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2023年4月公開
Part3 がん緩和ケアで見られる症状③
排泄ができなくて困っています
便秘に対する支援の考え方
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
小林 成光
聖路加国際大学大学院看護学研究科 講師
がん看護専門看護師
便秘をマネジメントするためには、便秘の状況を定期的にアセスメントしていくことが必要です。例えば、最終排便日はいつなのか、排便の頻度はどれくらいか、排便のパターンに変化はあったか、残便感はないか、どのような下剤をどれくらい使用しているのか、などについて尋ねます1。便秘の評価で重要となる要素を表3に示します。また、便の性状を評価するために、ブリストルスケール(The Bristol Stool Form Scale:BSFS)を活用します。ブリストルスケールとは、便の性状を7つのタイプに分類して評価する有効なツール2です(図1)。ブリストルスケールで“硬便”または“兎糞状便”(Type1、2)の場合は便秘であるとみなし、便の性状が普通便に近づくこと(Type3~5)を目指し支援していきます。
表3 便秘の評価で重要な要素
文献3を著者が翻訳
図1 ブリストルスケール
Type1 | 兎糞状便:硬くコロコロした便(ウサギの糞のような便) | |
Type2 | 硬便:短く固まった硬い便 | |
Type3 | やや硬い便:水分が少なく、ひび割れている便 | |
Type4 | 普通便:適度は軟らかさの便(ソーセージや蛇のような) | |
Type5 | やや軟らかい便:水分が多く、やや軟らかい便 | |
Type6 | 泥状便:形のない泥のような便 | |
Type7 | 水様便:水のような便 |
文献2より一部改変
排便の量も重要な要素の一つです。看護師が「便は出ましたか?」と尋ねると患者さんは「出ました」と答えますが、続けて「どのくらい出ましたか」と尋ねると「付着程度です」答えることがよくあります。このように、排便の有無だけを聞くのではなく、排便量も尋ねたほうがよいでしょう。
溢流性便秘の可能性についても知っておくことが大切です。見かけ上は水様便や泥状便が続くため、下痢症状と捉えてしまいがちですが、宿便により硬便が貯留していることがあります。そうすると硬便の隙間を水様便が通過しまい一見下痢のように見えますが、実は便秘が進行していることがあります。腸の視診・聴診、触診を行うとともに、直腸内に便が滞留していないか、用手的な排便介助を行うことが重要です。加えて、便秘では、患者さんの生活習慣や過去の経験に基づいた排便と、排便に対する満足度が重要です。そのため、患者さんの排便習慣についてお聞きするとともに、過去の対処法などをもとに支援を計画していくことが必要です。
がん患者の便秘に対するケア
がん患者さんに対する実践のエビデンスとしては乏しいですが、患者さんへの利益と不利益のバランスを鑑みてケアを提供することが大切です。米国がん看護学会(Oncology Nursing Society:ONS)のガイドラインでは、食物繊維や水分の摂取、運動などの生活習慣について教育することを推奨しています4。患者さんへの侵襲が低いと考えられる支援は積極的に取り入れるとよいでしょう。
生活習慣のケアでは、まずは排便の習慣をつけることが重要と考えられます。一般的に、便意が最も起こりやすいのは朝食後と言われています。朝食後が絶対によいとは限りませんが、毎日、同じ時間にトイレに行く習慣をつけることが排便のリズムを整えることにつながります。
食事の工夫については、先行研究で、水様性食物繊維の摂取が便秘に有効であることが示唆されています5,6。そこで、果物やイモ類、昆布、わかめ、こんにゃくなどの水様性食物繊維を多く含む食品を患者さんに紹介し、摂取できそうなものを一緒に考えるとよいでしょう。また、患者さんの過去の経験から、便秘の改善に役立ちそうな食事について尋ね、取り入れることもよいでしょう。また、脱水が便秘の原因となっている場合は、許容できる範囲で水分摂取を促すことも重要です。
運動は便秘の改善に有用であることが示唆されています7。そのため、患者さんに負担がかからない程度で、かつアクセスしやすい方法を一緒に考え、日々の活動に取り入れていくとよいでしょう。例えば、毎日20分程度の散歩から開始し、徐々に活動量を増やしていくのもよいかもしれません。
その他に、腹部を押したり、揉んだり、やさしく撫でたり、振動を与えたりするような一般的な腹部マッサージなどの便秘の改善に対する取り組みが行われています8-10。また、腹部(中脘:CV12「みぞおちと臍を結んだ線の中間」、関元:CV4「臍中央約9cm」、天枢:ST25「臍横約6cm」)、および耳介の指圧も便秘に有用な可能性が示唆されています11,12。いずれの支援も、患者さんに負担がない範囲で試みるとよいかもしれません。
便秘に対する支援では、生活習慣の改善に対するケアに加えて、緩下剤の投与・調整が重要です。特にOIC(オピオイド誘発性便秘症)では、予防的な緩下剤の投与が推奨されています。看護師は、緩下剤の調整にかかわる機会が多く重要な役割を担っているため、緩下剤について理解しておくことは大変重要です。
実際には、便の性状に合わせて、浸透圧性緩下剤と刺激性下剤を組み合わせて投与量を調整します。浸透圧性緩下剤は、腸内で水分泌を引き起こすことで排便回数を増加させる働きがあり、刺激性下剤は、大腸の蠕動運動を促進し、腸管からの水分の吸収を抑制し瀉下作用を有します。いずれの薬剤も便秘の症状に有効性が示されています6,13-16。慢性便秘症のガイドライン17においても投与が推奨されています(それぞれ、エビデンスレベルA、B)。OICにおいては、ルビプロストン(アミティーザ®)18,19や、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)であるナルデメジン(スインプロイク®)20、セロトニン21などの有効性が示されています。従来の方法において効果が見られなかった場合や、OICによる便秘と考えられる場合は、これらの薬剤を調整することも重要になります。また、患者さん自身が、過去に効果があったと体感している緩下剤を考慮に入れ、薬剤調整することも重要です。
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