレス管理、対処行動のトレーニング、カウンセリングなどの方法が挙げられます。
エネルギーの温存と活動管理14,15は、活動の優先順位に従い、体力を温存したり活動を管理したりする支援です。具体的には、重要性の低い活動や必要性が低い活動を極力避け、その分、優先度の高い活動を行えるように支援します。また、活動に対するペース配分について相談したり、十分な休息を確保できるようにしたりするなどの支援を行います。加えて、昼夜のリズムを保つことも重要です。夜は眠れるように環境を整え、寝つきが悪い場合などは、睡眠剤や抗不安薬の処方を医師と相談してもよいかもしれません。日中は、こまめに休息を促し、活動と休息のバランスをとることを意識しながらかかわることが重要です。
その他にも、音楽療法や、アロマセラピー、マッサージ、リフレクソロジー、指圧、足浴などの支援がCRFの改善に役立つ可能性があることが報告されています16-19。これらの支援方法は、研究デザイン上の問題などから、「この支援は効果がある」とは言い切れず、進行がん患者さんへのエビデンスは十分とは言えません。しかし、これらの支援を参考に、日々の看護ケアに取り入れることは可能だと思われます。
例えば、清拭や足浴などの清潔ケアのときなどは、患者さんの好みの香りのアロマを数滴たらして実施するのもよいかもしれません。また、足浴のときに足をマッサージしながら行うとよいかもしれません。清潔ケアのために身体を動かすことがCRFの軽減に役立つ可能性もあります。朝起きたときや眠る前に、患者さんの好みに応じたアロマの香りや好きな音楽を流すなどの支援も有用かもしれません。このように、患者さんにとって悪影響が生じない範囲で、なおかつ、実施可能な方法であれば、患者さんに合った方法を模索しながら、さまざまな方法を試してみるとよいのではないかと考えています。
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