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2023年4月公開
Part3 がん緩和ケアで見られる症状③
排泄ができなくて困っています
Key point
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進行がん患者さんの排泄に関する困りごととしては、主に便秘、下痢、消化管閉塞(イレウス)、排尿障害などの症状が挙げられます。本項では、便秘に着目して述べていきます。
がん患者における便秘とは
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
便秘とは、腸管内容物の通過が遅延・停滞し、排便に困難を伴う状態と定義1され、排便の困難さに関連する症状を表すために使用されます。具体的には、排便の頻度が少ない、硬便/兎糞状である、強いいきみを伴う、残便感や閉塞感がある、排便を容易にするために用手的な排便介助が必要、などが含まれます2。便秘は、がん患者さんの約60%に生じ、さまざまな病期において患者さんの苦痛になっています3。便秘の原因にはさまざまありますが、がん患者さんに生じやすい便秘の原因を表1に示します4。進行がん患者さんの場合は、複数の要因が併存し、便秘が生じていることが多いです。
表1 がん患者さんの主な便秘の原因
Organic factors | |
---|---|
薬剤 | オピオイド、制酸剤、鎮咳薬、抗コリン薬、抗うつ薬、制吐薬、神経遮断薬、鉄剤、利尿薬、抗がん薬 |
代謝異常 | 脱水症、高カルシウム血症、低カリウム血症、尿毒症、糖尿病、甲状腺機能低下症 |
神経筋の障害 | ミオパシー |
神経系の障害 | 自律神経障害、脊髄または脳腫瘍、脊髄病変 |
構造的な問題 | 腹部または骨盤の腫瘤、放射線線維症、がん性腹膜炎 |
疼痛 | がん性疼痛、骨痛、肛門痛 |
Functional factors | |
食事 | 繊維摂取量の不足、食欲不振、食事・水分摂取量の不足 |
環境 | プライバシーの欠如、排泄介助の必要性、文化的問題 |
その他 | 運動不足、年齢、うつ状態、鎮静状態 |
文献5を著者が翻訳
特に、進行がん患者さんにおいては、オピオイド誘発性便秘症(Opioid-Induced Constipation:OIC)の頻度が高く、オピオイド投与中のがん患者さんの51~87%に生じているとされています6。オピオイドは、強い鎮痛効果を発揮する一方で、腸管のμオピオイド受容体に作用します。その結果、腸管分泌の低下、蠕動運動の低下、腸管からの水分の吸収の亢進が引き起こされて便秘が生じます。また、OICは耐性が生じないため、適切に対処しなければ症状が継続/悪化することになります。便秘を管理するためにオピオイド内服の拒否や自己中断につながり、QOLの低下を導く恐れがあります7。近年では、OICは、その支援の必要性から注目を集め、過敏性腸炎症候群の診断基準であるRoma Ⅳ(ローマ4)の中に、新たに定義が追加されました(表2)8。
表2 機能性便秘およびOIC*の診断基準 Roma Ⅳ(ローマ4)
*OIC の場合は、「オピオイド開始・変更・増量により、新たな便秘症状あるいは症状の悪化が現れる」ことが定義に含まれます。
文献8より一部改変
このように、進行がん患者さんの便秘への支援を考えるうえでは、OIC のことを含めて理解することが重要です。一方で、便秘は、がん患者さんによく見られる苦痛症状であり、その臨床的重要性にもかかわらず、認識されず、治療が不十分なことが多いと言われています4。
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