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2023年3月公開
Part1 がん患者の緩和ケア
Key point
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あなたは、「緩和ケア」という言葉を聞いたとき何を思い浮かべますか? 「緩和ケア」の目的は、症状を緩和することでしょうか? ここでは、「緩和ケア」の基本について考えてみたいと思います。
1.緩和ケア(Palliative care)とは
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
角甲 純
三重大学大学院医学系研究科 看護学専攻
実践看護学領域(がん看護学分野)教授
がん看護専門看護師
世界保健機関(World Health Organization:WHO)は、緩和ケアを「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者(成人と小児)とその家族のQuality of Life(QOL)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」と定義しています1。
緩和ケアの対象は、1990年には「治癒を目的とした治療が反応しなくなった疾患をもつ患者」とされていましたが、2002年には「生命を脅かす可能性のある疾患をもつすべての患者とその家族」に変更されています(図1)。WHOは、緩和ケアを必要とする主な疾患として、心血管疾患やがん、慢性呼吸器疾患、後天性免疫不全症候群、糖尿病をはじめ、他にも幅広い疾患を挙げ、緩和ケアの目標を、「患者や家族のQOLを向上させること」と説明しています。
図1 WHOによる1990年と2002年に報告されたがん治療と緩和ケアの関係(がん医療の場合)
それでは、QOLとは何でしょうか。QOLは「生活の質」と訳されますが、WHOは「生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する個人の認識」と定義される包括的な概念だと表現しています2。がん患者さんやご家族は、がんに罹患することやがんに関連した症状を経験すること、また、ときにはがん治療を経験するなかで、さまざまな苦痛を体験する可能性があります。
英国の医師シシリー・ソンダース(Cicely Saunders)は、終末期がん患者さんとのかかわりを通して、全人的苦痛(total pain:トータルペイン)の概念を提唱しました。その概念によると、患者さんが抱える苦痛は、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアル(霊的)な苦痛で構成され、多面性があると言われています(図2)。したがって、私たちケア提供者は、患者さんやご家族にとって最良のQOLを達成できるように、QOLを多面的にとらえる必要があります。
図2 全人的苦痛(トータルペイン)
この図を見るとわかるように、全人的苦痛とは、多面的に構成される概念であり、それぞれが独立して存在するのではなく、互いに影響し合うものだと考えられています。例えば、身体的苦痛では、痛みや痛み以外の身体症状が該当しますが、身体的苦痛を体験することで、精神的苦痛の閾値を下げてしまう可能性があります。精神的苦痛の閾値が下がると、不安や苛立ちを感じやすくなるかもしれません。また、患者さんの多くは、複数の苦痛を抱え、またその苦痛が複雑に関連しあっている可能性があります。そのため、全人的苦痛の側面にあわせてアセスメントするだけでなく、どの側面のどの苦痛が、患者さんやご家族の最良のQOLの達成を妨げているのかを考えることが重要です。
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