※パスワードの変更もこちらから
2023年3月公開
Part3 がん疼痛マネジメントの基本
Key point
|
1.痛みとは(がん患者の痛みとは)
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)は、痛みを「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」と定義しています1,2。がん患者さんが体験する痛みは、①がんによる痛み(がんの浸潤や転移に伴う痛み)、②がん治療による痛み(手術、化学療法、放射線治療など、抗がん治療に伴う痛み)、③がんやがん治療と直接関連のない痛み、の大きく3つに分類されます。痛みは主観的な症状であるため、患者さんが痛みを表現されたときには“必ずそこに痛みがある”という認識をもつことが重要です。
また、前項(全人的苦痛(トータルペイン)の項)で紹介したように、身体的苦痛である痛みは、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛によって影響を受けると言われています。トワイクロスは著書の中で、痛みの感じ方に影響する因子について、痛みを増悪する因子と、痛みを軽減する因子に分けて説明しています(表1)3。例えば、不安や抑うつがあると痛みを感じる閾値が低下し痛みを感じやすくなるかもしれません。また、ご家族や大切な方と過ごされているときには、痛みを忘れて談笑されている場面に出会うこともあるのではないかと思います。このように、痛みはさまざまな因子によって修飾されたり、痛みを感じる閾値が変化したりするため、痛みに対する支援を考える際には、痛みに影響を与えている因子をアセスメントすることが重要です。痛みのアセスメント項目は表24を参照ください。
表1 痛みの感じ方に影響する因子
増悪する因子 | 軽減する因子 |
---|---|
●怒り ●不安 ●倦怠感 ●抑うつ ●不快感 ●深い悲しみ ●不眠 ●痛みについての理解不足 ●孤独感、社会的地位の喪失 |
●受容 ●不安の軽減、緊張感の緩和 ●創造的な活動 ●気分の高揚 ●他の症状の緩和 ●感情の発散 ●睡眠 ●説明 ●人とのふれあい |
文献3を参考に作成
表2 痛みのアセスメント項目
日常生活への影響 | 痛みが、睡眠、食事、排泄、移動、入浴、更衣などの日常生活にどの程度影響を及ぼしているのか確認する |
---|---|
痛みのパターン | 1日のうちどれくらいの時間痛いのか、一過性の痛みなのか確認する |
痛みの強さ | 現在の痛み、一番強いときの痛み、一番弱いときの痛み、1日の平均した痛みについて評価する。その際、痛みの強さを数値化したNRS(Numerical Rating Scale)などを使うと治療効果判定や情報共有に有用である |
痛みの部位 | 痛みの部位は明確か不明瞭か。ボディチャートやデルマトームを使うとわかりやすい |
痛みの経過 | いつから痛みがあるのか、どのように痛みが始まり、その後増悪、不変、軽快しているかについて確認する |
痛みの性状 | 痛みの感覚を表現してもらう。例えば、体性痛だと「ズキズキ」「鋭い」、内臓痛では「鈍い」「重い」、神経障害性疼痛では「ビリビリ」「ジンジン」などと表現されることがある |
痛みの増悪因子と軽快因子 | 痛みが強くなる、または軽減する要因について確認する |
現在行っている治療の反応 | 定期的に服用している鎮痛薬の種類を確認し、処方内容と指示通り服用できているか、副作用症状と合わせて確認する |
レスキュー薬の効果と副作用 | 使用回数と効果の実感、服用時の副作用症状について確認する |
痛みの意味 | 患者がとらえている痛みの意味を把握する |
文献4を参考に作成
©DEARCARE Co., Ltd.