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2023年3月公開
Part3 がん疼痛マネジメントの基本
3.オピオイド鎮痛薬とは
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
がん疼痛に対する鎮痛治療には、適切なオピオイド鎮痛薬の種類、用量、投与経路を選択する必要があります。投与経路は、WHOがん疼痛治療ガイドラインで述べられているように、経口投与が基本となります。しかし、経口投与が困難な場合には、代替経路として、直腸内投与、経皮投与、持続皮下投与、持続静脈内投与などが選択されます(表6)。投与経路を変更する場合には、それぞれの投与経路によって鎮痛効果や用量が異なる場合がありますので、注意が必要です。投与経路の変更以外に、投与中のオピオイド鎮痛薬を変更する場合がありますが、これを「オピオイドスイッチング」と呼びます。オピオイドスイッチングとは、「鎮痛効果が不十分なときや、鎮痛効果を得るだけのオピオイド鎮痛薬を投与できないときに、投与中のオピオイド鎮痛薬から他のオピオイド鎮痛薬に変更すること」と定義されています1。以前に「オピオイドローテーション」と呼ばれていたもののことです。オピオイドスイッチングを行う際には、換算表を用いて(表7)、換算するオピオイドの投与量を求めます。オピオイドスイッチング後には、鎮痛効果と副作用出現の有無について慎重な観察が必要です。では、オピオイドスイッチングの適応にある「副作用」にはどのようなものがあるでしょうか?
表6 オピオイド鎮痛薬による各投与経路の比較
投与経路 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
経口投与 | ●侵襲がなく、簡便で経済的 | ●口内炎、嚥下障害、消化管閉塞、悪心・嘔吐、せん妄などには、他の投与経路への変更が必要 |
直腸内投与 | ●比較的簡便に投与でき吸収も速やか | ●投与の際に不快感を伴う ●直腸炎、下痢、肛門・直腸に創部が存在する場合や、重度の血小板減少・白血球減少時は投与を避ける ●人工肛門からの投与は効果が安定しないため、長期的な使用は推奨されない |
経皮投与 | ●内服が困難な場合でも選択可能 | ●迅速な投与量の変更が難しいため、原則としては疼痛コントロールが安定している場合に選択する ●貼付部位の皮膚の状態が悪い場合、発汗が多い場合は吸収が安定しない ●貼付部位の温度上昇で薬剤の放出が増加するため、発熱している患者や貼付部位の加温には注意が必要 |
持続皮下投与 | ●持続静脈と比べると侵襲が少なく、安全で簡便 ●投与量の変更が迅速に行えるので、疼痛コントロールの不安定な場合や、急速な用量の調整が必要な場合に良い適応となる |
●皮下への投与速度の上限は1mL/hとされており、高用量のオピオイドの投与が必要なときには、濃度をあげるか、持続静脈内投与への変更を検討する ●レスキュー薬として早送りした場合にも、痛みを生じない流量での使用が必要 ●皮下組織の刺激(痛み、発赤、硬結、壊死など)に注意する |
持続静脈内投与 | ●確実で迅速な効果が得られる ●高用量のオピオイド投与が可能 ●持続皮下投与ができない場合や凝固能の障害がある場合に適応となる |
●静脈ルートを確保する必要がある |
筋肉内投与 | ●吸収が不安定で、かつ投与時の痛みが強いため、緊急時の投与経路以外では、通常は行わない | |
経口粘膜投与 | ●経口投与に比べて吸収が速やかであるため、突出痛に対するレスキュー薬の投与経路として選択される | ●正しい使い方の指導が必要である(経口投与してしまうと生体内利用率が低下する) ●口腔内病変、口内炎、乾燥などがあると使用できない |
文献2,3を参考に作成
表7 オピオイドスイッチングの換算表(目安)
投与経路 | 静脈内・皮下投与 | 経口投与 | 直腸内投与 | 経皮投与 |
---|---|---|---|---|
モルヒネ | 10~15mg | 30mg | 20mg | |
コデイン | 200mg | |||
トラマドール | 150mg | |||
ヒドロモルフォン | 1~2mg | 6mg | ||
オキシコドン | 15mg | 20mg | ||
フェンタニル | 0.2~0.3mg | 0.2~0.3mg | ||
タペンタドール | 100mg |
文献2より引用
オピオイド鎮痛薬による副作用は、悪心・嘔吐、便秘、眠気、せん妄・幻覚、呼吸抑制、口内乾燥、掻痒感、排尿障害、ミオクローヌス、けいれん、痛覚過敏、起立性低血圧、発汗、など、さまざまなものがあります。代表的な副作用(オピオイドの三大副作用)は、悪心・嘔吐、便秘、眠気です。悪心・嘔吐に対しては、耐性ができるため3~7日程度で改善すると言われていますが、制吐薬での対応も可能です。眠気も耐性ができるため3~5日程度で改善すると言われています。眠気が不快な場合には、投与中のオピオイド鎮痛薬を減量するか、オピオイドスイッチングを検討します。便秘は耐性が生じないので、下剤(大腸刺激性下剤、浸透圧下剤)や末梢性オピオイド受容体拮抗薬(ナルデメジン)を使用します。オピオイド鎮痛薬の副作用については、患者さんやご家族にあらかじめ説明するとともに、その対応について保証することが重要です。
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