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2023年3月公開
Part3 がん疼痛マネジメントの基本
2.がんの痛みのガイドライン
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
2020年に日本緩和医療学会がまとめた『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』1の背景知識とWHOがん疼痛治療ガイドラインをもとに、痛みについて少し詳しく見ていきましょう。なお、ガイドラインについての詳細な説明とクリニカルクエスチョン(CQ)は扱いませんので、詳細についてはガイドラインをご覧ください。
痛みは大きく、「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に分けられ、侵害受容性疼痛は「体性痛」と「内臓痛」に分けられます(表3)1,2。「体性痛」は、体性組織(皮膚、骨、関節、筋肉など)への切る、刺す、重力がかかるなどの機械的刺激が原因で発生する痛みで、非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)やオピオイド鎮痛薬が効きやすいと言われています。「内臓痛」は、管腔臓器(食道、胃、小腸、大腸、胆のうなど)の炎症や閉塞、圧迫が原因で発生する痛みで、これもNSAIDsやオピオイド鎮痛薬が効きやすいと言われています。
表3 痛みの神経学的分類とその特徴
分類 | 侵害受容性疼痛 | 神経障害性疼痛 | |
---|---|---|---|
体性痛 | 内臓痛 | ||
例 | ●骨転移の痛み ●手術後早期の創部痛 ●筋膜や筋骨格の炎症に伴う痛み |
●消化管閉塞に伴う腹痛 ●肝臓腫瘍内出血に伴う上腹部痛、側腹部痛 ●膵臓がんに伴う上腹部痛、背部痛 |
●がんの腕神経叢に伴う上肢のしびれ感を伴う痛み ●脊椎転移の硬膜外浸潤、脊髄圧迫症候群に伴う背部痛 ●化学療法・放射線治療による神経障害 |
痛みの特徴 | ●局所的な持続痛 ●体動にて増悪 ●例:「うずくような」「鋭い」「拍動するような」痛み |
●局在が不明瞭 ●例:「深く絞られるような」「押されるような」痛み |
●障害神経支配領域の痺れ感を伴う痛み ●例:「電気が走るような」「灼けるような」「ピリッとするような」痛み |
鎮痛薬の効果 | ●非オピオイド鎮痛薬、オピオイドが有効 ●廃用による痛みへの効果は限定的 |
●非オピオイド鎮痛薬、オピオイドが有効だが、消化管の通過障害による痛みへの効果は限定的 | ●鎮痛薬の効果が乏しいときには、鎮痛補助薬の併用が効果的な場合がある |
文献1,2を参考に作成
神経障害性疼痛は、神経の直接的な損傷などが原因で発生する痛みで、オピオイド鎮痛薬は効きにくく、鎮痛補助薬の併用を考慮する必要があります。痛みはさらに、持続時間で「持続痛」と「突出痛」に分けられます。「持続痛」は「1日のうち12時間以上持続する痛み」と定義され、定期的に投与される鎮痛薬を用いて緩和をはかります。「突出痛」は「定期的に投与されている鎮痛薬で持続痛が良好にコントロールされている場合に生じる、短時間で悪化し自然消失する一過性の痛み」と定義され、予測できるものと予測できないものに分けられます(表4)。
表4 突出痛の分類
突出痛 | 体性痛 | 内臓痛 | 神経障害性疼痛 | ||
---|---|---|---|---|---|
予測 | 可能 | 歩行、立位、座位保持などに伴う痛み(体動時痛) | 排尿、排便、嚥下、咳嗽などに伴う痛み | 姿勢や体動による神経圧迫などの刺激に伴う痛み | |
不可能 | 誘因あり | ミオクローヌス、咳嗽など不随意な動きに伴う痛み | 腸管や膀胱の攣縮などに伴う痛み(疝痛など) | 脳脊髄圧上昇や、不随意な動きによる神経の圧迫 | |
誘因なし | 特定できる誘因がなく生じる突出痛 |
文献1を参考に作成
世界保健機関(WHO)から報告された、WHOがん疼痛治療ガイドラインでは、がん患者に対する鎮痛治療の原則を表5のように説明しています3。このガイドラインの初版は1986年に出版され、第2版が1996年に、そして2018年には改訂版が報告されました。大きな変更点は、鎮痛薬使用の5原則から「除痛ラダーにそって(by the ladder)」が削除され、4原則に変わっています(表5-⑥)。また、この「ラダー」が削除されたため、馴染みのある「3段階除痛ラダー」も削除されました。ただし、3段階除痛ラダー(図1)が不要になった、というわけではなく、「教育のためには有用なツール」として付録(Annex)にまとめられています。次に、がん疼痛のマネジメントで使われる、オピオイド鎮痛薬について見ていきましょう。
表5 WHO疼痛ガイドラインによるがん患者に対する鎮痛治療の原則
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文献3を参考に作成
図1 3段階除痛ラダー
文献3より引用
©ALCARE Co., Ltd.