2018年2月公開
ここでは、実際に患者さんに医療用弾性ストッキングを選択・使用する際のポイントと注意点について解説します。
医療用弾性ストッキングには多くの種類(図1)があり、それぞれに長所と短所があります(表1)。それらを考慮し、サイズ、病態に合わせて選びます。下肢静脈瘤ではハイソックスタイプが第一選択になります。下腿の圧迫が最も重要であること、ストッキングタイプとハイソックスタイプとの比較では静脈還流の血行動態の改善度にあまり差がないこと、ハイソックスタイプの方が履きやすいことなどが理由です。また、つま先なしタイプとつま先ありタイプがあり(図2)、それぞれに長所と短所があります(表2)。
(平居正文.データとケースレポートから見た圧迫療法の基礎と臨床.メディカルトリビューン,2013,p.47)
長所 | 短所 | |
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ハイソックスタイプ |
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ストッキングタイプ |
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ベルト付き片脚 ストッキング |
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パンストタイプ |
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片脚用パンスト |
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(平居正文.データとケースレポートから見た圧迫療法の基礎と臨床.メディカルトリビューン,2013,p.48)
(平居正文.データとケースレポートから見た圧迫療法の基礎と臨床.メディカルトリビューン,2013,p.53)
長所 | 短所 |
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(平居正文.データとケースレポートから見た圧迫療法の基礎と臨床.メディカルトリビューン,2013,p.53)
医療用弾性ストッキングを履くことで足に圧力が加わり、これが血液のうっ滞を防ぎ、下肢静脈瘤の症状を改善します。したがって、症状や病態に合わせた適切な圧迫圧を選択することが極めて重要となります。その適正圧力は、病態や目的(むくみ予防か、深部静脈血栓症予防か、静脈瘤治療か、うっ滞性皮膚病変の治療か)によって異なります。また、治療効果は足関節部の圧迫圧により変わるため、その数値が大まかな指標となります(表3)。
20未満 | 血栓症予防、軽度静脈瘤、高齢者静脈瘤、他多疾患による浮腫 |
20~30 | 静脈瘤、静脈瘤抜去切除術後、硬化療法後 |
30~40 | 皮膚病変のある静脈瘤、血栓症後症候群、リンパ浮腫 |
40~50 | 下腿潰瘍を伴う下肢静脈瘤、重症血栓症後症侯群、 中等症リンパ浮腫 |
50以上 | 高度リンパ浮腫 |
(孟 真氏提供)
足がむくむ、足がだるい、足がつるという訴えは、下肢静脈の還流障害のサインかもしれませんし、単に立ち仕事が長いことや他の疾患が原因である可能性もあります。このような方が弾性ストッキングを着用すると楽になる場合があります。このような場合の圧迫圧は20mmHg未満が目安となります(表3)。患者さんが着用を希望しない場合は、今のところ下肢静脈瘤の進行予防に弾性ストッキングが有効であることを示す確固たるエビデンスはないので、一般的には推奨されません。
下肢静脈瘤の治療(保存療法)を目的に医療用弾性ストッキングを使用する場合、基本的には医師と相談しながら行います。圧迫圧は20~30mmHgが目安となりますが、病状、重症度に応じて選択します(表3)。また、ハイソックスタイプを使用する場合、ストッキングの上端により膝部の静脈瘤が圧迫されないように留意し、どうしても上端が静脈瘤の中心にきてしまう場合には別のタイプを選択します。これは圧迫により血栓性静脈炎を生じる危険性があるからです。また大伏在静脈や小伏在静脈に明らかな逆流があり、全身的に手術が可能な下肢静脈瘤患者さんには、血管内焼灼術を施行した方が弾性ストッキング着用の必要もなくなりQOLが向上します。
医療用弾性ストッキングの禁忌と慎重な使用が必要なケースについて説明します(表4)。
動脈血行障害を有する患者さんに医療用弾性ストッキングを使用した場合、血行障害をさらに悪化させる可能性があります。たとえ症状がなくても、足関節圧が65mmHgあるいは80mmHg未満、ABI(足関節血圧/上腕血圧比)が0.7あるいは0.6未満の患者さんには圧迫療法を行わない方が良いという意見もあります。糖尿病の場合は、それ自体は禁忌ではありませんが、血行障害が生じやすく、また神経障害のために発赤や食い込みなどの合併症を来しても発見が遅れがちになりますので、慎重な使用が望まれます。皮膚に炎症性疾患、化膿性疾患がある場合、圧迫で炎症が悪化することがあります。急性期で腫脹が強い深部静脈血栓症の患者さんの場合、圧迫により疼痛が増してしまいます。抗凝固療法を受けていない患者さんでは、肺血栓塞栓症の危険性もあります。うっ血性心不全の患者さんの場合は、圧迫により下肢血液の心臓への還流量が増加し、さらに心臓に負担がかかる危険性があります。高齢者などで理解力が不足している場合は、ご家族にも協力を求め、慎重な観察の下で使用する必要があります。
動脈血行障害 |
糖尿病 |
皮膚の急性炎症 |
急性期、疼痛の強い深部静脈血栓症 |
うっ血性心不全 |
患者の理解度不足 |
(孟 真氏提供)
医療用弾性ストッキングで注意すべき合併症について説明します(表5)。前述しましたが、動脈血行障害には特に注意が必要です。他にも、使い方や使用状態が悪いとさまざまな合併症が起こりやすくなります。しわやめくれ、食い込み、二重折りは局所的に圧迫圧の上昇を来し、駆血帯のように働き(ターニケット効果)、皮膚発赤、皮膚炎、かぶれの原因となり、かえって静脈の還流を阻害し浮腫を生じさせることがあります。浮腫があると皮膚損傷が起こりやすく、易感染性となります。また、血管だけでなく神経への圧迫も起こりやすくなります。腓骨骨頭部の圧迫では腓骨神経麻痺を起こすことがあります。着用中もこれら合併症をふまえた注意深い観察が必要です。これらは医療関連機器圧迫創傷の範疇になります。
動脈血行障害 |
びらん、潰瘍 |
ターニケット効果による浮腫 |
皮膚発赤、皮膚炎、かぶれ |
水疱 |
皮膚感染症、蜂窩織炎 |
腓骨神経麻痺 |
(孟 真氏提供)
下肢静脈瘤を正しく見極める
特集:下肢静脈瘤における医療用弾性ストッキングを用いた圧迫療法
-医療用弾性ストッキングの効果と使用目的 監修 孟 真先生
専門医施設リポート
もともと私は消化器外科が専門でしたが、たまたま心臓血管外科外来の手伝いをするようになり、そこで下肢静脈瘤の患者さんを診察することになりました...
私が赴任した1993年頃は、下肢静脈瘤の認知度がまだ低く、この疾患に悩まされている患者さんは何科を受診したらいいか分からないという時代でした...
開業は2000年6月です。最初は「白石心臓血管クリニック」という名前で、循環器内科と心臓血管外科を標榜していました...
監修
2019年6月現在