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専門医施設リポート広島逓信病院院長 杉山 悟先生

2017年5月公開

  • ※この記事内容は公開当時の情報です。ご留意ください。
最初に、広島逓信病院が下肢静脈瘤の治療を專門に行うようになった経緯を教えてください。
私が赴任した1993年頃は、下肢静脈瘤の認知度がまだ低く、この疾患に悩まされている患者さんは何科を受診したらいいか分からないという時代でした。心臓血管外科では命に関わる心疾患患者の診療に忙しく、一般的な疾患である下肢静脈瘤の診療に時間を割く余裕がなかったのが現状でした。患者さんが一般外科や皮膚科を受診しても「これは血管の疾患だから、診られない」「命に関わるような疾患ではないので、そのままにしておいても大丈夫」と言われていました。
当時の血管外科の部長は、静脈学の重要性を強調し、静脈疾患を専門に診る医者が必要だという考えを持っていました。1992年に鳥取県で下肢静脈瘤硬化療法研究会が発足し、血管外科医による全国的な勉強会が開催される中、当院は本格的に下肢静脈瘤の診療を始めました。患者数は増え続け、2000年には年間500例、700肢にまで達しました。
2011年にはレーザー治療が保険適応になり、下肢静脈瘤を治療する施設は全国的に増えました。今では下肢静脈瘤が普通に治療されるようになり、患者さんもどの医療機関を受診すればよいか迷うこともなくなりました。
受診される下肢静脈瘤の患者さんの性別や年齢、主訴を教えてください。
われわれが治療を始めた1990年から2000年にかけては患者さんの平均年齢は55歳ぐらいでしたが、今は少し上がり65歳ぐらいです。男女比は1:3と女性の方が多く、子育てが終わった頃に受診する女性の年齢がちょうど55歳ぐらいです。55歳の女性は、まだ筋肉が強いので、下肢静脈瘤があっても普通に歩けますし、痛みもありません。本当に手術が必要なのは筋力が弱ってきた60歳以降で、膝や腰の痛みを併発している患者さんです。手術をすると膝や腰の痛みが軽くなる可能性があるので、私は積極的に60歳以上の患者さんには手術をお勧めします。そのため、平均年齢が上がったのだと推測します。
近年、病診連携という言葉をよく聞きますが、広島逓信病院には地域のクリニックから下肢静脈瘤が疑われる患者さんが紹介されてきますか。
受診する患者さんの約半分が内科クリニックからの紹介です。高血圧や糖尿病でクリニックに通院している患者さんに下肢静脈瘤が併発しているケースは少なくなく、当院で静脈瘤の治療をしてクリニックに戻ってもらうという流れです。最近は皮膚科、整形外科のクリニックとも連携を強め、下肢静脈瘤が原因となった皮膚炎や浮腫の患者さんもよく紹介になります。
調理師や美容師、学校の教員など長時間立って仕事をする職業の人は、静脈瘤の手術をしても再発する可能性が高いので、クリニックに戻ってからも弾性ストッキングの着用など日常生活のケアが重要になります。
再発リスクの高い人には弾性ストッキングの指導を行って、その後、クリニックに戻っていただくということですか。
その通りです。再発リスクの高い立ち仕事に従事している患者さんには弾性ストッキングの履き方の指導を行います。履き方を指導する弾性ストッキング・コンダクターが当院外来に現在私を含め5名いて、自宅で履く練習などを患者さんに指導しています。立ち仕事の人は治癒しても半年ぐらいで再発するケースも多く、注意が必要です。きちんとフォローアップを行い、自宅では患者さんご自身に履いてもらうことが肝要です。
弾性ストッキングを履いてもらうためにどのような工夫をしていますか。
弾性ストッキングを履くためのデバイスや簡単に履くためのアイデアがいくつかあります。裏返しにして履く方法や滑り止めの付いているゴム手袋を用いて履く方法などです。患者さんにこのような方法を時間をかけて説明しますが、なかなか1回では覚えきれないので、繰り返し説明しています。
クリニックだけでなく他の総合病院とも提携していますか。
広島で下肢静脈瘤の治療を専門に行っている施設は、広島市内でも当院を入れて5施設ぐらいしかありません。基幹病院には下肢静脈瘤専門外来は少なく、例えば広島市民病院では癌や心疾患などの重篤な患者さんを中心に治療しているため、下肢静脈瘤の患者さんは基本的に当院に送られてきます。各施設で役割分担ができているという状態です。当院には三次市、庄原市、福山市などからも患者さんが来られますので、かなり広い範囲をカバーしています。
長年、下肢静脈瘤を專門に診てこられて、やりがいはありますか。
静脈瘤の手術をすると、翌日から足が楽になります。足に付いていたおもりが急に外されたような感覚ですので、手術後は患者さんにたいへん感謝されます。患者さんからの感謝の言葉がやりがいですね。
下肢静脈瘤治療における先生のモットーや診療理念があれば教えてください。
「70歳以上の方には積極的に治療を勧める」が私のポリシーです。人生観は人それぞれ異なりますが、「70歳代が幸せに送れるかどうか」は幸福な人生に大きく関わってくると思います。それまでの人生が順調でも、70歳になって大怪我で動けなくなっては必ずしも幸せとはいえません。逆にそれまでの人生があまりさえなくても70歳代を元気に過ごして、充実していれば幸せかもしれません。私はバラ色の70歳代を過ごしてもらうために足は軽い方がいいと思います。動けることが幸せの大きな要因だからです。30年ほど前は「手術は原則として70歳以下とする」と教科書に書かれていたものです。しかし、現在では70歳以上の多くの方が手術を受けられます。これにはレーザーやラジオ波を用いて低侵襲性の下肢静脈瘤治療が可能になったことが大きいと思います。
最後に下肢静脈瘤を診ることが多いかかりつけ医や内科の先生にメッセージをいただけますか。
下肢静脈瘤は命に関わらない一般的な疾患ですが、特に高齢者では治療をすることで足が非常に軽くなり、QOLも改善されます。今の症状と全く関係ないと思っても、疑いがあれば一度は専門医の受診をご考慮下さい。

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監修

孟 真先生(横浜南共済病院 心臓血管外科 部長)
松原 忍先生(横浜南共済病院 心臓血管外科 医長)

2019年6月現在

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