2024年5月公開
Part3 排尿アセスメントのための問診の進め方
谷口 珠実
山梨大学大学院総合研究部医学域
看護学系 看護学講座
看護学科長、教授
谷口 珠実
山梨大学大学院総合研究部医学域
看護学系 看護学講座
看護学科長、教授
問診では、現在の排尿の状態が正常か異常かを判断するために、排尿回数(日中と夜間)、尿意の有無、尿意切迫感の有無、排尿時疼痛や蓄尿時痛の有無、尿勢、排尿姿勢、排尿開始までの時間、排尿開始から排尿終了までの時間、腹圧排尿の有無を尋ねます。
次に、下部尿路症状(表1参照)の有無、症状の発症時期や状況の変化、随伴症状や動作に付随した失禁の状況、失禁の頻度(毎日、週に2~3回、1か月に2~3回など)、失禁の量(1回、またはおむつ交換時)、おむつやパッドの使用状況と1日の使用枚数を尋ねます。また、失禁や頻尿など困っている症状に対する本人の認識と対処方法や工夫について情報を得ます。
表1 下部尿路症状(Lower Urinary Tract Symptoms; LUTS)
蓄尿症状 | 頻尿(昼間、夜間)、尿意切迫感、尿失禁(切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁 など)、膀胱知覚 など |
排尿症状 | 尿勢低下、尿線分割・散乱、尿線途絶、排尿遅延、腹圧性排尿、終末滴下 など |
排尿後症状 | 残尿感、排尿後尿滴下 |
本間之夫,他:下部尿路機能に関する用語基準:国際禁制学会標準化部会報告,日本排尿機能学会誌 2003;14(2):278-289.を元に作成
全身の影響要因となる、既往歴と使用薬剤、栄養状態と食事や飲水の摂取量、排便状態を確認します。
既往歴では、神経疾患や糖尿病、骨盤内臓器の手術歴、脳梗塞やパーキンソン病など、神経因性膀胱となり排尿の調整が困難になる疾患や骨盤臓器脱や前立腺肥大症など排尿に直接影響する疾患と治療の有無の情報を収集します。
そして、服薬している薬剤の有無と薬剤による排尿への影響について調べます。降圧薬、精神安定薬、糖尿病治療薬、抗アレルギー薬、前立腺治療薬、便秘薬、筋弛緩薬、利尿薬、カルシウム拮抗薬、交感神経刺激薬などが、排尿に影響することもあるため、薬の影響もアセスメントします。
1)具体的な下部尿路症状と程度を把握するための問診内容
「我慢できないくらい尿がしたくなる(過活動膀胱:OAB-dry)」「我慢できずに尿が漏れる(過活動膀胱:OAB-wet、切迫性尿失禁)」「咳・くしゃみ・運動や階段昇降など動いた時に尿が漏れる(腹圧性尿失禁)」「尿の勢いが弱い(尿勢低下)」「排尿時に腹圧をかけないと排尿できない(腹圧排尿)」「尿をしたあとに、まだ残っている感じがする(残尿感)」「下腹部や膀胱に痛みがある」「尿道に痛みがある」などは、下部尿路症状との関連症状として代表的な訴えです。このような症状があれば、程度により治療の対象となるため、主治医と検討されるとよいでしょう。
訴えが複数ある場合には、どの訴えが最も辛いのか、最も困る症状は何かということを把握します。併せて、症状が続いたときのQOLについて満足されているか、あるいはとても嫌だと感じているか、気持ちも尋ね、困り具合や嫌な気持ちが強い場合には、治療を積極的に取り入れることができます。
2)尿失禁がある場合の状況と程度、QOL
尿失禁がどのような状況で生じるかを尋ねると、その病態が推察されます。例えば、「咳やくしゃみをしたときに漏れる」「身体を動かしているときや運動しているときに漏れる」のは、腹圧性尿失禁の可能性が高くなります。「トイレにたどり着く前に漏れる」のは切迫性尿失禁に多くある訴えです。「排尿を終えて服を着た時に漏れる」のは排尿後尿滴下(アフタードリップ)という状況かもしれません。上述の原因に当てはまらない「眠っている間に漏れる」ことや「理由が分からず漏れる」「常に漏れている」場合には、溢流性尿失禁を疑い、治療が可能であれば検査をすることをお勧めします。
治療には、尿漏れの頻度(1週間や1日の回数)と尿失禁の量(少量・中等量・多量)、と生活への影響(QOL)を考慮します。
3)過活動膀胱、切迫性尿失禁の診断や状況把握のための問診内容
過活動膀胱は、強い尿意切迫感の有無と頻尿の主訴を評価して診断や治療を行います。昼間の覚醒時と、夜寝てから朝起きるまでの、排尿の回数と、「急に尿がしたくなり」、「我慢が難しいか」そして「我慢できずに尿を漏らすことがあるか」を問い、その程度として症状が1日に何度あるかを尋ねます。診断時には、過活動膀胱症状質問票(OABSS)を用います。
4)排尿困難(尿が出にくい)の症状を把握するための問診内容
前立腺肥大に伴う排尿困難の状況を知るための質問では、「排尿後に尿がまだ残った感じ」「排尿後2時間以内にもう一度行く」「排尿途中に尿が途切れる」「排尿を我慢するのがつらい」「尿の勢いが弱い」「排尿開始時にいきむ必要」という排尿症状があるか問います。
女性でも、尿が出にくいという訴えを詳細に把握するために同じ内容を尋ねることで、排尿症状の程度を把握することができます。
*
上記の下部尿路症状を把握する質問票の代表的なものには、主要下部尿路症状質問票(CLSS)、ICIQ-SF日本語版、過活動膀胱症状質問票(OABSS)、国際前立腺症状スコア(IPSS)があります。
©DEARCARE Co., Ltd.