2020年1月公開
高齢者にみられる筋力低下には大きく2つのタイプがあります。1つは加齢変化によるもので、サルコペニア(≒加齢性筋萎縮・筋力低下)といいます。もう1つは廃用(≒不動)による廃用性筋萎縮・筋力低下です。いずれも高頻度で高齢者に認められるもので、立ち上がり動作や歩行、階段昇降などの日常生活活動(ADL:activities of daily living)動作の制限にかかわるとされています。
筋萎縮や筋力低下を呈するという症状は両者で共通していますが、その病理変化が少し異なるのが特徴です。サルコペニアでは筋線維の数も横断面積も減少するとされていますが1、廃用性筋萎縮の場合には筋線維の数はあまり変わらず横断面積のみ減少すると考えられています2(図1)。
この両者を明確に識別することは難しく、また識別する意義もそれほど重要なものではありません。ただし、医療現場ではこの2つの筋力低下が併存しているケースが多いことを理解しておく必要はあります。
図1廃用性筋萎縮と加齢性筋萎縮
例えば、大腿骨近位部骨折を呈した高齢患者をイメージしてください(図2)。
大腿骨近位部骨折は、フレイル*な状態にある高齢者が転倒を契機に発生する代表的な骨折です。
この大腿骨近位部骨折を呈するような高齢者では、受傷前の時点からサルコペニアを有していたことが予想でき、さらに受傷後(手術後)の安静による廃用性筋萎縮が加わっている可能性があります。
サルコペニアと廃用性筋萎縮が併存することで、その回復過程にも配慮が必要になります。
前述のように、廃用性筋萎縮の場合には筋線維の数自体は残存しているため、比較的早期の回復を期待することができます。しかし、サルコペニアの場合には筋線維の数自体が減少しているため、廃用性筋萎縮ほど早期の回復を期待することは困難です。
つまり、医療機関での入院期間で回復するのは主に廃用性筋萎縮のほうであり、ある程度改善してもまだサルコペニアの影響は強く残存していることになります。そのため、退院後の在宅や介護保険領域での継続した運動療法が必要になります。
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